実践的な技術戦略の立て方その⑦ キーテクノロジーを抽出するには?
~儲かる理由を設計するにはどうすれば良いのか? ~

仕事の都合で月曜日のアポイントに合わせて東京に来たのですが(筆者は地方在住者です)、実は、昨日も今日もそして明日もホテルからのWEB会議です。クライアント(東京)と私(東京)でのWEB会議ということで、この時期ならでは感を感じています。こんな時期はもうしばらく続きそうですね。

「コロナ禍で仕事がストップしてしまっている」という会社もあるかも知れませんが、私のクライアントでは、WEBでもリアルでも仕事を前に進めています。中には「こんな時期だからこそできることがある」と鼻息の荒い経営者の方もいますし、私もその見解に賛同します。

コロナを理由に止めるか、進めるかで、コロナ明けの成否が定まりそうですね。非対面で収益を上げたり、研究開発の成果を上げたりすることが大切と実感します。

さて、今日のコラムは、儲かるための重要技術の抽出についてです。これを読んで頂くことで、中長期的な視点で見た場合に自社で強化しなければならない重要技術を見極める視点が得られます。これから技術戦略を立てようとする方に役立つ内容です。

前回まで、「技術戦略の立て方」と題して、技術の棚卸しやテーマの創出、テーマの評価までを説明してきました。今回はその流れを受けて、出来上がったテーマを絞り込むということについて解説したいと思います。

最初に重要技術について説明しておきたいと思います。「重要技術」と言っても何を意味するのかわかりにくいですよね。そこで例を取ると、ダイソン社とその商品があります。ダイソンといえば、サイクロン掃除機、扇風機、ドライヤー、最近では手指乾燥機(コロナ禍で止められている製品)などが思い浮かぶのではないでしょうか?

ダイソン製品で共通する技術となっているのは、そう、流体に関するものですよね。ここでは流体制御と言いましょう。そして、ダイソン自身は「デジタルモーター」と称してモーターの技術も保有していると説明しています。

参考URL https://www.dyson.co.jp/medialibrary/Files/Brochures/JP_Brochures/DC48_GENE_JP_RANGEBROCHURE.pdf

ダイソンの事業の発展は?

ダイソン事業の日本での商品展開は、掃除機に始まり、扇風機に発展し、ヘアドライヤー、その後手指乾燥機というものでしたが、このような事業発展を、技術を中核にしてまとめると、図のようになります。

この図からは流体制御技術やデジタルモーター技術が商品の中核的な性能として利用されていることが分かります。

このように、技術を元にして事業を展開することのメリットが2つあります。一つは、商品を見据えた基礎技術の研究ができることです。流体制御やモーターに関する技術を磨いていくことで商品の性能を飛躍的に向上させることができます。そのため、流体制御やモーターの技術者はそれらの商品を見据えた研究開発ができます。

二つ目は、同じ技術で複数の事業が立ち上がるため投資対効果が良いです。同じ流体制御やモーターの技術でありながら、出口となる事業は前述したとおり少なくとも4つあります。商品で見れば相当数に貢献していることになります。

ただ、残念ながら、ダイソンではこのような事業発展を事前に計画していたかは分かりません。ダイソンCEOの創業時のインタビューなどを見ても、掃除機を作ることに情熱を燃やしていたことは分かっても、事業発展のことまで触れておらず、もしかすると、最初に計画などなかったのかも知れないな、と思われます。

しかし、私達がこれから作ろうとする技術戦略においては、強い技術をもとにして事業発展させることを「計画的に」成し遂げたいと思いませんか?

事業発展は行き当たりばったりで良いのか?

繰り返しになりますが、ダイソン社では、強い技術で複数の事業・多数の商品を支えているのですが、このような技術の発展は投資対効果が良いわけです。このような事業発展にするためには、どのような考え方が必要でしょうか?

これには少なくとも3つのステップが必要です。

一つ目は、自社技術の用途を分析することです。この方法についてはすでに触れました。方法の詳細はこちらをご覧ください。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00662/00019

用途分析は、自社技術を核にして用途を探索することです。上記図のようなものを「アプリケーションマップ」と呼びますが、このような資料を作成して、テーマを明確にすることが重要です。

二つ目は、このようなテーマを深堀り検討した上で優先順位付けをすることです。優先順位づけは、以下のような評価をすることでできます。下図の「投資倍率/技術距離マップ」は、アプリケーションマップで考案したテーマを所定の基準で評価したものです。

縦軸は、既存技術からの距離を表したものです。距離が近ければ優先順位が高い一方、遠ければ優先順位が下がります。この点について、前回のコラムでご紹介しましたので、こちらをご覧ください。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00662/00022/

横軸は、見込める営業利益を投資金額で割ったものです。倍率が表示されます。これは高ければ儲かりますので優先順位が高く、低ければ優先順位が下がります。

これらを合わせると、右下にある領域が優先順位の高いテーマになるというわけです。右下にあるテーマAとBをやっていくということとなります。

ここまでで、どんなテーマができるのかを検討し(発散)、実際にどのテーマの優先順位が高いのかを検討してきました(収束)。

三つ目のステップとして、テーマに共通する技術を検討することとなります。

次の図に示すとおり、テーマAに必用な技術がX、Y、Zとし、テーマBに必用な技術をX、Y、Wとすると、共通するXとYが重要な技術となります。

こうして抽出された共通する技術が、自社の重要な技術になるというわけです。ダイソンに例えると、扇風機やドライヤーに活かせる技術として流体制御技術とモーター技術が抽出されるというイメージとなります。

本質はなにか?

さて、今日のコラムでは、技術戦略自社にとって重要な技術を明確に定義する方法について概説してきましたが、私が重要だと考えているのは、すべてのステップを自社主導で行うことです。

自社主導とは、顧客要望対応(いわゆる、下請け気質)とは反対にあるものです。最初のステップではあくまでも自社技術を元に用途展開をしましたし、二つ目のステップでは自社技術からの距離感や儲かるかどうかを基準にテーマを選択することを説明しました。

そして、3つ目のステップでは共通する技術を抽出することにより、今後研究開発するべき重要技術を見つけることとなりました。一連のステップでは、顧客の要望に対応する下請け的なステップは一切ありませんでした。

顧客を無視していいというものでもありませんが、あくまでも自社技術を元にして未来を見据えたテーマを企画し、共通する技術を重要技術として定義することを説明しております。

このようにして重要技術を抽出して、テーマを見据えた研究開発をすることにより、強い技術による事業展開が計画的にできることになる、という訳です。

そして、それは高粗利を生むことになります。ダイソン製品が高いのは周知の事実です。強い技術で展開された商品は性能が高いために、高い値段でも買っていただけることとなります。一方、顧客の要望に対応する考え方で商品展開していくと技術的には薄っぺらいものを顧客の買値で作らなければなりません。

どちらが良いかは明らかですよね?同じ技術開発なら、自社主導で重要技術を抽出し、お客様をあっと言わせる商品を実現したいと思われませんか?やってる方も楽しいですし、お客様も喜んでくれますよ。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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