技術プラットフォームとは?R&Dでの意味・作り方・企業事例を解説

技術プラットフォームとは、製造業や研究開発において、新しい製品や顧客課題の解決に繰り返し活用できるよう、あらかじめ準備・体系化された技術群です。

ただし、「技術プラットフォーム」という言葉には統一された定義があるわけではありません。企業によって、コア技術の集合を指す場合もあれば、基盤技術と応用技術を含む仕組み全体を指す場合もあります。

当社では、技術プラットフォームを「顧客課題の解決のために準備された技術群」と定義しています。

重要なのは、単に「自社にはこの技術があります」と技術を一覧化することではありません。顧客から新しい課題を提示されたときに、複数の技術を組み合わせ、短期間で解決策を提示できる状態まで準備されていることが重要です。

技術プラットフォームが充実している企業では、新しい顧客課題が現れてからゼロから研究を始める必要がありません。すでに保有する技術を組み合わせ、不足している部分だけを新たに開発することができます。

本記事では、製造業・R&Dにおける技術プラットフォームとは何か、その効果、作り方、コア技術や基盤技術との違い、3Mなどの企業事例、技術戦略や技術マーケティングとの関係まで解説します。

技術プラットフォームとは何か

技術プラットフォームはファミレスのメニューのようなもの

技術プラットフォームを理解するには、ファミリーレストランをイメージすると分かりやすいでしょう。

ファミリーレストランでは、顧客から注文を受けてから食材を仕入れ、料理方法を研究するわけではありません。一定の食材や調理方法をあらかじめ準備し、注文が入れば、それらを組み合わせて短時間で料理を提供します。

研究開発でも同じことができます。顧客から「こんなことはできないか」と相談されたときに、営業担当者が「その課題であれば、この技術とこの技術を組み合わせれば対応できそうです」と考えられる状態を作ります。

社内へ持ち帰れば、技術者もゼロから研究を始めるのではなく、すでに確立している技術やノウハウを組み合わせて顧客の要求に対応します。

つまり、技術を「注文を受けてから作る」のではなく、「注文が来る前に準備しておく」のです。これが技術プラットフォームの基本的な考え方です。

セミオーダースーツで考える技術プラットフォーム

別の例として、セミオーダーのスーツを考えてみます。フルオーダーでは、顧客の注文を受けてから型紙を作り、生地を選び、一着ずつ製作します。そのため自由度は高い一方で、時間もコストもかかります。

セミオーダーでは、さまざまな体型に対応する型紙や生地をあらかじめ準備しています。顧客が来店したら、それらを組み合わせ、必要な部分だけ調整します。

技術プラットフォームもこれに似ています。

すべての顧客課題についてゼロから研究開発するのではなく、将来必要になると考えられる技術を事前に蓄積しておきます。そして具体的な顧客課題が現れたときに、それらを組み合わせてソリューションを作ります。完全なレディメイドでも、完全なフルオーダーでもありません。

「ある程度まで準備された技術を、顧客課題に応じて組み合わせる」という状態が重要です。

技術プラットフォームと技術カタログの違い

技術の棚卸しを行った企業では、自社技術を一覧化した技術カタログが作られることがあります。しかし、技術カタログと技術プラットフォームは同じものではありません。

技術カタログが「当社にはA技術、B技術、C技術があります」という技術の一覧だとすれば、技術プラットフォームは「この顧客課題であればA技術とC技術を組み合わせ、この担当者とE技術の担当者が協力すれば解決できる」という状態です。

つまり、技術プラットフォームでは、技術が顧客課題と結び付いている必要があります。その技術について詳しい技術者、過去の実験結果、知財、ノウハウなどにもアクセスできる必要があります。技術情報を整理しただけでは十分ではありません。必要なときに実際に使えることが重要なのです。

技術プラットフォームとコア技術・基盤技術の違い

技術プラットフォーム、コア技術、基盤技術は似た意味で使われることがありますが、必ずしも同じ概念ではありません。

コア技術は、企業が競争力の源泉として重視している技術を意味することが多いでしょう。基盤技術は、複数の商品や事業の基礎として利用される技術を指すことが多くあります。

一方、技術プラットフォームでは、個々の技術だけではなく、それらを組み合わせて何ができるのかという視点が重要になります。実際に企業によって定義も異なりますので事例を見ていきましょう。

企業での技術プラットフォームの事例

3Mのテクノロジープラットフォーム

技術プラットフォームを考えるうえで、代表的な企業が3Mです。3Mは現在、接着剤、研磨材、セラミックス、ナノテクノロジーなど49のテクノロジープラットフォームを持ち、それらを世界中の研究者が事業分野を越えて共有し、組み合わせて製品開発に活用しています。

