技術戦略とは?技術の棚卸しから競争優位を生み出す技術戦略の立て方

技術戦略とは、単に「どの技術を開発するか」を決めるものではありません。研究開発を通じて将来の競争優位をつくり、高収益な商品・事業を継続的に生み出すための成長戦略です。

技術戦略とは技術者による活動のことであり、誰かが作った文章のことを指すのではない
技術戦略とは技術者による活動のことであり、誰かが作った文章のことを指すのではない

技術戦略を立てる際には、自社技術の棚卸しやコア技術の選定、技術ロードマップの作成などが行われます。しかし、自社の技術を整理して「強い技術」を選ぶだけでは、必ずしも競争優位にはつながりません。

重要なのは、将来どのような市場や顧客課題が生まれるのか、その課題に対してどのような価値を提供するのか、その価値を競合企業が簡単に模倣できないのかを考え、そのために必要な技術、研究開発テーマ、人材、知財、組織を設計することです。

本記事では、技術戦略とは何かという基本から、技術の棚卸し、コア技術、技術プラットフォーム、研究開発テーマの評価、技術マーケティング、技術戦略を実行できる組織づくりまで、実務の観点から技術戦略の立て方を解説します。

技術戦略とは?

技術戦略とは、研究開発部門発の会社の成長戦略のことです。以下のようなイメージです。

技術戦略とは、トレンドとこれから開発する技術群を結びつけ、どのような事業や成長を実現するのかと言うイメージ図でもある
技術戦略とは、トレンドとこれから開発する技術群を結びつけ、どのような事業や成長を実現するのかと言うイメージ図でもある

企業が持続的に成長するためには、現在の事業だけに依存することはできません。事業環境の変化に合わせて事業ポートフォリオを入れ替え、新しい商品や事業を生み出していく必要があります。

その役割の一部を担うのが研究開発部門です。研究開発部門には、単に現在の商品を改善するだけではなく、将来の成長産業や社会的要請を見通し、その中で競争優位を構築できる技術を準備することが求められます。

したがって技術戦略では、将来の市場や社会の変化、顧客が抱える課題、自社が保有する技術、今後必要になる技術、競合企業の技術、知財、不足する技術をどのように獲得するかといった複数の要素をつなげて考えます。

さらに、それらを研究開発テーマや技術ロードマップ、人材配置、予算配分まで落とし込む必要があります。

技術戦略の学術的定義

当社の基本的な戦略論、技術戦略論の考え方は、伊丹敬之先生(一橋大学名誉教授)の論文等に立脚しています。

伊丹先生によれば、戦略という言葉を「市場の中の組織としての活動の長期的な基本設計図」と位置づけています。

この活動というのが肝要なポイントで、技術戦略策定の考え方は技術者が個人・集団で行う活動にフォーカスを当てるべきです。

技術戦略の策定は「活動」である。

参考文献
経営戦略の論理(日本経済新聞社)

アカデミックな「技術戦略」の意味

当社では、技術戦略とは、「将来市場の中で競争力のある基盤技術を充実させる活動の基本設計図」と位置づけています。

技術戦略の策定方法について、詳しくはこちらをご覧ください。

「将来市場の中で競争力のある」

企業として、将来の市場で高い収益を上げられるのは非常に強い要請です。当社は、「将来市場」という言葉で、既存事業が将来どのような環境に置かれるのか?将来どのような市場が出現するのか、に関して技術者が知見を得なければならないという意味づけしています。

「技術プラットフォーム(基盤技術)を充実させる」

当社は基盤技術によって製品が生み出されるという考え方をしています。当然、製品化する目的で技術開発をしますが、製品化に失敗しても技術は残り、技術によって異なる製品を生み出すことは可能だからです。技術を重視し、技術によって実現できるものづくりと市場創造をするべきです。

これを「基盤技術充実の原則」と言っています。技術プラットフォームを充実させる、と読み替えてもOKです。

企業では、この基盤技術充実の原則を徹底するために、将来市場で競争力のありそうな技術領域の特定をしなければなりません。

「活動の基本設計図」

将来市場で競争力のありそうな技術を特定し、基盤技術を充実させることは極めて重要であることは言うまでもありませんが、これが組織内の活動として定義されていることが重要です。

「活動」とは、研究企画部門などの一部組織の活動という訳ではありません。基盤技術をテーマにし、研究していくのは常に現場だからです。そのため、現場レベルで「将来市場で競争力のありそうな技術」を特定している必要があります。

