実践的な技術戦略の立て方その⑨ 「やらされ」をなくし、社員のエンゲージメントを高める方法とは?
~儲かる会社の社員は、なぜ楽しそうなのか?~

世相は世相ですが、私のクライアント企業の方は実に楽しそうに仕事をしている人が多いです。普通の会社との違いを2つ挙げると、まず、オンライン会議では、大体笑いがでます。冗談を言い合える仲でもありますし、アイスブレイクを楽しむ、そんな雰囲気があります。

 

もう一つは、実のある議論ができていることです。実のある議論とは、従来の延長線上にはない、業界初の商品開発に関する検討のこと。忙しくしているとは言え、自分で創造していますからね、楽しいです。

 

読者の皆さんも、楽しく、実のある議論をしたいと思いませんか?また、どうすればそうできるのかを知りたいと思いませんか?

 

今日のコラムでは、儲かる会社の社員が楽しそうに働ける理由について書いていきます。このコラムを読んで頂くことで、楽しく働く環境づくりができるようになりますので、ぜひ最後まで読んでほしいと思います。

 

私が技術戦略策定時に直面する課題の一つに、クライアント企業の社員のエンゲージメントの低さがあります。「エンゲージメント」って聞き慣れないと思うんですが、エンゲージメントが低いというのは、要するに「やらされ」で仕事をしているという意味です。やらされ、だとやる気は起きませんよね。

技術戦略によくある課題 社員のエンゲージメントが低い

とはいえ、戦略づくりというのは日常業務にはないことですから業務量が増えますし、いくら経営者の命令だからといって、やりたくないと考えても不思議ではありません。

このコラムでは、このような「やりたくないけど、やらなければならない状態」を「エンゲージメントが低い」と言います。

もし、エンゲージメントが低い状態で技術戦略の策定をしようとすると、良いことが起りません。というのは、そもそも戦略策定というのは、差異化やコストリーダーシップなどの戦略を決めようとするもの。競合にはない、もしくは、従来にないことをやろうとする活動ですから、ストレッチが必須なわけです。

ストレッチが必須なのに、そのストレッチが「やらされ」だったら本人もやらせる側もイヤですよね。まるで親に塾に行くことを強制されている受験生のようです。本人は学校に行って遊びたいところ、「やらされ」のお勉強を強制されれば成績も伸びないのは当然です。

一方で、中には成績が伸びる子もいるわけです。そういう子は、勉強をしっかりと自分ごととして捉えている子です。勉強することが自分にとってどういう意味があるのかをよく知っているため、勉強することをやらされではなく、自分のこととして捉えることができるのです。

子どもの塾のお話はよく分かると思うのですが、企業における技術戦略の策定でも同じことが起こります。ちょうど、「やらされ」の子と、自分ごととして捉えられる子の成績が違うように、エンゲージメントが低い会社と高い会社では、技術戦略のレベルも違うということです。

子どものやる気をどうすれば引き出せるのか?ということに親の関心が高いのと同様に、社員のエンゲージメントを引き出す方法論は経営者の関心が高い分野です。技術戦略の質を高めるためには、社員のエンゲージメントを高めることは必須だからです。

では、技術戦略においてどのようにして社員のエンゲージメントを高めることができるのでしょうか?

手法を尽くしても無駄なものは無駄

一般論として、最近では社員のエンゲージメントを引き出すために、1ON1(ワンオンワン、コーチングの一種)などの手法が知られています。また、一昔前には、目標管理制度、オフサイトミーティング(職場から離れた語り合い)などの手法もありました。

このような手法はそれぞれ効果があるとはいえ、その効果には「ある前提」があります。「ある前提」を欠くと手法の効果は大きく下がる一方、「ある前提」があれば手法の効果は非常に大きくなります。「ある前提」を無視して手法の導入を進め、効果が思ったほどでないという会社も少なくありません。

「ある前提」とはなにか?と言えば、経営者と社員の信頼関係です。なんだそんなことか、と思われたかもしれません。しかし、当たり前のように見える信頼関係にあえて注目するのにはワケがあります。

それは、経営者と社員という人間関係において、信頼関係は損なわれやすいからです。

というのは、経営者は社員に一挙手一投足を見られています。「目は口ほどに物を言う」、と言いますが、社員は経営者の行動を見て、経営者の本心を突き止め、口で言うことと本心との矛盾があるとそれを敏感に察知します。

つまり、経営者が口でどう繕おうと、経営者の本心は社員にはお見通しという訳です。ある事例をご紹介しましょう。

中堅企業のA社とA社長の例です。A社長は新しいテーマの提案を社員に求めていましたが、出てくるのは期待に反して小粒なもので、既存テーマの焼き直しばかりでした。

A社長の依頼で、私は技術戦略の策定に着手しました。A社・社員の方には、私の示すマニュアルにそって分析を行っていただきましたが、その結果、私の目から見ても社員の方から見ても「これは」と思うテーマが出てきたのです。

社員がなかなか提案しない理由とは?

喜ばしい話なのですが、社員の方はなかなか提案しようとしませんでした。そこで発案した社員の方に理由を聞いてみると、興味深いコメントが聞かれました。要約すると、「これを提案したら、(A社長に)根掘り葉掘り聞かれ、したくもない調整をさせられ、自分の業務が大変になるから」ということでした。

どういうことか説明すると、この社員の方は社長の性格を見抜き自分の身を守る行動をとっていた、という訳です。提案すると仕事が増えて、いわば「言い出しっぺが損をする」ので、やらない方がマシ、ということです。

このように、経営者がいくら新規テーマを求めていたとしても、社員がそれに対応すると自分がどうなるかを分かっていれば、いいテーマなんて生まれるはずがありませんよね。

経営者と社員との信頼関係が損なわれている会社では、1ON1などの手法をいくら尽くしても無駄が多くなります。技術戦略はもちろん、テーマの創出もうまくは行きません。

そのため、技術戦略やテーマの創出において重要なのは、経営者と社員との信頼関係だと私は考えています。A社では、A社長と社員の間に信頼関係があれば、新規なテーマの創出をすることはスムーズにできたはずだからです。

技術戦略やテーマ創出はあくまでも手法であって、手法を実践すれば良いとお考えであれば、それは大きな間違いです。今日のコラムで指摘した通り、信頼関係が重要になります。

このコラムを読んでくださっているのは社員の方だけでなく経営者の方もおられると思いますが、特に経営者の方には信頼関係の重要性について気づいて頂きたいと思います。

信頼関係は重要な基礎となりますので、信頼関係を欠くと、せっかく手法が良くても、良い結果が生まれないということにつながりかねません。そして、結果責任を負うのが経営者です。

コロナ禍で自由な時間は増えました。この時間を活かして、社員との信頼関係が築けているか、自己吟味をしてみることをオススメします。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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