営業評価がR&Dを短期小粒テーマに引き戻す理由

営業の評価制度が R&Dを短期・小粒テーマに引き戻す理由知ってますか?

(要約)製造業のR&Dが短期小粒テーマに追われる背景には、営業の売上評価があります。営業が取ってきた顧客要望対応案件が開発テーマとなり、R&Dも納期達成で評価される。この構造が、中長期テーマへの資源配分を難しくしています。

製造業のR&Dが中長期テーマに向かいにくい理由を考えるとき、多くの企業は「現場の発想力不足」や「テーマ創出力の不足」を疑います。しかし、筆者の経験では、もっと手前にある構造問題を見落としていることが少なくありません。それが、営業の評価体系が、開発テーマの構成そのものに影響を与えているという問題です。

営業は一般に、売上や受注に強く結びついた評価を受けます。そのため、目先の売上につながる案件を優先して取りに行きます。具体的には、小改善、試作、仕様調整、不具合対応といった顧客要望対応です。これらの案件は、そのままR&Dに流れ込み、開発テーマになります。そしてR&D側も、納期や目標達成で評価されやすいため、短期案件を優先しやすくなります。

このようにして、営業の短期成果志向が、R&Dのテーマ構成に持ち込まれます。本稿では、この構造を整理し、なぜそれが「短期小粒テーマばかり増える状態」を生みやすいのかを解説します。

営業は売上偏重、R&Dは顧客要望対応への納期遵守偏重となり、営業の評価論理がR&Dへ流れ込む構造を示す図
営業評価の短期偏重がR&D評価に波及する構造

なぜ営業は顧客要望対応を取りに行くのか

営業が顧客要望対応を取りに行くのは、単に現場の癖ではありません。評価の仕組みと整合しているからです。営業は多くの場合、売上や受注達成に強く結びついた評価を受けています。すると、将来の大きな成長テーマよりも、今期や来期の売上に結びつく案件が優先されやすくなります。

そのとき取りやすいのが、顧客からの細かな要望です。たとえば、現行品のちょっとした改善、試作品の対応、仕様変更への追随、不具合への対策などです。営業としては、「小さなことでも対応できます」と伝える方が、顧客との接点を増やし、案件化もしやすくなります。現場感覚としては自然な行動ですが、評価の観点から見ればさらに合理的です。

つまり、顧客要望対応は、営業の親切心だけで増えるのではありません。目先の成果に紐づいた営業評価が、顧客要望対応を取りに行く動機を強めているのです。資料でも、一般的な営業評価は「売上」中心であり、その達成行動として「売上ノルマ達成のために、顧客から改良要望をもらう」と整理されています。


小改善、試作、仕様調整はなぜ開発テーマになりやすいのか

営業が持ち帰った顧客要望は、そのままR&Dに流れ込みます。ここで重要なのは、顧客要望対応が単なる問い合わせでは終わらず、開発テーマとして扱われやすいことです。顧客からの要望には納期があり、優先順位も付きやすく、担当者も決めやすいため、社内では「管理しやすい案件」として扱われます。

しかも、これらの案件は顧客との関係維持や短期売上につながる可能性があるため、断りにくいという事情があります。結果として、R&Dは本来取り組むべき中長期テーマよりも、すぐに締切が見える顧客要望対応を優先しやすくなります。

資料でも、会社計画が営業を通じてR&Dに落とし込まれると、短期的成果のためにリソースが使い尽くされるとまとめられています。
つまり、テーマが短期化するのは、現場が怠けているからではなく、顧客要望対応がテーマ化しやすい運用構造があるからです。


顧客要望対応が「貧乏暇なし」を生みやすい理由

顧客要望対応のやっかいな点は、仕事量のわりに利益が大きくなりにくいことです。小改善、試作、仕様調整、不具合対応は、どれも一定の工数を要します。しかし、それが大きな粗利や差別化につながるとは限りません。むしろ、同じような対応を繰り返すほど、R&Dの時間は細かく分断され、中長期テーマへの集中投資が難しくなります。

この状態は、一見すると「現場が忙しい」「案件がたくさんある」ように見えます。しかし収益面から見ると、必ずしも良い状態ではありません。仕事はあるのに、将来の競争優位につながるテーマが育たないからです。少し厳しく言えば、貧乏暇なしになりやすい構造です。

資料の前半でも、「小粒、儲からないテーマが多い」「顧客要望に対応して、貧乏暇なし」という問題意識が提示されています。
この問題意識は、営業とR&Dの評価体系が連動した結果として理解すると、よりはっきり見えてきます。

