近年、日本企業においては、資本コストを上回る経営を実現し、ROE(自己資本利益率)の向上を目指すことが強く求められています。これは投資家への説明責任を果たすうえで重要なテーマであり、各社がIR資料などを通じて積極的に打ち出している方針でもあります。
しかしながら、この経営目標と研究開発部門の実態との間には、しばしば大きな乖離が生じています。すなわち、「ROE向上に資する研究開発テーマ」の立案が、必ずしも事業部門・研究開発部門で実現できていないのです。投資家向けに掲げられる経営ビジョンと、実際に社内で温められているテーマの「卵」との間には、大きなギャップが存在しています。
このギャップを最も敏感に感じ取っているのが、研究開発部長や事業部長といったトップマネジメント層です。彼らは、株主・CEOと現場のはざまで意思決定を担う立場にあり、投資家向け広報と現場での実行との間にある温度差に日々直面しています。
かつての日本企業では、たとえ経営目標が未達であっても、CEOがその責任を問われることは稀でした。しかし現在は、目標未達の結果としてCEOが退任に追い込まれるケースも見られるようになっています。こうした風土の変化は、研究開発部長や事業部長といったトップマネジメント層にも少なからぬプレッシャーを与えており、今や「投資家への説明」と「現場で生まれる研究テーマ」とを橋渡しする構造の再設計が求められているといえるでしょう。
以下の記事では、「R&DでROE向上に貢献するとはどういうことか」という視点から、いくつかの角度でこのテーマを掘り下げていきたいと思います。研究開発に携わるすべての方々にとって、現場と経営とをつなぐ新たな思考軸となれば幸いです。
R&DとROE経営を整理する関連記事
R&DでROIC経営を実現するための経営システム・R&Dパイプライン
経営貢献を可視化する「R&Dパイプライン」を中心として、パイプラインに仕込むテーマ創出の仕組みについて説明しています。本WEBサイトの「初めての方へ」の内容です。
R&DとROIC経営は本当に相容れないのか? “数字の圧力”を“現場の武器”に変えるには?
資本コストを意識した経営をR&Dでどのように実現するのか?過去の失敗の轍を踏まないための方法論について概括的に記載しています。
ROIC経営のためにCEOのやCFOから定量評価を迫られる。待ちの姿勢ではなく、攻めの姿勢でCTOからCEO、CFOに提案する貢献・可視化フレームワークを提案しています。
利益倍増を実現するR&Dパイプラインはあるか?(当社コラム)
R&Dパイプラインについて事例をご紹介しています。当社コラム記事です。
潜在ニーズに基づくソリューション事業で作るR&Dパイプラインとは?(当社コラム)
R&Dパイプラインとそれに投入するテーマの創出法「潜在ニーズに基づくソリューションテーマ」について事例をご紹介しています。当社コラム記事です。
事業計画立案時の研究開発テーマの考え方(シナリオ・プランニングによる潜在ニーズ発掘とR&Dテーマ化)
「サステナブル化に対応します」などとIRで表明しがちですが、トレンド順張りでは儲かりません。トレンドに乗りながら潜在ニーズを捉えていくテーマの出し方について解説しています。