技術戦略策定に関わる責任者は、どのような分析を行わせてどのような技術戦略を策定させるか、揺るぎない考え方とノウハウを持っている必要があります。

技術戦略の目的、機能する場合、機能しない場合

技術戦略の目的は競争優位をつくることである

技術戦略の目的を一言で表現すれば、競争優位をつくることです。

研究開発投資を行い、新しい技術や商品を開発しても、競合企業と同じことしかできなければ、価格競争に巻き込まれる可能性があります。一時的に新しい商品を出せても、競合に簡単に模倣されれば、高い収益性を長期間維持することは難しくなります。

そのため技術戦略では、「技術的に実現できるか」だけではなく、「その技術によってどのような顧客価値を生み出せるのか」「なぜ競合よりも優れた価値を提供できるのか」「その優位性を維持できるのか」というところまで考える必要があります。

言い換えれば、技術戦略の最終的な目的は、高収益な商品や事業を継続的に生み出せる組織能力を獲得することにあります。

技術戦略不全:ステージとゲート、それぞれが不十分

研究開発には技術主導で会社を成長させる戦略が求められています。会社は、事業ポートフォリオを常に入れ替える必要があります。研究開発部門は、技術戦略とそれに伴う高収益な新商品・新事業を生み出せる仕組みにより会社の成長戦略に貢献するのです。

技術戦略には以下のものを含みます。

  • 将来の成長産業・社会的要請・トレンド
  • 成長産業・トレンドに必要な技術
  • 当社技術との整合・不足技術
  • 顧客の潜在課題・技術プラットフォーム
  • 不足技術の獲得戦略
  • 基盤技術ごとのロードマップ

ここで言う技術戦略は、下で言う「高レベル 会社レベルの資源配分戦略」や「中レベル 事業レベルの事業・技術戦略」を指しています。

高レベル 会社レベルの資源配分戦略
中レベル 事業レベルの事業・技術戦略
低レベル 商品・技術戦略

なお、評価が厳しすぎてテーマが出なくなってしまったという場合には、テーマ創出が課題となりますので、テーマ創出に関するこちらをご覧ください。

技術戦略不全:研究開発テーマの関連性がないケース

研究開発テーマが分散してしまうとお感じでは無いでしょうか?

それは、次世代のコア技術が決まっておらず、基準がはっきりしないためです。そのようなケースでは「あるテーマは全てやる」になってしまいます。

技術戦略とは、テーマを束ねて、1つまたは少数の技術から発生する事業を指すこともある。
技術戦略とは、テーマを束ねて、1つまたは少数の技術から発生する事業を指すこともある。

また、競争優位性の評価が甘く、何でも通してしまうケースもあります。潜在ニーズや競合の調査が甘く、事業的にも技術的にも繋がりが薄いようなテーマにも予算をつけてしまうのです。

こうなると、テーマは散在し、技術的な連携も事業的な繋がりもなく、投資効率は極めて低いものになってしまいます。同じ事業体でやっている意味がないものとなります。

予算計画が技術戦略になっていないか

企業の研究開発を見ていると、毎年の予算申請が事実上の技術戦略になってしまっていることがあります。

営業部門や事業部門から顧客要望が集まり、研究開発部門がその中から実行できそうな案件を選び、翌年度の開発予算を決めます。予算もテーマ一覧も存在するため、一見すると研究開発計画がきちんと作られているように見えます。

予算策定は技術戦略ではない

しかし、その判断基準が「現在の自社技術でできること」になっている場合があります。

本来の戦略では、「何をすれば競争優位をつくれるか」を考えなければなりません。それにもかかわらず、現在できる技術の範囲から研究テーマを決めてしまえば、「できることベース」の予算計画になってしまいます。

特に中長期の研究開発では、現在できないからこそ研究する価値があります。将来必要になる技術を予測し、現在不足している技術を明確にし、それをどのように獲得するのかまで考える必要があります。

技術戦略は「コア技術を決めること」では必ずしもない

技術戦略を考える際によく登場するのが「コア技術」です。コア技術を明確にし、その技術を磨き、コア技術から新商品や新規事業を生み出そうという考え方は、技術経営では長く使われてきました。自社固有の技術を持つことは、現在でも重要です。

しかし、コア技術を決めること自体が技術戦略になってしまうと問題が生じます。例えば、自社と競合企業が異なるコア技術を持っていたとしても、その技術によって顧客へ提供される価値がほとんど同じなら、顧客から見れば大きな違いにはなりません。

重要なのは、「自社独自の技術か」ではなく、「その技術が顧客にどのような違いをもたらすのか」です。また、技術環境そのものが変化すれば、長年磨き上げたコア技術が価値を失うこともあります。ブラウン管のように、製品アーキテクチャ自体が変化すれば、それまで競争力の源泉だった技術が市場とともに縮小することもあります。

したがって、技術戦略ではコア技術を固定的なものとして考えるのではなく、将来の顧客価値や産業構造の変化から逆算して考える必要があります。この点については「コア技術を重視すれば新規事業が生まれる」という考え方の限界を、別の記事で詳しく解説しています。

「コア技術理論」は死んだ――コア技術起点の技術戦略に潜む問題点はこちら

技術戦略と研究開発テーマの関係性

技術戦略をテーマに具体化するという流れは本当か?

