実践的な技術戦略の立て方その⑧ 「フィルム技術って言うとなぜダメなのか、分かりますか?」
~お肉屋さんに学ぶ技術マーケティングとは?~

先日、若手技術者の方向けにオンライン研修をしていたのですが、雑談がてら「コロナ後もテレワーク続けたいですか?」とお聞きしたところ、「続けたい」とのご意見がなんと9割を占めました。

その理由について「子育てと仕事の両立には不可欠」や「業務効率が圧倒的に良い」という業務上のことを挙げる人もいれば、「楽だから」という声もありました。これを受けて私が感じたのは、若手は合理的であるということでした。

私には「会社には行くのが当たり前だ」という固定観念のようなものがありますが、私だけでなく、通勤していた期間が長かった世代には、このような固定観念があるように思います。

コロナ後はこの固定観念が勝つのか、合理性が勝つのか、会社によっていろいろな結論がありそうです。

今日のコラムでは技術マーケティングについてお役に立つことを書いていきたいのですが、ここでも固定観念で従来通りやっていくのか、合理的に革新していくのか問われます。

技術戦略を固定観念で従来どおりにせずに、合理的に革新していけば、お客様からの引き合いが倍増するような活動を実施していくことができます。今日のコラムでは、どのように革新していくのか、解説します。

お肉屋さんが繁盛する理由とは?

固定観念にとらわれることなく合理的に革新した事例を一つ挙げましょう。それはお肉屋さんの事例です。実はこの話、他の方から聞いた話でデータや事実での検証はできないのですが、参考になる話です。

お肉屋さんって、ものすごく古い業界じゃないですか?そのため、固定観念も多いらしいのです。その一つが商品表示です。お肉屋さんでの表示といえば、牛肉か豚肉か、バラかロースかヒレなのか、などの商品の属性で表示しますよね。実はこれ、固定観念の古い考え方だそうなのです。

では、合理的に革新したらどうなったかと言えば、なんと売上が二倍になったことがあったらしいのです。そのため、多くのお肉屋さんがこの革新手法を取り入れて今では一般的になりつつあるそうです。売上が二倍ってすごいですよね。

では、どのような革新手法かをご説明しますと、それはお肉を分厚く切ったものを「焼肉用」として販売したり、サイコロ状にしたものを「カレー用」として販売したりしたことです。

「なんだ、そんなことか」と思われるかも知れませんが、本当にたったそれだけで売上が二倍になったことがあったということです。ただ、この話は数十年前のことなので、この手法は知れ渡り、今では一般的になっていると言います。

この革新手法、読者の方も目にしたことがあるのではないでしょうか?最近のスーパーに行けば、たいていのお店では「焼肉用」とか「カレー用」のお肉が置いていますよね?そう、あれです。売上二倍ってすごいですよね。

技術マーケティングでの示唆

この事例、一見関係ないように見えますが、実は技術マーケティングにも示唆があります。同じようなことが研究開発の世界でも起こるからです。

どういうことか、3Mの事例を使って説明してみましょう。3Mは、Minnesota Mining and Manufacturingの名が表す通り、鉱山や製造業の技術から発展し、現在では様々な技術を保有しています。

そのうちの一つに、フィルム技術があります。フィルムとは、薄い樹脂の膜ですね。多層にすることで光の屈折の制御などの機能性を発揮できます。また表面処理技術もあります。表面処理とは、表面に凹凸形状をつけることです。これにより接着力アップや光の反射などの機能性をもたせます。

このような技術は、固定観念の考え方だと、「フィルム技術」や「表面処理技術」と捉えます。これは、お肉屋さんで言えば、「バラ肉」とか「ロース」などの部位で呼んでいるようなものです。

固定観念とは書きましたが、技術を正確に言い表しているのでこれはこれで必要です。筆者も不要だとは思いません。しかし、お肉屋さんのように売上が上がるようなことができればしたいもの。そこで革新が必要になります。

3Mでは、このような技術をどのように説明しているのでしょうか?「ライトマネジメント(光学制御)」という表記を採用しました。フィルムや表面処理によって、反射や屈折を制御できるようになるためです。では、このように表記することで、3Mが得たものは何だったのでしょうか?

それは多彩なアプリケーションです。アプリケーションとは、技術の用途のことです。用途を多数見つけることができれば事業が拡大するのは自明の理。3Mのホームページによれば、ディスプレイ、標識などに加え、光を当てると浮かび上がる文字などセキュリティ用途のアプリケーションが紹介されています。

革新したいって思いませんか?

多彩なアプリケーションがあれば、売上が上がるだけでなく、商品も事業が広がることは想像に難くないと思います。お肉屋さんのように売上が二倍になったかは分かりませんが、3Mの売上はざっと3兆円強、営業利益率は20%に迫る高収益企業です。

もちろん、技術の表記を変えただけでそうなったということはありません。その背後には技術マーケティング・技術戦略に関する様々な施策があったはずです。そのため、表記だけを変えようというのはあまりに浅はかです。

とはいえ、このような事例をみて、自社の資料を変えなければならない、とは思いませんでしたか?お肉屋さんのように「商品表示を変えるだけで売上2倍」という訳にはいかないないかも知れませんが、期待はできますよね。

お肉屋さんが「焼肉用」に対応した肉の厚みを変えたり、お箸で取りやすい大きさにしたりして工夫しているのと同様に、色々と工夫すれば良い結果が期待できます。

実際に、私のクライアントでも、新たなアプリケーションの獲得に成功しています。売上が上がるのはもちろん、新規のテーマを生み出しやすくなるという効果が上がりますよ。

読者の皆様もコロナを契機に従来手法が通用しにくくなってきた、と実感されているのではないでしょうか?これを機会に従来手法を変えるのはどうでしょうか?従来手法を変えるためには、固定観念を捨てて革新することが必要ですが、その方向性を今日のコラムで示しました。

コロナで大打撃という方もおられると思いますが、我々はこのピンチをチャンスと捉えて、革新していこうではありませんか。

コロナ後に笑うのは、固定観念で変えられなかった会社ではなく、合理的に革新できた会社のはずです。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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