実践的な技術戦略の立て方その㉙R&Dの変革、できる会社とできない会社の違いとは?

今日のコラムでは、R&Dの変革をやり遂げる会社とそうでない会社の相違点について説明します。このコラムを読まれている皆さんはR&Dに取り組まれているだろうと思いますが、自社の変革について「どうもうちの会社は遅いな」とか「全然変わらないな」という感想をお持ちかもしれません。そういう違和感の正体とは何なのか、迫っていきます。

今日のコラムを読むことでうまくいっていない原因を掴むことが出来るとともに、改善の処方箋まで手にすることができます。ぜひ最後までお読みください。

まずはこのテーマで書こうと思ったキッカケを説明させてください。筆者はR&D変革のコンサルタントなので、日常的にR&D変革のご相談に乗ります。以前は「技術の棚卸し」、「テーマ創出」などの手法に関するご相談が多かったのですが、最近多いのはR&Dの変革に関するご相談が多いです。

非常に多くの会社で「R&Dの変革に取り組んでいるものの結果が出ていない」というご相談があるのです。そのような相談がある場合、コンサルタントとして、取り組んだ内容や背景についてお話をお聞きします。そうすると、うまく行かない会社にはある共通事項があるのです。

その共通事項とは然るべき体制をとっていないことです。然るべき体制とは、目的としているR&D変革が実現できる組織体制のことです。この体制を取らずにコンサルを進めても上手くいきませんから、体制をとるように強くオススメするのです。

体制をとれば、R&D変革はうまくいきます。しかし、ご相談時にお話をお聞きしていると体制を取らずに変革をしようとしていることが多いのです。どういうことか以下で詳述します。

うまく行かない会社はトップの顔が見えづらい

コンサルタント目線でその原因、つまり変革できない会社の特徴を一言で言うならば、「トップの顔が見えない」ことがあります。誰が決めているのか分からないのです。

例えば、R&D変革のためのコンサルティングをやるとしましょう。コンサルの現場にトップが出てこないのです。出てきても冒頭挨拶のみですぐに帰ってしまう。残された現場では、変革の企画を練るのですが、トップの関心が薄いことを知っていますので、モチベーションも上がらないのです。

トップの顔が見えないことの悪影響は現場のモチベーションだけではありません。より大きいのは優先順位の調整ができないことです。優先順位について、どういうことか分かりやすく説明しましょう。

分かりやすくするために、R&D変革を受験にたとえてみます。R&D変革は一時期に集中してやりきるもの、そういう意味で受験に似ています。受験に成功するには、一時期集中しなければなりませんよね。

受験には失敗する子もいる訳です。どういう原因で失敗するかといえば、例えば恋愛があるでしょう。恋愛と受験とどちらかに集中せずに「受験も恋愛も」となってしまう。その結果、不合格になります。

R&D変革も同じです。R&D変革の場合、恋愛に当たるのが既存業務です。どっちつかずで「R&D変革も既存業務も」となってしまえば変革は上手く行かない、という訳です。

変革の現場では、できるだけ効果を優先したいもの。「R&D変革も既存業務も」となれば、どっちつかずになり結果は出ません。現場では常に「R&D変革か既存業務か」の優先順位をつけて行かなければなりません。要するに、既存業務の優先順位を下げてもR&D変革を実行したいのです。

このような優先順位付けは、トップでないとできません。しかし、関心が薄いため関与してもらえない。そんなトップでも力を持っているもので、現場からは「優先順位付けが必要」とは言いにくい雰囲気がある。そんな状況で優先順位付けができずに変革が頓挫しているケースはザラにあります。

変革できる会社ではどうなっているか?

一方、変革できる会社では、トップの顔が見えます。変革の実効性にコミットするのはあくまでもトップです。そのため、変革の現場に強い関心を持っていて、会議の冒頭挨拶だけをして帰ったりはしません。

変革の現場に強い関心を持つというのはどういうことかといえば、マイクロマネジメントという意味ではありません。変革実施時に起こる現場での問題を解決することを指します。

R&Dの変革をする際、ほぼ必ず既存業務を通常通りにはできなくなります。例えば開発テーマを止める場合、そのテーマに関係する社内関係者の処遇や顧客への影響にどのように対処するのかを決める必要があるのですが、現場だけでは調整が難しいのです。

そういう時にトップがいるといないとでは大違いなのです。いればその場で解決できます。仮にいなかったとしても、トップが関心を持っていることを現場が知っていれば、問題を報告し対処を相談出来るというわけです。そのため、トップが重大な関心を持っていれば、変革の現場では思い切り改革案を推進できます。

逆にトップが関心を持っていないとどうなるでしょうか?現場は報告もせずに、「やったふり」をせざるを得ないのです。「やったふり」とは、例えばステージゲート制度を創設するというもの。「ステージゲートができました」と言えばやった風には聞こえますが、制度ができたからと言って効果は出ません。結果として、効果が出ないで終わるのです。

変革できる会社、できない会社の違い まとめ

コラムが長過ぎるのも嫌なので、R&D変革できる会社とそうでない会社の違いを簡単に表にまとめておきます。

R&D変革に成功できる会社とできない会社は、表に示したような違いがあります。最も大きい相違は前述したように、トップが変革をするかしないかです。トップが変革するかしないかで、現場の行動は変わります。つまり、現場がやったふりをすることになるか、変革をやりきれるか、違いが出るのです。

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現場ではやったふりをすることなど、誰も望んでいないでしょう。やるからには効果を出したいと思っているはずです。しかし、それを阻むものがあります。それはトップの関与なのです。

トップが関与しない、関与しても関心が薄いとすれば、現場ではトップの関与に合わせて、やったふりをせざるを得ない。そのため効果がでない。変革ができない会社では、こうしたことが起こっています。

もしかすると、読者の皆さんの会社でも同じようなことが起こっているかもしれません。関心が薄いトップとやったふりをせざるを得ない現場が任期ごとに入れ替わり長年効果がでないというもの。本当によくある話です。

このような問題の背景には、日本の経営トップには変革をやりきるだけの圧力がかかっていないというガバナンスの問題もあります。ただ、ガバナンス改革を期待していてもR&D変革にはほど遠いです。

トップには高い関心を持ってもらいたいものですが、コンサルタントとしてはそう願うことしかできません。個人的には、圧力がかからないと本気でやらないようなら、経営者をやめた方が良いと思います。ハッキリ言って、後進の迷惑です。老害以外の何者でもないです。

以上を踏まえて、読者の皆さんに提案があります。

もし、あなたがやる気のないトップの下についた場合には、やったふりをして過ごしてください。やる気のないトップの下でやる気を出すと、疎んじられて終わってしまいます。討ち死にするのはやめてやる気のあるトップの着任まで待ちましょう。

そして、もしあなたがトップの場合、どうぞやる気を出してください。R&Dの変革にコミットしてください。変革の具体的な方法論はいくらでもありますから、やりきることは可能だからです。

さて、R&D変革、次はあなたの番かもしれません。やったふりをしますか?それとも変革をやりきりますか?

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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