技術戦略を先に策定し、その戦略を研究開発テーマへ落とし込んでいく、という考え方があります。一見すると非常に合理的です。まず会社として進むべき方向を決め、その方向に沿って必要な研究開発テーマを設定する。戦略と研究開発活動が明確につながるため、正しい戦略展開の方法のように見えます。

しかし、実際の研究開発の現場では、このような「戦略を作ってからテーマへ落とす」という流れだけで運用されているケースは、それほど一般的ではありません。むしろ実務では、研究開発テーマが先に生まれ、その中から有望なテーマが選ばれ、結果として会社の技術戦略を形づくっていくという流れの方が自然です。

なぜなら、研究開発は技術者にとって日常的な活動だからです。技術者は現在担当している研究開発テーマに取り組みながら、新しい知見を得ます。研究を進めていけば、当初想定していなかった技術的な可能性が見えてくることもあります。また、ある技術と別の技術を組み合わせることで、これまで解決できなかった顧客課題を解決できる可能性が生まれることもあります。

テーマが技術戦略に化するという流れは自然か?

つまり、技術は研究開発の過程で常に変化し、発展していきます。そのため、その技術を最もよく理解している技術者自身が、「この技術をさらに発展させれば、このような用途に使えるのではないか」「この技術と別の技術を組み合わせれば、新しい顧客価値を生み出せるのではないか」と考え、新たな研究開発テーマを立案することは非常に自然なことです。

こうして生まれた多数の研究開発テーマの中から、技術的な可能性、市場性、顧客価値、競争優位性などを評価し、有望なテーマを選びます。そのテーマに人材や予算を投入し、さらに技術を深掘りしていく。その過程で重要性が高まったテーマが、やがて会社として重点的に取り組む技術領域となり、結果として技術戦略を形成していきます。

したがって、「技術戦略が先にあり、それを研究開発テーマに具体化する」という一方向の流れだけで技術戦略を考えると、実際の研究開発活動とは少しずれが生じます。もちろん、技術戦略を先に策定し、それをテーマへ展開する考え方が間違っているわけではありません。

そもそも二項対立で考えるべき問題なのか?

研究開発は、経営企画部門が年に一度だけ行うような活動ではありません。技術者にとっては日常的な活動です。既存テーマを進めている間にも技術は進歩しますし、思いがけない技術的知見が得られることもあります。また、ある技術と別の技術を組み合わせることで、それまで想定していなかった顧客課題を解決できる可能性が見えてくることもあります。

こうした技術の発展や組み合わせの可能性に最も早く気づくのは、通常、その技術を日常的に扱っている技術者です。そのため、新しい研究開発テーマが現場から提案され、その中から有望なものが残り、やがて会社として注力すべき方向として認識されていくという流れは、研究開発の実態に非常によく合っています。

一方で、「まず技術戦略を作り、それを研究開発テーマへ具体化する」という考え方も当然存在します。そのため、技術戦略と研究開発テーマの関係を考えるとき、「戦略からテーマを作るべきなのか、それともテーマから戦略を作るべきなのか」という二項対立で捉えてしまうことがあります。

しかし、私は、この二つの考え方のどちらか一方だけが正しいとは考えていません。重要なのは、その会社に現在どの程度のテーマ提案能力があるのかによって、適切な進め方が変わるということです。

実務にフィットした考え方を

まず、「技術戦略を作り、その戦略をテーマに具体化する」という方法には、実務上かなり高いハードルがあります。この方法を取るためには、研究開発テーマを立案する前に、十分な質の技術戦略を作らなければなりません。

そのためには、市場の将来性、顧客課題、競合企業の技術、自社が保有する技術、大学やスタートアップの技術動向などを広範囲に調査し、「今後どの領域を狙うべきか」を判断する必要があります。しかも、その作業を一定の時期に集中して行う必要があります。中期経営計画の策定時期や年度計画の策定時期に合わせて、各技術分野の情報を集め、将来を考え、戦略をまとめなければなりません。

ここには大きなリソース上の問題があります。

技術戦略を作るためには、その会社が持つ幅広い技術を理解できる人材が必要です。さらに、その技術がどの市場で使えるのか、どの顧客課題を解決できるのか、競合技術と比較してどの程度優位なのかまで考えなければなりません。

「技術戦略部門が専門的に担当すればよい」という考え方もあります。しかし、実際には会社全体の技術を理解し、将来の技術戦略を構想できる能力と権限を持った人材を、少人数の技術戦略部門に集めることは容易ではありません。

特に大企業では、技術領域が非常に広くなります。材料、プロセス、機械、ソフトウェア、制御、データ解析など、多様な技術が複数の事業部門に分散しています。そのすべてを少数の戦略担当者が深く理解し、将来性まで判断することは現実的には困難です。

R&Dの日常にフィットするのは?