ここで重要なのは、49種類の技術が存在すること自体ではありません。一つの製品を作る際に、複数のテクノロジープラットフォームを横断的に利用できる点にあります。

3Mのテクノロジープラットフォーム
3Mのテクノロジープラットフォーム

従来の当社記事でも紹介してきたバスラッピングの事例では、接着、位置決め、空気を排出する技術など、複数の技術が必要になりました。

すべてを新しく研究するのではなく、すでに社内に存在する技術を探し出し、不足する部分だけに研究開発資源を集中させることができます。

技術プラットフォームの価値は、技術の保有量だけではなく、「既存技術を再利用し、組み合わせ、新しい課題へ適用できること」にあると言えます。そして、必要な人へアクセスできることです。

技術をデータベースに登録しただけでは、その技術を活用できない場合があります。「この技術については誰に聞けばよいか」が分かり、部門を越えて技術者同士が協力できることも、技術プラットフォームの重要な要件です。

artienceの事例

例えば、artience(旧東洋インキ)では、5つのコア技術と、それらから派生する応用技術によってテクノロジープラットフォームを構成し、複数の技術を組み合わせて製品や新事業を生み出しています。分散、塗加工、ポリマー設計、色材設計、解析・MIというコア技術から多数の応用技術を形成し、それらを組み合わせてエレクトロニクス、環境対応パッケージ、バイオなどの用途へ展開しています。

artienceの技術プラットフォーム
artienceの技術プラットフォーム

フジクラの事例

また、フジクラでは、2023年に研究開発の設計図として「テクノロジープラットフォーム」を作成し、自社技術を複数の層として整理しています。

フジクラの技術プラットフォーム
フジクラの技術プラットフォーム

したがって「技術プラットフォームとは必ずこの形式でなければならない」と考える必要はありません。

重要なのは、自社の技術を単独で管理するのではなく、複数の商品、事業、顧客課題に再利用できる技術資産として整理することです。

技術プラットフォームの要件とは?

当社では、技術プラットフォームが実際に機能するためには、少なくとも四つの条件が必要だと考えています。

第一に、顧客課題と結び付いていることです。技術的に高度であるだけでは意味がありません。その技術を使って、どのような顧客課題を解決できるのかが説明できる必要があります。

第二に、技術があらかじめ準備されていることです。顧客から要望が来てから基礎研究を始めるのであれば、それは技術プラットフォームとは言いにくいでしょう。一定のレベルまで技術を確立し、すぐに応用研究へ移れる状態にしておく必要があります。

第三に、複数の技術を組み合わせられることです。実際の顧客課題は、一つの技術だけで解決できるとは限りません。材料技術、加工技術、解析技術、シミュレーション技術などを組み合わせることで、新しいソリューションが生まれます。

第四に、その技術について詳しい技術者、過去の実験結果、知財、ノウハウなどにもアクセスできる必要があります。技術情報を整理しただけでは十分ではありません。必要なときに実際に使えることが重要なのです。

技術プラットフォームの作り方

技術プラットフォームを作る際、最初から「当社のコア技術は何か」を議論する方法には注意が必要です。

自社技術だけを見ていると、現在得意な技術を分類しただけの技術マップになりやすいからです。

技術プラットフォームを作る際には、将来の市場や顧客課題と、自社が保有する技術の両方から考える必要があります。

最初に、将来どのような市場が成長し、そこでどのような顧客課題が生まれるのかを考えます。

次に、自社が保有する技術を棚卸しします。このとき、「○○製品の製造技術」という製品名だけで整理するのではなく、「薄膜を均一に形成する」「熱を制御する」「特定波長を吸収する」といった機能として技術を表現すると、別の用途への転用可能性が見えやすくなります。

そのうえで顧客課題と技術を対応させます。

一つの技術だけで課題を解決できない場合には、複数技術を組み合わせます。

さらに、その組み合わせに不足している技術を明確にします。不足技術については、自社研究だけでなく、大学との共同研究、スタートアップとの連携、ライセンス、M&Aなども含めて獲得方法を検討します。

