技術の棚卸による技術戦略の策定と技術プラットフォームの形成

この記事は、以下のような方に向けて書かれています。潜在ニーズに関してはこちらをご覧ください(別記事)。

  • 「技術の棚卸し」をしてみたが、技術の一覧表ができただけで何にもならなかったことがある
  • 強い技術に基づいてテーマを創出できるはずだったが、強い技術の評価方法や勘所が不明確で納得が行かなかった
  • 選択と集中をすべきなのは分かっているが、会社規模が大きく多数のテーマがある中でテーマの相対評価もできず、結局「全部やる」という結論になってしまった

技術戦略によくある失敗

「以前は毎年の予算申請・承認しかしていませんでした。多くの技術者が業務に自信を持っていないという調査結果を見て愕然としました。」

技術戦略策定に取り組まれた経営者の言葉

本当に典型的な失敗例ですが、よくある例を挙げます。あなたの会社もこうなっていないでしょうか?

それは、毎年立てる予算申請が知らず識(し)らずに技術戦略になってしまうことです。戦略不在のまま予算だけはたてられる、という表現でも結構です。

予算を作る時には、案件を一覧化します。案件とは、営業部門が作る要望のことが多いです。

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あなたの会社の技術戦略は、今の技術でできることしか書かれていないものになっていないでしょうか?

対応する技術部門は「すべての要望には応えられないが、ここまでならできる」と何らかの優先順にを引いて、できることをやろうとします。こうして予算はたちますが、それは戦略なのでしょうか?

戦略とは、そもそも競争優位(持続的な収益性)を確立するために実施するものです。

優先順位付けに、競争優位の意図があればよいのですが、ほとんどの場合、競争優位が意図されておらず、テーマの調査も分析も不十分です。「できることベース」の予算策定になっているのが一般的です。

技術戦略不全:ステージとゲート、それぞれが不十分

こんなことはありませんか?

  • テーマの評価が非常に甘いため、仕込みも甘い
  • 事業化段階になって様々な課題に直面し、結局事業化に至らない
  • 逆にテーマ評価が厳しくほとんどの提案がダメになる、しまいには若手が意気消沈している
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あなたの会社でも、甘い仕込みになっていませんか?

実はこのような問題はよくある話です。解決することはそれほど難しい話ではありませんが、甘い仕込みー甘い評価は根が深い問題です。

技術戦略不全:研究開発テーマの関連性がないケース

研究開発テーマが分散してしまうとお感じでは無いでしょうか?

それは、次世代のコア技術が決まっておらず、基準がはっきりしないためです。そのようなケースでは「あるテーマは全てやる」になってしまいます。

また、競争優位性の評価が甘く、何でも通してしまうケースもあります。潜在ニーズや競合の調査が甘く、事業的にも技術的にも繋がりが薄いようなテーマにも予算をつけてしまうのです。

こうなると、テーマは散在し、技術的な連携も事業的な繋がりもなく、投資効率は極めて低いものになってしまいます。同じ事業体でやっている意味がないものとなります。

なお、評価が厳しすぎてテーマが出なくなってしまったという場合には、テーマ創出が課題となりますので、テーマ創出に関するこちらをご覧ください。

技術戦略とは?

技術戦略とは、研究開発部門発の会社の成長戦略のことです。以下のようなイメージです。

研究開発には技術主導で会社を成長させる戦略が求められています。会社は、事業ポートフォリオを常に入れ替える必要があります。研究開発部門は、技術戦略とそれに伴う高収益な新商品・新事業を生み出せる仕組みにより会社の成長戦略に貢献するのです。

技術戦略には以下のものを含みます。

  • 将来の成長産業・社会的要請・トレンド
  • 成長産業・トレンドに必要な技術
  • 当社技術との整合・不足技術
  • 顧客の潜在課題・技術プラットフォーム
  • 不足技術の獲得戦略
  • 基盤技術ごとのロードマップ

ここで言う技術戦略は、下で言う「高レベル 会社レベルの資源配分戦略」や「中レベル 事業レベルの事業・技術戦略」を指しています。

高レベル 会社レベルの資源配分戦略
中レベル 事業レベルの事業・技術戦略
低レベル 商品・技術戦略

技術戦略の目的はなにか?