その意味では、多くの技術者が日常的にテーマを考え、提案し、その中から有望なテーマを選び、共通性のあるものを束ねて技術戦略へ昇華させていくという方法の方が、実際の企業運営には適していることが多いです。

ここで重要なのは、「テーマから戦略を作る」といっても、単に既存テーマを一覧表にして戦略と呼ぶわけではないということです。例えば、複数の技術者から、ある市場に関連した研究テーマが提案されているとします。一つひとつを見ると個別の研究テーマですが、それらを俯瞰すると、「今後成長する○○市場に向けて、この技術群を強化する」という共通した方向性が見えてくる場合があります。

複数のテーマを融合したり、共通する顧客課題や市場機会を抽象化したりすることで、「当社は今後○○市場を重点領域とする」「○○という顧客価値を技術によって実現する」といった技術戦略として表現できるようになります。

この方法には大きな利点があります。すでに具体的な研究開発テーマが存在しているため、戦略が単なる抽象論になりにくいことです。経営者や投資家に対しても、「今後この市場を狙います」というだけではなく、「そのためにすでにこの研究テーマとこの研究テーマが動いており、これらを統合するとこのような競争力を構築できます」と説明できます。

つまり、具体的なテーマが先に存在していることで、そのテーマを抽象化して作られた技術戦略には実態が伴います。戦略と研究開発活動の間に断絶が生じにくく、結果として非常に整合性の高い技術戦略を作ることができます。

では、テーマ提案が活発ではない会社ではどうすればよいのでしょうか。

ここが重要なポイントです。テーマ提案が少ない会社ほど、「それなら経営や技術戦略部門が先に技術戦略を作り、その戦略を現場へ下ろせばよい」と考えがちです。しかし、実際にはこの方法も簡単ではありません。

そもそも研究開発テーマがほとんど提案されていない会社では、現場から将来の技術機会や顧客課題についての情報が十分に上がってきていない可能性があります。その状態で戦略部門だけが将来の技術戦略を作ろうとしても、判断材料そのものが不足しています。

「戦略がないからテーマが出ない。テーマがないから戦略を作れない」という、いわば鶏と卵の状態に陥ります。このような会社では、最初から美しい技術戦略を作ろうとするのではなく、まず「どのような研究開発テーマなら将来お金になるのか」「どのような顧客課題に自社技術を使えるのか」を現場で考える活動を増やす必要があります。

つまり、戦略策定の前にテーマ創出能力を高める必要があります。

個々の技術者、チームによるテーマ創出が先

顧客課題を探索する、営業と技術が一緒に市場を見る、競合技術を調べる、大学やスタートアップの技術を調査する、自社技術の新しい用途を考える、といった活動を通じて、まずテーマ候補を増やします。

その中から有望なものがいくつか現れてくれば、それらの共通点を探し、統合し、抽象化することができます。そこで初めて、「自社は今後この市場を狙うべきである」「この顧客価値を実現する技術群を強化すべきである」といった技術戦略を、具体的な研究開発テーマを伴った形で描けるようになります。

逆に、すでにテーマ提案が活発な会社では、テーマから戦略を作るだけでは不十分になる場合があります。多くのテーマが次々と提案される会社では、個々のテーマには魅力があっても、会社全体として研究開発資源が分散する可能性があります。そのような段階になると、「会社としてどの領域に集中するのか」という上位の技術戦略を明確にし、その戦略を基準としてテーマを追加・修正・統合していくことが重要になります。

この段階では、「テーマから戦略を作る」というボトムアップの流れに加えて、「技術戦略からテーマを具体化する」というトップダウンの流れを組み合わせることができます。したがって、技術戦略と研究開発テーマの関係は、一方向ではありません。テーマ提案がまだ十分ではない会社では、まず現場からテーマ候補を生み出す活動を活発化させ、有望なテーマを束ねながら技術戦略を形成していくことが必要です。

一方、テーマ提案が活発になり、複数の有望テーマが存在する会社では、それらを抽象化して技術戦略を作ると同時に、その技術戦略から新たなテーマを逆算して作ることも可能になります。

