
私の会社では、多くのお客様からさまざまな相談を受けるのですが、その中の一つに「技術マーケティングをやってみたい」という声があります。ただ、「技術マーケティング」という言葉が一人歩きしていて、実際の中身がよくわからないというのが現状です。
私は、技術マーケティングとは「顧客の潜在ニーズを発掘し、それを解決する業務」だと定義しています。でも、この説明だけではやっぱりピンと来ない人が多いように思います。言葉が先行してしまって、内容が伝わっていないというのは、技術マーケティングに関心がある人にとっては、ちょっと不幸なことだと思うんですよね。
技術マーケティングとは何か?
ですので、このコラムでは「技術マーケティングとは何か」について、なるべくわかりやすく説明していきたいと思います。
まず最初に、技術マーケティングの定義から。先ほどもお伝えしたとおり、「顧客の潜在ニーズを発掘し、それを解決する業務」です。そして、ここでいう潜在ニーズというのは、「顧客の行動」のことだと私は考えています。
たとえば、今ではレストランなどで自動配膳ロボットが使われていますが、少し前まではウェイターさんやウェイトレスさんが料理を運んでいましたよね。この「料理を運ぶ」という行動そのものが、実は潜在ニーズなんです。つまり、顧客(この場合は店舗運営者)が無意識にやっている行動の中に、改善できるポイントがあるというわけです。
潜在ニーズとは顧客の行動
このように、顧客の行動に目を向けて、その中にある課題を発見し、それを技術によって解決するのが技術マーケティングです。ただ、それでもまだ少し難しいと感じる方もいるかもしれません。
そこで次にお伝えしたいのが、潜在ニーズを発掘するというのは、つまり「顧客の行動をよく知ること」なんですよ、という点です。先ほどの例でいえば、「料理を運ぶ」という行動を観察することが、そのまま潜在ニーズを知ることになります。
2025年の今では、自動配膳ロボットはかなり一般的になっていて、「ああ、配膳って課題だったんだな」と誰でも気づけるようになっていますよね。でも本当に重要なのは、そのロボットが登場する前に「配膳という業務には課題がある」と気づけることなんです。
ソリューションがあることが潜在ニーズに気づけること
もう少し一般化すると、他の多くの人が「これは人がやるのが当たり前」と思っている行動に対して、「これって技術で解決できるんじゃないか?」と気づくこと、これこそが潜在ニーズの発掘ということになります。
こう聞くと、「そんなの、アンテナの高い人じゃないとできないんじゃないか」と思われるかもしれません。それも確かに一理あります。なぜなら、「この行動にソリューションがある」とイメージできる力が必要だからです。
つまり、「もしかして、こういう技術で解決できるかも」と思えるからこそ、行動が潜在ニーズとして見えてくるわけです。そして、こういう感度の高い社員を育てることが、技術マーケティングにおいては非常に重要な側面になるわけです。
どうすれば技術マーケティング人材を作れるのか?
次にお伝えしたいのは、じゃあ具体的にどうやって潜在ニーズを発掘するかという話です。もちろん、感度の高い社員がいればそれに越したことはありませんが、そう簡単にそういう人材を育てるのは難しいですよね。
でも考えてみてください。潜在ニーズの発掘が得意な会社って、実際にあるんです。たとえば、大学を卒業したばかりの人がA社とB社に入社したとします。入社時点での能力はそれほど変わりません。でも、A社が潜在ニーズの発掘を得意としている会社であれば、その人は自然とその能力が身につきます。
なぜかというと、A社には潜在ニーズを発掘するための業務の仕組みがあるからです。つまり、潜在ニーズ発掘というのはスキルだけでなく、業務プロセスとして設計されている必要があるということです。
センスは知識から
そして、もう一つ大事なのが「センスやスキルは知識から生まれる」という考え方です。私の好きな本に『センスは知識からはじまる』というタイトルの本があります。まさにその通りで、センスのある人というのは、必ず知識を持っているんですよね。
上の例でもお分かりのとおり、潜在ニーズに気づくためには、「こういう技術がある」「こういうふうに解決できる」という知識がなければなりません。つまり、最新のテクノロジーやソリューションに関する知識がないと、いくら顧客の行動を見ても、それを「課題」として認識できないんです。
なので、技術マーケティングを担う人材には、そうした知識を得て、センスを磨く努力が必要なんです。そして、会社としてはそういう社員を育てていくことが求められます。
技術マーケティングで重要なのは顧客との関係性
では、そうした人材を育てながら、どうやって業務として技術マーケティングを実現していくのか。そのためにまず重要なのが「顧客との関係性」です。
よくありがちなのが、「営業だから売り込まなきゃ」と思ってしまうこと。でも技術マーケティングでは、顧客から課題を引き出すことが大事です。そしてそれは、顧客から「この人なら信頼できる」と思われなければできません。
簡単に言えば、営業や技術の人が「顧客の先生」にならなければならないということです。ちょっと例え話をすると、私たちが病院に行くとき、医者には自分の症状を話しますよね。時には自分の体を見せることすらあります。なぜかというと、お医者さんが診断できて、薬や手術などのソリューションを持っていると信じているからです。
医者は信用されている、あなたの会社は?