「技術の棚卸しを実施してみたがうまくいかない」という感想をお聞きします。

それはそうです、棚卸しそれ自体は目的ではないのですから。

技術の棚卸しの目的は技術戦略の策定に尽きます。技術プラットフォームをうまく形成し、技術マーケティングにつなげていくことでしか、目的を達することはできません。

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棚卸しのための棚卸しになっていませんか?棚卸しをすればなんとかなると思っている人が社内に多いこと、意外と多いんです。

技術戦略の目的とは、高収益事業の立ち上げです。
ちょっとむずかしい言葉ですが、高収益商品群を立ち上げられる組織能力の獲得とも言えます。

技術戦略策定活動を高度化させるには、人材開発と組織開発の両面があります。

活動を通じて技術者が能力を高めることが出来、能力を高めた技術者が更に良い技術戦略を策定することになるのです。

技術プラットフォームを上手に形成し、技術プラットフォームを上手に利用した技術マーケティングにより効率的(他社よりも早く)事業を立ち上げることができます。

技術者による策定活動が大事であって、活動を脈々と出来ているかが大切なのです。当社は研修やコンサルティングにより、技術戦略の策定を支援しています。上記のような視点に基づいて、技術戦略策定の仕組みを構築することを狙います。

技術プラットフォームとは?

技術プラットフォームとは「顧客課題の解決のために準備された技術群」です。技術プラットフォームは、技術マーケティングと相まって有用な顧客情報を早期に入手することに成功することにより効果を上げます。

参考として、その他に、以下のような類似キーワードがあります。

コア技術…差異化要素を発揮する技術(群)

基盤技術…製品を製造するために必要な技術(重要性が高いもの)

周辺技術…製品を製造するために必要な技術(重要性が低いもの)

技術の棚卸しとは?

技術の棚卸しの目的は、技術戦略の策定にあります。技術戦略の策定のためには、自社技術に対する正確な認識が必要です。

当然ながら、大分類ー中分類ー小分類で技術を一覧表にすることには留まりません。保有技術の組み合わせや見方を変えることにより、技術を適切な粒度で機能的に表現することが必要です。

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棚卸しのための棚卸しになっていませんか?棚卸しをすればなんとかなると思っている人が社内に多いこと、意外と多いんです。

この適切な粒度での機能的表現が、技術プラットフォームというべきものであり、この技術プラットフォームの認識により技術戦略を策定可能にするのです。

技術戦略により技術プラットフォームを形成する

そもそも技術プラットフォームとは何でしょうか?

当社では「顧客課題を解決するために予め準備された技術群」と定義しています。

「課題解決」「解決」「予め」「群」という要件がポイントでこの要件を満たした技術プラットフォームを形成すると、待ち伏せ型開発ができるのです。顧客要望が出た場合に即応できるスピード感、需要が出る前の開発のため排他的知財が取れているというメリットがあります。

技術プラットフォームで最も有名なのはスリーエム等の材料・化学メーカーです。これは、大企業の研究開発部門のマネジメントならば常識になっている事例ですが、企業経営者の中では常識とは言えません。

3Mの事例は説明するまでもないかも知れません。3Mの技術プラットフォームのページはこちらです。

これを追随するカタチで、日東電工等の化学メーカー各社が技術プラットフォームを推し進めています。いずれも高収益企業になっています。

セットメーカーでは、技術プラットフォームという事例は目立たないですが、当社のセミナーではよく取り上げる、キヤノンがあります。キヤノンは言わずと知れた高収益企業です。

意味合いが若干違いますが、トヨタ自動車(2019年現在はTNGA)、フォルクスワーゲン(2019年現在はMQB、MEB)などもプラットフォームによる新車開発を進めています。

技術プラットフォームは、社内に公開されます。3M社の事例による有用なヒントを転載します。

 そのため、3Mの技術者がイノベーションに挑戦するときには、まずテクノロジープラットフォームで調べてみることが多い。この仕掛けの特徴は、その技術に詳しい社内の専門家の連絡先を明示していることだ。彼らに連絡を取って、疑問などを直接質問することができる。テクノロジープラットフォームはポジティブな人間の本質である「分かち合う・協力し合う心を持っている」を引き出し、仲間の存在と強みになる経営資源(形式知)に気づくことを促してくれる。

3Mで学んだニューロマネジメント(日経BP社、大久保 孝俊)

この様に、技術資産(技術報告書、設計図等、形式は様々)が社内で蓄積され公開されていることが大切です。

技術戦略と技術マーケティングとの関係は?

