実践的な技術戦略の立て方その⑤ キーテクノロジーの導出

今月のコラムは、実践的な技術戦略の立て方その⑤、「キーテクノロジーを導き出す」です。

キーテクノロジーと聞くと、それってなに?どういうメリットがあるの?と思われるのではないでしょうか。キーテクノロジーとは、コア技術のことで、「競争優位性を発揮する技術のこと」ですが、競争優位性があると儲かるのは当然です。

そう、キーテクノロジーを導き出せると儲かるのです。

最近の事例では、業績が鮮明に分かれた自動車会社があります。トヨタとそれ以外の収益が大きく分かれました。

図1 自動車7社の営業損益(20年3月期)

出典 日経クロステック https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04249/

その相違はトヨタの低コスト化技術と、ハイブリッドを中心とした低燃費技術が生み出したものです。最新の燃費ランキングによれば、上位5車種はトヨタが独占。上位10車種までに拡大しても8車種をトヨタが占めています。

出典:e-燃費.COM https://e-nenpi.com/enenpi/  2020年8月17日調べ

なお、トヨタのハイブリッドシステムについてはこちらの記事も参考にしてください。https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00031/00004/

トヨタは低コスト化と低燃費というキーテクノロジーを早期に見極めて磨きをかけてきた訳ですが、それが現在の収益につながっています。

このように、キーテクノロジーの導出法を知ることには大きなメリットがあります。今日のコラムを読むことで、次世代の事業に必要となるキーテクノロジーの導出方法について学ぶことができますので、ぜひお付き合いください。

キーテクノロジーの導出法

キーテクノロジー導出と言っても、競合から考えていけば良いのか?顧客課題から考えていけば良いのか?自社の強い技術から考えていけば良いのか?わかりにくいと思います。

確かに、コンサルティングの現場では、3つのやり方のうち、クライアントに合ったやり方を提案して実行するのが普通で、専門的です。しかし、その細かい話をしても仕方がないので、今日は、一例として、簡単なツールをご紹介したいと思っています。

その簡単なツールとは、「VFTマトリックス」と言うものです。VFTマトリックスを使うことによって、誰でも簡単にキーテクノロジーを導き出すことができますので、ぜひ参考にしてほしいと思います。

ところで、私事ですが、先日大雨が降ってきたので部屋干ししていた所、蚊がいたので蚊取り線香を炊いたところ、蚊はいなくなった気がするのですが、洗濯物に匂いがついてしまいました。翌日から愛用風呂上がりタオルは蚊取り線香の匂いがしまして、お風呂上がりに嗅ぐ匂いはしばらく蚊取り線香となりました、、、(笑)。

VFTマトリックスはこの蚊取り線香の事例で説明したいと思います。

私は線香の匂いが嫌いではないのですが、洗濯物についてしまうのは嫌です。こうした声を持っているのは私だけではないだろうと思います。

「クレームは宝の山」と言いますように、こうしたお客様の不満というのはヒントが満載です。技術者が、「匂いがつくのが嫌」だと知ると、臭いがつかないような技術を開発するとか、そもそも匂わないようにする技術を考える必要があります。

このようなタイミングでVFTマトリックスを作成すると、以下のようになります。顧客価値を抽出し、顧客価値を実現する機能を表現し、それを実現する技術仮説を記載するものです。

なお、ここでお示ししたVFTマトリックスは、コラム用に簡便にしたもので、実際に企業で使うシートは項目数が多く、技術者が直感的に分かるような内容です。

上記のように、左に顧客価値、右に実現する機能、そして技術仮説を書いていきます。

さて、次のステップを見てみましょう。

キーテクノロジーの導出の次のステップ

技術仮説として、図で示したA仮説とB仮説があります。蚊取り線香を作る技術者の視点で思いついた内容を書きます。なぜ仮説かというと、例えば、A仮説にある「粒子径」やB仮説の「空気中に漂わせる」などの技術を、技術者が考えたことが無いからです。そのため、あくまでも仮説にとどまるのです。

このような価値から技術へという思考方法は誰しもやっていると思いますが、VFTマトリックスをわざわざ書くのは、書かなければ思いつきのアイデアで終わり、ほぼ検証しないで終わってしまうからです。また、マトリックスがなければもれなくアイデアを出せず、網羅性がないのです。

せっかく有用情報が得られても、きちんと検討されたものでなければいい結果に繋がりません。きちんとした検討とは、網羅性や次に示す検証のことです。

せっかく書いた仮説は検証する必要があります。そこで、A仮説については「繊維表面に引っかからない粒子径」があるかを技術探索します。B仮説についても同様です。

学術情報や知財情報を使いながら該当する技術に訪ね当たるまで技術探索をします。ここで、効率のよい探索方法は適切なデータベースや検索式による検索です。Google検索などでも、検索条件次第でかなり精度のよい技術を検索することができます。

技術探索の結果、A仮説(粒子径制御による繊維付着防止)は技術的に難しいことが分かる一方、B仮説には候補技術が見つかったとしましょう。そうすると、下図の様になります。

上図に示す通り、B仮説は殺虫成分を空気中に漂わせる技術でしたが、技術探索の結果、超音波等によって霧状にして雰囲気中に噴霧していくという考え方ができました。加湿器の要領で液体殺虫剤を空中に噴霧するものです。粒子径を制御することで比表面積(質量/表面積)を最適化して空中に漂う時間を制御します。

このような商品、世の中にありますよね。そう、液体蚊取りです。

出典:大日本除虫菊株式会社(キンチョー)

VFTマトリックスでできるキーテクノロジー導出

ここで、このような技術開発をすることで得られるものは何かを考えてみましょう。

市場も技術も成熟化した市場では差異化要素がなくて利益率は徐々に低下します。蚊取り線香も例外ではありません。

この事例では、成熟市場の顧客価値から霧状の噴霧技術というキーテクノロジーを導きました。この技術には2つのメリットがあります。一つは、仮に競合調査の結果、競合が研究開発していないとすると、差異化要素になりえます。2つ目には、蚊取り線香に必要な基材(燃えて煙になる材料)が必要ありませんので、原価低減になる可能性もありえます。

本当にそうなるのか?の確認はきっちりとしなければなりませんが、差異化もでき、コストも安いとなると、いち早く研究開発して知財を押さえて模倣されないようにする必要があります。

そもそも考えてみると、殺虫という価値に対して煙を出すことはなんの寄与もしていません。煙はあくまで殺虫成分を空気中に漂わせるためのものであって、直接霧状にしたほうが良いわけです。量のコントロールもオンオフ制御も容易です。目的に対して、より理にかなった技術といえます。

つまり、このような技術開発に成功することで目的をローコストで達成できるというわけです。霧状にする技術は、将来の事業を支えるようなキーテクノロジーになります。

上記のようにして、キーテクノロジーを導出する一例を示しました。実際、VFTマトリックスでアイデアを出していくと、様々なアイデアが出てきますので、ぜひ使ってみてほしいと思っています。

そして何よりも重要なのは、このような考え方が技術者に浸透することです。技術者がこうした考え方を使いこなして定着すると非常にいい結果を生み出しますので、定着を狙った施策をしてみてください。

ところで、先月のコラムで「従来比5倍の来場者」と言っていた8月のセミナーは、蓋を開けてみるとさらに倍の10倍。実に139人の参加者となりました。ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。

セミナー来場者に提供する顧客価値を考えるべく、私自身も「キーテクノロジー」を開発し続けた結果だと思っています。ぜひ、価値から技術への流れを考えていただくようにおすすめします。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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