理想的なのは、「テーマから戦略へ」と「戦略からテーマへ」という二つの流れが循環している状態です。

現場から新しい研究開発テーマが提案され、そのテーマを通じて新しい技術的可能性や市場機会が見つかります。それを経営や技術戦略部門が俯瞰し、共通する方向性を技術戦略として言語化します。そして、その技術戦略を再び現場へ示すことで、「この方向であれば、さらにこのテーマも必要ではないか」という新たなテーマが生まれます。

この循環が回ることで、技術戦略は単なる計画書ではなく、日々の研究開発活動から形成され、同時に日々の研究開発活動を方向づけるものになります。そのため、技術戦略を考える際に最も重要なのは、「戦略が先か、テーマが先か」を決めることではありません。

自社では現在、研究開発テーマがどの程度活発に提案されているのか。そのテーマは顧客価値や競争優位まで十分に考えられているのか。複数のテーマを束ねて戦略として説明できる状態になっているのか。

こうした組織の現在地を見極め、その成熟度に応じて「テーマから戦略へ」「戦略からテーマへ」という二つの流れの比重を変えていくことが、実務的な技術戦略マネジメントなのです。

研究開発テーマをGO/STOPだけで評価しないマネジメントも

テーマ創出を活発に行う必要がありますが、その際にテーマ評価が必要になります。技術戦略につながるような野心的テーマを活発に創出するのに注意したいのが、研究開発テーマを単純なGO/STOPだけで評価することです。

ステージゲート法では、一定の評価基準をクリアすればGO、満たさなければSTOPという運用が行われます。しかし、評価基準を厳しくするだけでは、良いテーマが増えるとは限りません。

実際には、「今のままでは競争優位にならない」という評価を受けたテーマでも、顧客価値の設定やターゲット市場、技術的な差別化方法を見直すことで、魅力的なテーマになることがあります。

したがってテーマ評価では、「GOかSTOPか」だけではなく、「どこを修正すれば競争優位のあるテーマになるのか」を議論することが重要です。評価の目的をテーマの選別だけに置くのではなく、テーマの質を高めることにも置くべきです。

研究開発テーマのSTOP判断と「見直し」「再出発」の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。

そのSTOP判断、本当に必要ですか?――研究開発テーマ評価の考え方はこちら

テーマ評価の甘さが技術戦略に影響する

こんなことはありませんか?

  • テーマの評価が非常に甘いため、仕込みも甘い
  • 事業化段階になって様々な課題に直面し、結局事業化に至らない
  • 逆にテーマ評価が厳しくほとんどの提案がダメになる、しまいには若手が意気消沈している
テーマの評価が甘ければ、テーマの創出が甘くなり、技術戦略が策定不可能になっていく
テーマの評価が甘ければ、テーマの創出が甘くなり、技術戦略が策定不可能になっていく
チェックしてください
チェックしてください

あなたの会社でも、甘い仕込みになっていませんか?

実はこのような問題はよくある話です。解決することはそれほど難しい話ではありませんが、甘い仕込みー甘い評価は根が深い問題です。

技術戦略は年に一度作るものではない

良い技術戦略を作るためには、技術戦略策定プロジェクトだけを充実させても十分ではありません。技術戦略の質を左右するのは、むしろ普段の研究開発活動です。例えば、魅力的ではあるものの技術的な実現可能性がまだ低いテーマがあったとします。

年に一度の予算編成時だけにそのテーマを検討すれば、「実現可能性が低い」という理由で候補から外れてしまうでしょう。一方で、日頃から大学の研究者を探したり、外部技術を調査したり、実験を行ったりして技術的な可能性を深掘りしていれば、次回の戦略策定時には精度の高い情報を提示できます。

つまり、技術戦略とは文書を作る仕事ではありません。将来重要になるかもしれないテーマについて、日常的に情報を集め、仮説を作り、検証し、情報の精度を高めていく活動そのものが技術戦略なのです。この考え方については、技術戦略を作るための日常業務と体制という観点から、以下の記事で詳しく説明しています。

実践的な技術戦略の立て方その①「体制について」――技術戦略を支える日常業務はこちら

「業界初」だから競争優位とは限らない

研究開発テーマの評価では、「競合企業がまだ商品化していない」「業界初である」という説明がなされることがあります。もちろん、新しい技術や商品を他社より先に開発することには意味があります。しかし、「競合が現在やっていないこと」と「競合がやろうとしてもできないこと」は全く違います。

競合商品が存在していなくても、競合企業が同等の技術を持っていれば、自社の商品を見た後ですぐに追随される可能性があります。したがって、技術戦略では競合製品の有無を調べるだけでは十分ではありません。競合企業がどのような技術を保有しているのか、その技術を使えば自社と同じものを実現できるのかまで考える必要があります。