技術戦略策定は、技術プラットフォームの形成や、技術マーケティングへの発展を意識しながら行う全社的な活動に発展するべきです。

技術マーケティング業務が強く意識され、実行される事により、技術プラットフォームは生かされます。

研究開発部門だけに留まるものではありません。

技術マーケティングについてはこちらをご覧ください。

技術戦略策定プロジェクトの進め方例

ステップ1:技術の棚卸し

最初に対象の技術を明確にします。自社内にどのような技術があるのか、明確にする必要があります。一般的に技術は一覧化することにより可視化します。

当社では、技術の一棚卸しを社内で実施することを強く推奨しています。

どのような技術があるのかを、研究開発部門、生産部門、品質管理部門と部門ごと、あるいは製品ごとに整理していきます。

技術戦略策定の対象は、全社で実施する場合と技術毎(価値毎)に実施する場合があります。

留意点:技術は代々継承されていく必要がありますが、この方法では一覧表(エクセル)を継承された新任担当者が社内技術を把握(理解)できないという致命的な欠点があります。ただし、何もしていない状態から進めるに際して一覧表の作成は必ず必要となります。

ステップ2:社会・技術トレンド情報の収集

将来の社会や技術トレンドの情報収集を行います。この情報収集の方法は産業により様々な方法があります。当社の提案する方法に沿って情報収集をし、将来の事業に必要な技術に関して、方向性のイメージを共有します。

  • ①将来の社会はどのようなものか?
  • ②将来社会における産業の位置づけはどのようなものか?
  • ③どんな技術が必要になるのか?/可能になるのか?

を概括的に把握します。

留意点:プロジェクトメンバーでの技術理解をすすめることは極めて重要です。

ステップ3:事業動向・顧客課題の特定

ステップ2で大まかな方向性を踏まえて、このフェーズではより具体的に調査します。具体的には、事業毎に主要顧客を特定し、主要顧客が抱える課題を明確にします。このフェーズでは、営業情報や知財情報などを適切に併用して、顧客課題というニーズに近い言葉にしていきます。

主要論点

  • ①事業にはどのような変化が予想されるのか?
  • ②事業を維持するためにはどのような技術が必要か?
  • ③顧客の課題はなにか?
  • ④どのような新しい産業が出現しようとしているか?

ステップ4:技術の棚卸し・技術戦略の策定

ステップ1〜3を踏まえて、技術の棚卸しと技術戦略策定を実施します。ここまでの情報収集で、自社がどんな技術を持っているか、将来どんな技術が必要かのイメージが共有された状態です。

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このフェーズは、イメージを具体的な文書にしていく作業です。目的に応じて、当社の提案するフォーマットに沿って、技術の棚卸しの成果及び技術戦略策定を文書化します。

そうして、技術プラットフォームを形成します。

テーマ創出において、コア技術の棚卸しはエクセル作成ではありません。
テーマ創出者が技術を理解することです。
理解することで類推能力や調査能力が飛躍的に高まり、テーマ創出力が向上します。

技術戦略策定コンサルティングのご案内

会社の内部成長を確保するために必要な技術戦略を作っていくのが、技術戦略策定活動です。当社では、技術戦略策定コンサルティングを行っています。以下、ご関心があればクリックしてご覧ください(長いです)。

技術戦略策定コンサルティングの概要

技術戦略策定コンサルティングは、自社技術を棚卸し、マクロトレンドを分析して将来顧客価値を抽出、競合技術を分析した上で、自社の次世代コア技術、基盤技術を定めるものです。

即座に利用可能な技術プラットフォームを整備し、意識改革により運用を可能にします。

株式会社如水のコンサルティングの特徴

経営者の納得できる技術戦略とは、「競争優位になると確信できる内容」です。競争優位の源泉は独自性であることは説明の余地もありませんが、この点が欠けた技術戦略になっている事例をよく見ています。

当社のコンサルティングの特徴は、競合情報を知財情報等から入念に情報収集し、独自性を強く確保する点にあります。

技術戦略策定コンサルティングでは、トレンドに沿った戦略立案(トレンドフォロー)になりがちですが、トレンドフォローでは、市場に出た時に、競合と同じだったということになります。トレンド情報は公知情報であり、トレンドフォローの戦略は誰でもできるからです。

上記のようなことを防ぐために、自社のコア技術を創出・選定する際には、知財情報を使っていきます。

「IPランドスケープ」と呼ばれる知財部門の活動に関するコンサルティングも実施しており、知財情報の活用にも長けたコンサルタントが一貫性のある指導をすることに強みがあります。

技術戦略に予算が付いて研究開発を着手する際には、調査結果をそのまま利用して研究開発チームの知財戦略に利用することも出来ます。一貫性のあるサポートができるのが強みです。

技術戦略策定コンサルティングを受けるとどうなるか?