最後に、その技術について誰が詳しいのか、どのようなノウハウや知財が存在するのかまで紐付けます。

ここまでできれば、単なる技術データベースではなく、実際に利用できる技術プラットフォームになります。

技術プラットフォームは「待ち伏せ型開発」を可能にする

私は、技術プラットフォームの大きな価値は「待ち伏せ型」の研究開発を可能にすることだと考えています。

通常の受託的な研究開発では、顧客から要望を受け、それから技術開発を始めます。

しかし、この方法では顧客が課題を認識し、競合企業にも相談し始めてから研究開発を開始することになります。

これでは競争優位を作ることが難しくなります。

技術プラットフォームでは、将来発生すると考えられる顧客課題をあらかじめ予測し、その課題を解決する技術を先行して準備します。

そして顧客の課題が顕在化した瞬間に、「その課題であれば当社はすでにこの技術を持っています」と提案します。

顧客要望への対応スピードを上げるだけではありません。

競争相手より早い段階で研究を始めることで、特許やノウハウを蓄積し、競争優位を作ることもできます。

この「顧客課題が顕在化する前に技術を準備する」という考え方が、技術プラットフォームを技術戦略上重要なものにします。

技術プラットフォームと技術戦略の関係

技術戦略と技術プラットフォームは密接に関係しています。

技術戦略が「将来どのような市場で、どのような競争優位を作るか」を考える活動だとすれば、技術プラットフォームは、その戦略を実現するために蓄積すべき技術資産です。

したがって、技術戦略では「どの技術を研究するか」を決めるだけでは不十分です。

「将来どのような顧客課題を解決したいのか」「そのためにどのような技術プラットフォームが必要なのか」まで考える必要があります。

技術戦略については、別の記事で技術の棚卸しから研究開発テーマ、競争優位まで含めて詳しく解説しています。

技術戦略によって技術プラットフォームの方向性を決め、日々の研究活動によってその技術群を充実させます。

そして技術プラットフォームから新しい用途や研究テーマが生まれれば、その結果を再び技術戦略へ戻します。

この循環が重要です。

技術プラットフォームと技術マーケティングの関係

技術プラットフォームを持っているだけでは、新しい事業は生まれません。

技術をどの顧客課題へ適用するのかを探す活動が必要だからです。

その役割を担うのが技術マーケティングです。

営業や技術者が顧客の事業環境を調べ、将来どのような問題が発生するのかを考えます。そして、その課題と自社の技術プラットフォームを照合します。

顧客課題から技術を見ることで、「この技術は既存の商品だけではなく、別の市場でも使えるのではないか」という発見が生まれます。

反対に、自社技術を起点として「この技術を必要とする顧客はどこにいるのか」と考えることもできます。

技術プラットフォームと技術マーケティングを循環させることで、技術の用途を広げ、研究開発テーマや新規事業へつなげることができます。

技術プラットフォームは作ることが目的ではない

技術プラットフォームを構築するプロジェクトでは、技術マップや技術一覧表を完成させること自体が目的になってしまうことがあります。

しかし、本来の目的は資料を作ることではありません。

顧客課題が発生したときに技術をすぐに利用できること、異なる部門の技術を組み合わせられること、技術者同士が横断的につながること、新しい市場へ既存技術を展開できることが重要です。

そのため、技術プラットフォームは定期的に更新する必要があります。

研究によって新しい技術が生まれれば追加します。使われなくなった技術は見直します。市場や顧客課題が変化すれば、必要となる技術群も変わります。

技術プラットフォームは完成品ではありません。

日々の研究開発や顧客との対話を通じて、継続的に充実させていく技術資産です。

技術プラットフォームについてよくある質問

技術プラットフォームとは何ですか?

技術プラットフォームとは、新しい製品や顧客課題の解決に繰り返し利用できるよう、あらかじめ準備・体系化された技術群です。当社では「顧客課題の解決のために準備された技術群」と定義しています。

技術プラットフォームとコア技術は同じですか?

必ずしも同じではありません。コア技術は企業の競争力の源泉となる個別技術を意味することが多いのに対し、技術プラットフォームでは複数の技術や応用技術を組み合わせ、製品や顧客課題へ展開できる状態を重視します。

技術プラットフォームと技術カタログの違いは何ですか?

技術カタログは保有技術を整理した一覧です。技術プラットフォームでは、それぞれの技術によって何を解決できるのか、どの技術と組み合わせられるのか、誰がその技術について詳しいのかまで含め、実際に利用できる状態にすることが重要です。

技術プラットフォームはどのように作ればよいですか?

将来の市場や顧客課題を考え、自社技術を棚卸しし、顧客課題と技術を対応させます。そのうえで複数技術を組み合わせ、不足技術を特定し、技術者、ノウハウ、知財などを紐付けます。

まとめ

技術プラットフォームとは、単なる技術一覧ではありません。

将来の顧客課題を想定し、その解決に必要な技術をあらかじめ準備し、必要なときに組み合わせて使える状態を作ることが重要です。

技術プラットフォームが充実すれば、顧客から課題を提示されてからゼロから研究する必要がなくなります。既存技術を再利用し、不足部分だけに研究開発資源を投入できるため、開発スピードも高まります。

さらに、将来の顧客課題を予測して技術を先行して準備することで、「待ち伏せ型」の研究開発が可能になります。

技術戦略によって将来必要となる技術プラットフォームの方向性を決め、技術の棚卸しによって自社の技術資産を把握し、技術マーケティングによって顧客課題との接点を探す。

これらを一体として運用することによって、技術プラットフォームは単なる技術管理の仕組みではなく、新しい商品や事業を継続的に生み出すためのR&D基盤として機能するようになります。

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