特許が取れたことは競争優位の証拠にならない

特許についても同じです。「特許を取得できる」ということと、「競合を排除できる」ということは同じではありません。特許を取得できても、競合が別の方法で簡単に回避できるのであれば、長期的な競争優位にはなりにくいからです。

技術戦略では、新規性だけではなく、模倣可能性、知財による排他性、競合が代替技術を開発できる可能性まで考えて研究開発テーマを評価する必要があります。

競合がまだ実施していないテーマと、競合が実施できないテーマの違いについては、実際の研究開発会議を題材にした以下の記事でも詳しく解説しています。

「業界初のテーマ」を簡単に認めても良いのか?――競争優位と模倣可能性の考え方はこちら

技術戦略の立て方

技術戦略の策定では、自社技術だけを見るのではなく、将来の市場、顧客課題、競合、自社技術を行き来しながら考える必要があります。

ここでは、技術戦略策定の流れを説明します。

1.将来の市場・社会・技術の変化を考える

最初に考えるべきなのは、自社技術ではありません。

将来、社会や産業がどのように変化するのかを考えます。その変化によって顧客企業の事業はどう変わり、どのような課題が生まれるのかを予測します。

技術トレンドだけを見るのではなく、人口動態、制度、環境問題、エネルギー、サプライチェーン、産業構造など幅広い変化を見る必要があります。

ここで重要なのは、未来を正確に予言することではありません。

複数の可能性を考えながら、「このような社会になった場合、顧客にはどのような課題が生まれるか」を考えることが目的です。

2.顧客課題と提供価値を明確にする

次に、将来の顧客が抱える課題を具体化します。

「環境対応が重要になる」「DXが進む」といった大きなトレンドだけでは、研究開発テーマを決めることはできません。

顧客企業の製品、製造工程、サプライチェーン、コスト構造、法規制などを調査し、「顧客は具体的に何に困るのか」というところまで掘り下げる必要があります。

そして、その課題に対して自社がどのような価値を提供するのかを考えます。

技術戦略を技術起点だけで考えず、顧客価値を起点に考えることが重要です。

3.自社技術を棚卸しする

将来の市場や顧客課題を考えたうえで、自社技術を棚卸しします。技術の棚卸しというと、研究所や事業部が持つ技術を「大分類・中分類・小分類」に分け、Excelに一覧化する作業になりがちです。

しかし、一覧表を作ること自体が目的ではありません。

美術の棚卸しは、テーマ創出の起点になること
美術の棚卸しは、テーマ創出の起点になること

技術の棚卸しの目的は、自社がどのような顧客価値を生み出せるのかを理解し、技術戦略を策定するための材料を得ることです。

そのため、単なる技術名称ではなく、「その技術によって何ができるのか」「どのような機能を実現できるのか」「どの技術と組み合わせることで新しい価値を生み出せるのか」という視点から整理します。

技術を適切な粒度で機能的に捉え直すことで、異なる事業部門が持つ技術の共通性や、これまで想定していなかった技術の組み合わせが見えてくることがあります。

4.競争優位性を検証する

自社技術と顧客課題を結びつけたら、「それによって本当に競争優位を作れるのか」を検証します。

ここで重要になるのが競合分析です。

競合の商品だけを見るのではなく、競合が保有している技術、特許、研究開発の方向性などを調べます。

自社が新しい商品を開発した時に、競合が同じものを作れるのか。簡単に追随できるのであれば、どの部分を変えれば模倣困難になるのか。特許やノウハウ、製造技術、データ、顧客との関係などを組み合わせて、どのように参入障壁を形成するのかを考えます。

技術戦略の質を高めるうえで、「競合が今やっているか」から「競合が将来できるか」へ視点を変えることは非常に重要です。

5.技術プラットフォームを形成する

技術の棚卸しと将来顧客課題の分析を行ったら、それらを技術プラットフォームとしてまとめていきます。当社では、技術プラットフォームを「顧客課題を解決するために予め準備された技術群」と定義しています。


技術プラットフォームとしてまとめることにより、将来の課題解決事業に備える
技術プラットフォームとしてまとめることにより、将来の課題解決事業に備える

単一の技術ではなく、複数の技術を組み合わせて顧客課題に対応できる状態を作ることがポイントです。

顧客から要望を受けてから技術開発を始めるのではなく、将来発生すると予想される課題を先回りし、必要な技術を準備しておきます。

このような技術プラットフォームが形成されていれば、顧客ニーズが顕在化した時に素早く対応できます。また、市場が形成される前に研究開発を行えるため、競争優位につながる知財を取得できる可能性も高まります。