技術戦略策定により、競争優位になると確信できる計画(予算策定の指針)が出来ます。技術戦略策定の結果について、次のようなことをイメージしてほしいです。

イメージしていただきたいこと

 あなたが社員から説明を聞いています。パワーポイントで作成された資料には技術戦略が説明されています。

 その技術戦略には、投資していく案件、その案件がなぜ競争優位になるのか、どの程度の規模や成長性のある市場を狙うのか、どんな商品を売るのか、どの程度の収益性が見込めそうか、に関する説得力のある説明がなされました。

 そして、それを作ったのは社員達です。皆、コンサルティングでサルタントの提示する宿題を、なんとかやりきって成果につなげた顔をしています。

当社の提案する技術戦略の概念図

いかがでしょうか?コンサルティングでは、上記のようなことをご期待いただけます。

技術戦略策定コンサルティング クライアントの声

当社コンサルティングを利用して、以下のようなお声を頂いています。

「今回の技術戦略は良いね、納得できるよ」
というのは、大手企業の部長さんのお言葉でした。このワークショップのポイントは競争優位の確立です。
それまで、モヤモヤしたまま予算執行してきたそうですが、技術者に競争優位の確立という視点をもたせたことで、モヤモヤが納得に変わったようです。

大手企業の部長のクライアント

「夢のある・儲かる理由が説明できる投資案件に投資できています」

従来は、中村先生の仰るD(顧客要望対応型の案件、利益得率が低い)ばかりでしたが、夢のあるテーマに投資できるようになりました。若い人にも説明できて採用にも役立っています。

中堅企業の社長のクライアント

以下では、技術戦略に関する説明をします。

主に、企業の研究開発部門や知財部門の方のために書かれた解説記事です。

コンサルティングの概要

技術戦略の策定には、技術とビジネスの総合能力が問われます。

長期テーマが欲しいか、短期テーマが欲しいかによりアプローチを変える必要がありますし、コア技術ベースのテーマ創出で得られるテーマはどのようなものかに関する理解が必要です。

このコンサルティングは、

①技術の棚卸しによって得られるものはなにか?
②どんな技術プラットフォームがあればよいのか?
③将来のコア技術の獲得計画を合理的に予想するにはどうすればいい?

などの研究企画部門の疑問に対して解を提供しつつ、社内・研究開発部門の精鋭を巻き込んで実際にテーマ創出をするための活動です。

フォーキャストだけでなく、適宜バックキャストのアプローチを取り入れて要望に応じたテーマ創出の思考方法を実践していきます。

フォーキャスト、バックキャストの具体的な方法・具体的な情報に触れて、思考方法の習得と同時に結果を生み出します。将来的な技術マーケティングを意識した技術プラットフォームを形成していきます。

コンサルティングの特徴

特徴① 棚卸しと策定のプロセス(組織能力)に価値があることを理解する

技術の棚卸しと技術戦略の策定の成果は文書です。

しかし、一度策定した戦略が将来に渡って100%正しいことなどありません。

VUCAの時代、必要なのは戦略を随時修正・変更することであり、技術の棚卸しと技術戦略の文書に価値があるのではなく、策定に関与した技術者の経験や組織能力にこそ価値があると認識する必要があります。

VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、現代の経営環境を取り巻く状況を表現するキーワードとして使われています。

特徴②本質的な技術の棚卸し

特徴③技術戦略の策定・技術プラットフォームの形成

技術戦略は粒度に応じて、技術プラットフォームやロードマップにより表現することがあります。技術者は技術プラットフォームやロードマップに沿ってテーマを創出します。

技術プラットフォームは顧客の潜在課題を解決するための技術コンセプトです。

ロードマップには、自社のコア技術を中核としつつ、将来社会に必要な技術を獲得する計画や可能性を表現します。

ロードマップ策定には、関係する技術者が、将来社会に必要な技術が何なのかを検討するために情報収集することが重要であり、これを継続することが重要な組織能力であることを理解する必要があります。

技術プラットフォームに関してはこちらをご覧ください。



研究開発ガイドライン/カタログのご案内(お問い合わせ)

研究開発部門の高度化や人材開発を担う担当者のために、研究開発ガイドライン「虎の巻」をお送りしています。あわせて、技術人材を開発するワークショップやコンサルティングの総合カタログもお送りしています。

部署内でご回覧いただくことが可能です。
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