もしその医者が何も解決手段を持っていない人だったら、私たちはきっと自分の身体を見せたりしないでしょう。実は同じことが、企業と顧客の関係でも起きているんです。
お客様が、自分の課題を話してくれるかどうかは、その営業や技術者が「この人はちゃんと診断し、解決してくれる人だ」と思ってもらえるかどうかにかかっているんです。
じゃあ、どうすれば「顧客の先生」になれるのか?ここでも医者の例を使って考えてみましょう。最近の医者は専門分化していますし、患者側もネットで情報収集しています。つまり、患者もそれなりに知識を持っているんですね。
そんな中で患者が信頼する医者とは、どんな人かというと、「この人はこういう実績がある」「こういう治療が得意だ」ということをちゃんと情報発信している人なんです。病院のホームページなどを見て、「この医者なら大丈夫だ」と思って受診するわけです。
医者の看板に相当するのがソリューションのカタログ
これと同じように、企業も「私たちはこういう課題を解決できますよ」と情報発信する必要があります。これを実現するのが「ソリューションカタログ」です。
ソリューションカタログとは、課題とその解決事例を紹介する資料のこと。これがあれば、顧客は「この会社に相談してみよう」と思ってくれるようになります。そうなると、営業や技術の人が顧客から「先生」として見られるようになるわけです。
さらに重要なのが「商談前準備」です。顧客のところに行く前に、その会社が何をしているのか、どんな製品をつくっていて、どんな課題を持っていそうかを調べておく。そして、「こういう課題があるのでは?」という仮説を立てて訪問することが大切です。
「おれは営業には会いたくない」と言う技術者のキモチ
昔ある技術者の方がこんなことを言っていました。「俺は他社の営業には会いたくない。時間の無駄だから。あいつら、何も知らないし。」――少しショッキングかもしれませんが、これは営業が顧客にどう見られているかの一つのリアルです。
そうならないためにも、顧客のことを事前にしっかりと調べて、課題にあたりをつけ、「こういう解決策がありますよ」と話せるようにしておくことが必要です。
このような準備があれば、「こんな課題ありませんか?」と聞いたときに、顧客が「あるある!」と話し始めてくれる。現場を見せてもらえるかもしれません。それがまさに、顧客の行動=潜在ニーズを知るきっかけになるのです。
潜在課題発掘シート
そして、そのようにして得られた情報を会社に持ち帰るために使うのが「潜在課題発掘シート」です。営業日報の一部として導入してもいいかもしれません。これがあれば、会社全体で顧客の潜在ニーズを共有できるようになります。
以上のように、技術マーケティングを実現するには、こうした業務プロセスをつくることが必要不可欠です。その過程で、社員のセンスやスキルも高まっていきます。結果として、他社よりも早く潜在ニーズに気づき、開発し、商品化することが可能になるのです。
この「他社より早く」というのが、まさに競争優位性につながります。そして、それが企業の収益性を高めるという最終的な成果にもつながっていくのです。
研究開発ガイドライン「虎の巻」を差し上げます

研究開発マネジメントの課題解決事例についてまとめた研究開発ガイドライン「虎の巻」を差し上げています。また、技術人材を開発するワークショップやコンサルティングの総合カタログをお送りしています。
部署内でご回覧いただくことが可能です。
しつこく電話をするなどの営業行為はしておりません。
ご安心ください。
・潜在ニーズを先取りする技術マーケティングとは?
・技術の棚卸しとソリューション技術カタログとは?
・成長を保証する技術戦略の策定のやり方とは?
・技術者による研究開発テーマの創出をどう進めるのか?
・テーマ創出・推進を加速するIPランドスケープの進め方とは?
・新規事業化の体制構築を進めるには?
・最小で最大効果を得るための知財教育とは?