技術プラットフォームは、単なる技術データベースではありません。

「誰のどのような課題を解決するための技術群なのか」が明確になって初めて、技術戦略上の意味を持ちます。

6.不足技術を明確にして獲得する

将来必要になる技術と自社技術を比較すると、不足している技術が見えてきます。

その不足技術をすべて自社開発する必要はありません。

自社で研究開発するのか、大学と共同研究するのか、スタートアップと連携するのか、技術導入やM&Aを行うのかを検討します。

重要なのは、「現在持っている技術から何ができるか」だけを考えないことです。

将来の競争優位を作るために必要な技術を先に考え、そのうえで不足する技術をどのように獲得するかを決めます。

これが「できることベース」の研究開発から、「必要なことベース」の研究開発へ移行するということです。

7.研究開発テーマと技術ロードマップに落とし込む

技術戦略は、研究開発テーマに落とし込まれて初めて実行されます。

将来の顧客課題、提供価値、競争優位、そのために必要な技術を明確にしたうえで、「いつまでにどの技術をどのレベルまで高める必要があるか」を考えます。

これを時間軸に展開したものが技術ロードマップです。

技術ロードマップだけを作るのではなく、その前段階にある「なぜその技術が必要なのか」という戦略とのつながりを明確にすることが重要です。

そうすることで、研究開発テーマの優先順位や予算配分についても、「昨年から継続しているから」「事業部から要望されたから」ではなく、将来の競争優位という共通基準で議論できるようになります。

技術戦略を実行できる組織をつくる

良い技術戦略があっても、組織が動かなければ成果にはつながりません。

特に中長期テーマでは、短期的には売上や利益につながらない研究活動が必要になります。そのため、研究者や技術者の自主性だけに任せることはできません。

経営として人と予算を配分し、将来テーマを深掘りする時間を確保する必要があります。

また、現場の技術者から出された将来テーマの提案を受け止め、一定の探索を許容する仕組みも必要です。

さらに重要なのが評価制度です。

技術者が短期テーマへの対応だけで評価されるのであれば、中長期テーマを探索する行動は起こりにくくなります。

特に中間管理職の評価は重要です。管理職が短期的な売上や開発納期だけで評価されれば、部下にも短期テーマを優先させるようになります。

技術戦略、人員配置、予算、研究開発テーマ評価、人事評価は別々の制度ではありません。

将来の競争優位を作るという目的から逆算して、一貫した仕組みにする必要があります。

技術戦略と周辺活動との関係性

技術戦略と技術マーケティングの関係

技術戦略と技術マーケティングは密接に関係しています。技術戦略によって技術プラットフォームを形成しても、顧客課題についての情報が入ってこなければ、技術を有効に活用することはできません。

技術マーケティングとは、研究開発テーマの創出をした上で、技術シーズが創出できますが、その技術シーズの用途開発をしていく上で必要な課題解決提案のことです。その課題解決提案をすることによって、用途開発を加速化することもできれば技術シーズを収益に結びつけることも可能です。

一方、営業部門が顧客要望を集めるだけでも不十分です。顧客が現在口にしている要望は、必ずしも将来の潜在課題ではないからです。営業と技術が共同で顧客の事業環境や将来課題を考え、技術プラットフォームと照合することで、新しい用途や研究開発テーマを生み出すことができます。

技術マーケティングによって得られた情報を技術戦略へ戻し、技術戦略によって形成した技術プラットフォームを再び市場で検証するという循環を作ることが重要です。技術マーケティングについて、詳しくはこちらをご覧ください。

技術戦略と技術の棚卸しの関係

技術の棚卸しは、技術戦略を作るための重要な作業です。しかし、「技術の棚卸しを実施すれば技術戦略ができる」というわけではありません。技術を一覧化するだけでは、技術資産を整理したにすぎません。

将来の市場や顧客課題と照らし合わせ、「この技術を使えばどのような価値を生み出せるのか」「どの技術を組み合わせるべきなのか」「将来不足する技術は何か」という議論につなげる必要があります。

その意味で、技術の棚卸しは技術戦略のゴールではなくスタート地点です。技術の棚卸しについて、詳しくはこちらをご覧ください。

技術戦略と技術プラットフォームの関連性

技術プラットフォームとは、将来の顧客課題を解決するために、あらかじめ準備された技術群です。技術戦略によって投資が決定されたテーマ群を実行することによって、技術プラットフォームが出来上がると言う駅伝の流れを想定してみてください。技術プラットフォームによって顧客課題を解決することにより、競合にはできない独自の顧客価値を提供し、収益を上げます。

技術戦略とコア技術の関係

コア技術も同様です。コア技術とは、「差異化要素を発揮する技術」という意味で用いていますが、技術戦略はコア技術を決めること自体が目的ではありません。現在の自社の強みを理解することは重要ですが、その技術が将来も価値を生み続ける保証はないからです。

