顧客要望対応で減益になる

顧客要望対応で減益になる

2018年となって最初のコラムとなります。今年もどうぞよろしくお願いします。年明け早々ではありますが、年度末まで後3カ月弱ですね。そろそろ来年度の計画を考える時期だと思います。株式市場では空前の株高とは言え、ものづくりの会社は浮かれてはいられません。しっかりと計画してください。

来年度と言えば、先般、おめでたい話を耳にしました。

「中村さん、来年度の受注が全て確定しましたよ」。クライアントの社長の言葉です。新聞紙上で世間は景気が良いということは聞いていましたが、まさか来年度の受注が全て決まるとは! これには私も大変驚きました。早速、「おめでとうございます」と伝えると、なぜか社長は渋い表情だったのです。

普通、来年度の受注が決まれば諸手を挙げて喜んでも良さそうなもの。理由を聞くと、「実は、非常に利益率が低いのです」とのことでした。その利益率を聞くと、正にギリギリという印象の数字でした。社長の渋い表情の原因は、受注が確定した安堵感に、低い利益得率による何とも言えない複雑な感覚だったのかもしれません。

詳しく聞くと、受注した全体規模は今年度の受注よりもさらに巨額。来年度どころか再来年度までが決まってしまうくらいの数字でした。そのため、今年度と比較して増収が見込めそうとのことでした。しかし、見積もり段階での粗利額から計算すると、来年度は減益ということでした。なんと増収「減益」だったのです。

増収減益は減収減益より悪い

さて、この「増収減益」ですが、経営者であればかなり悪い状態だと考えていただきたい事象です。もちろん赤字よりはマシですが、減収減益よりも増収減益の方が状態は悪いと言えます。

なぜ増収減益が悪いのかと言えば、理由は2つあります。

理由1:時間がなくなるから(=忙しい)
増収効果により、社員が必ず忙しくなります。目の前の業務をこなさなければならない状態ですから、それは必然です。ところが、忙しくなったら、新しいテーマを実施する時間がなくなります。新しいテーマにこそ増益のチャンスはあるのですが、そうした時間にすらリソースを割けなくなってしまうのです。

理由2 収益にならないから(=儲からない)
もう1つの理由は、儲からないことです。社員がどれほど一生懸命に仕事をしても利益が残らない。儲からなければ、研究開発に投資もできません。研究開発に投資ができないということは、増益のチャンスを逸してしまうということです。

増収減益はなぜ起こるのでしょうか。ほとんどの場合、それは「顧客要望対応」を行うからです。「要望があるからやる。やるから売れる」という循環が増益につながっているうちは良いのですが、要望を聞いても収益につながらない仕組みで動いていれば減益となります。

顧客要望への対応というのは、例えば、特注品への対応や見積もり依頼、設計支援、技術支援などなど、業務の種類を上げればきりがありません。他にも、突き詰めると顧客の要望に対応しているだけで増益には何の役にも立っていない業務はいくらでもあるのです。

経営者は増益テーマに集中する

自らが何を行っているのかという認識がないまま顧客の要望に対応していると、必ずと言ってよいほど減益になります。増益テーマに集中するには、端的に言えば、「顧客要望対応の業務はやめる」という強い決意が必要なのです。

そんなことを言っても、「顧客要望対応をやめたら目先の売上を失うのではないか」と思う人もいるでしょう。確かにいきなり全部をやめるというのが難しいことも分かります。しかし、社員の限られた時間をどこに振り向けるのかという観点で、ぜひ、見直しを行ってください。

「顧客要望対応をやめると開発のネタがなくなってしまう」という声もあるでしょう。それは、そもそも新しい商品を企画する際に、顧客要望を反映することになっているからです。しかし、顧客要望に対応するだけでは中・長期的に減益になるのは当たり前。別の開発のネタ探しを行わなければなりません。

自らの認識がないまま顧客要望に対応して減益になっている場合、本人はそれなりにやるべきことをやっているという認識でしょう。しかし、社員に必死になって顧客要望対応をやらせておきながら、増益につながるような開発を行うのは土台無理な話であることを、経営者は理解してください。

経営者は社員である技術者に何をしてもらうかを必死に考えなければなりません。最も安直なのは、何の考えもなく顧客要望に対応させ続けることです。これでは中・長期的に必ず減益につながってしまいます。

4月決算の会社では、そろそろ来年度の計画を立てる時期だと思います。好況の今こそ増益テーマに着手する絶好のタイミングです。来年度の計画を、増収増益が狙えるものにするために、あなたは何をしますか。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。