小粒で儲からないテーマが増え、顧客要望対応で忙しくなる一方で中長期テーマに投資できなくなる問題構造を示す図
小粒・儲からないテーマが増えると何が起きるのか

営業の評価論理はどのようにR&Dへ流れ込むのか

ここで本質的なのは、営業とR&Dが別々に短期化しているのではなく、営業の評価論理がR&Dへ流れ込んでいることです。営業が売上中心で評価されると、営業は短期案件を増やす方向に動きます。その案件をR&Dが受け入れることで、開発テーマの構成も短期化します。

R&D側から見ると、営業が持ってくる案件は「断りにくい案件」です。顧客との関係がかかっており、売上の可能性もあり、社内での優先順位も高く設定されやすいからです。すると、R&Dは中長期テーマに取り組みたくても、まず営業案件を処理するしかない、という状態になりやすくなります。

資料では、この流れが「よくあるケース:営業の影響を受ける評価」として図示されています。営業は業績評価偏重、開発も業績評価偏重になり、営業の設定する評価に合わせて、R&Dでも短期的評価に偏重すると整理されています。

つまり、R&Dの短期化はR&Dだけの問題ではなく、営業評価から始まる全体構造の問題なのです。


R&Dはなぜ納期達成型の評価になりやすいのか

R&Dの評価が短期化しやすいもう一つの理由は、納期や目標達成の方が評価しやすいからです。中長期テーマの探索には、顧客課題の調査や用途探索、競合分析、仮説構築などが必要ですが、これらは成果が見えるまでに時間がかかります。しかも、何をもって成果とするかが曖昧なままだと、評価が難しくなります。

それに対して、顧客要望対応案件は評価しやすいのです。何をやるかが明確で、納期が設定しやすく、完了・未完了も判断しやすいからです。そのため、R&Dの評価指標は、自然と納期達成型になりやすくなります。

資料の評価枠組みでも、R&Dの短期評価項目として「開発納期遵守」「開発目標達成」「品質基準遵守」が並んでいます。理論上は中長期行動も評価できるのに、現実の運用では短期評価に偏りやすいことが示されています。
つまり、R&D側の短期評価もまた、制度の欠陥というより、評価しやすいものに寄ってしまう運用上の傾向なのです。

R&Dでは開発納期遵守や目標達成が短期評価に置かれ、問題設定力や仮説思考など中長期行動は理論上評価可能だが運用上は弱くなりやすい図
R&Dは中長期行動も評価可能な建て付けだが、運用は短期に寄りやすい

短期小粒テーマ偏重から抜け出すには何を変えるべきか

この構造から抜け出すには、「営業にもっと長期視点を持て」と言うだけでは足りません。必要なのは、営業とR&Dの両方で、中長期テーマにつながる行動を正式に評価対象にすることです。

営業であれば、顧客要望対応を拾うだけでなく、顧客課題の調査、潜在ニーズの仮説構築、提案設計といった行動を評価対象にする必要があります。R&Dであれば、納期達成だけでなく、用途探索、競合分析、顧客課題調査、F軸仮説づくりといったプロセスを評価可能にしなければなりません。

資料でも、「10%ルールでは足りない」「プロセスの定義されていない不安定な業務に短い時間が割り当てられているだけ」と整理されており、中長期プロセスそのものを評価に組み込む必要があると述べられています。
つまり、短期小粒テーマ偏重を変えるには、R&Dの努力だけでなく、営業評価とR&D評価の接続部を見直すことが必要なのです。


FAQ よくある質問

Q)なぜ営業評価がR&Dのテーマに影響するのですか

営業が売上中心で評価されると、短期受注につながる顧客要望対応案件を増やす方向に動きます。その案件がR&Dテーマ化されるため、結果として開発テーマ全体も短期案件寄りになります。

Q)顧客要望対応はなぜ短期小粒テーマを増やすのですか

顧客要望対応は納期や内容が明確で管理しやすく、社内でも優先順位が付きやすいからです。そのため、中長期テーマより先に着手されやすくなります。

Q)小改善案件はなぜ利益が出にくいのですか

一定の工数がかかる一方で、大きな差別化や高粗利につながりにくいからです。案件数が増えるほど、R&Dの時間が細かく分断され、中長期テーマへの投資が難しくなります。

Q)R&Dはなぜ納期達成型の評価になりやすいのですか

納期達成や目標達成は測定しやすく、評価しやすいからです。中長期テーマの探索活動は成果が見えるまでに時間がかかるため、運用上は後回しになりがちです。

Q)営業主導の短期化を防ぐには何を変えるべきですか

営業とR&Dの両方で、中長期テーマにつながるプロセスを評価対象に変えることです。営業なら顧客課題調査、R&Dなら用途探索や競合分析などを正式な業務として評価可能にする必要があります。

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