そのため、「自社のコア技術は何か」という問いだけではなく、「将来どのような顧客価値が重要になるか」「その価値を実現するために将来のコア技術は何であるべきか」という問いも同時に持つ必要があります。

現在の強みを守るだけではなく、将来の強みを意図的に作ることも技術戦略の役割です。

技術戦略と技術ロードマップの関係

技術ロードマップは、技術戦略を時間軸へ展開するための手段です。

技術戦略で将来の顧客価値や必要技術を定めた後、「何年後までにどの技術をどの水準へ引き上げるのか」を明確にします。したがって、技術ロードマップだけを単独で作ると、「技術の進化予定表」になってしまう危険があります。

市場、顧客価値、事業、商品、技術をつなぎ、「なぜこの時期にこの技術が必要なのか」を説明できる状態にすることが重要です。

技術戦略の成果は文書だけではない

技術戦略策定の成果として、技術戦略書、技術マップ、技術ロードマップ、技術プラットフォームなどの文書が作成されます。

しかし、技術戦略策定の本当の成果は文書だけではありません。事業環境は変化します。顧客課題も変化します。競合企業の技術も変化します。したがって、一度作成した技術戦略が何年間もそのまま正しいということはありません。

重要なのは、環境変化を捉え、自社技術を理解し、顧客価値と競争優位を考え、必要に応じて技術戦略を修正できる人材と組織を作ることです。

技術の棚卸しや技術戦略策定に技術者自身が参加することには、この意味があります。策定活動を繰り返すことで、技術者が市場、顧客、競合、知財、技術を横断して考えられるようになれば、組織そのものの技術戦略策定能力が高まります。

技術戦略策定のポイント

技術戦略は、自社が持つ技術の中から「強い技術」を選ぶ作業ではありません。

将来の市場や顧客課題を予測し、提供すべき顧客価値を考え、その価値を競合より優れた方法で実現するために必要な技術を準備することが基本になります。

そのためには、将来市場と顧客課題を捉え、自社技術を棚卸しし、競合の技術と比較しながら競争優位性を検証します。そのうえで必要な技術プラットフォームを形成し、不足技術を獲得し、研究開発テーマや技術ロードマップへ落とし込みます。

さらに、研究開発テーマをGO/STOPだけで判断するのではなく、より競争優位のあるテーマへ改善する仕組みを作り、日常的に将来テーマを深掘りできる人員、予算、評価制度を整える必要があります。

技術戦略とは、一度作って終わる計画ではありません。

市場、顧客、競合、技術の変化を継続的に捉えながら、研究開発テーマや資源配分を更新し続ける活動です。

その活動を通じて、競争優位のある高収益商品や事業を継続的に生み出せる組織を作ることこそ、技術戦略の最終的な目的なのです。

技術戦略についてよくある質問

技術戦略とは何ですか?

技術戦略とは、一義的には技術者の活動です。特に研究開発テーマを創出し、競争優位性を実現しようとする活動を言います。そのようにしてテーマを創出し、束ねる活動を技術戦略策定活動といいます。研究開発や技術を通じて将来の競争優位を構築し、会社の成長につなげるための戦略とも言えます。単に開発する技術を決めるのではなく、将来の市場や顧客課題、競合、自社技術を踏まえて、必要な技術、研究開発テーマ、人材、知財、予算などを設計します。

技術戦略と技術ロードマップの違いは何ですか?

技術戦略は「将来どのような競争優位を作り、そのためにどの技術を獲得するか」を決めるものです。技術ロードマップは、その戦略を時間軸に展開し、いつまでにどの技術をどの水準まで開発するかを示すものです。そのため、技術ロードマップは技術戦略を実行するための手段の一つと考えられます。

技術の棚卸しをすれば技術戦略を策定できますか?

技術の棚卸しだけでは技術戦略にはなりません。技術の棚卸しは、自社が何をできるのかを把握するための作業です。その結果を将来の市場や顧客課題、競合の技術と照合し、将来必要になる技術や不足技術を明確にすることで、初めて技術戦略につながります。

コア技術を決めることが技術戦略なのでしょうか?

コア技術の特定は技術戦略の一部ですが、それだけでは十分ではありません。自社独自の技術であっても、顧客から見た価値が競合と同じであれば差別化にならないからです。重要なのは、コア技術そのものではなく、その技術によってどのような顧客価値と競争優位を生み出せるかです。

「コア技術理論」は死んだ

技術戦略は誰が策定すべきですか?

研究企画部門だけで作るのではなく、研究開発、事業、営業、知財などの関係部門が参加することが望まれます。特に技術者自身が市場、顧客、競合、自社技術を考える活動に参加することで、技術戦略を継続的に更新できる組織能力を育てることができます。


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