技術トレンドと経営トップの戦略その⑭「社内で評価される知財を取得するには、どうすれば良いか?」

今月から、何回かに分けて「評価される知財を取得するにはどうすれば良いのか」について書こうと思います。

一般論として、技術者は知財を取るための教育を受け、技術開発を進めながら先行技術調査を行い、特許を取得するための発明提案書を書くよう業務を進めます。そのため、開発成果を評価し、評価結果が良ければ特許を書くという習慣がある人は多いと思います。

しかし、社内で評価されるかというと、必ずしもそうではありません。知財取得は技術者本人にとってごく当たり前の日常業務であるのに、どうすれば評価されるような知財が取れるのか?課題を感じたことはありませんか?

知財で評価されるには?

知財で評価される前に考えるべきは「価値のある技術を作ること」です。価値のある技術とは、顧客の役に立つ技術であり、そこに差別化要素が加わったものです。つまり「競争優位性のある技術」を作るということです。ただし、今日のテーマは知財のコラムなので、この部分の深掘りは別の機会に譲ります。

今回のコラムではまず、「攻めの知財」に関する知識を共有したいと思います。知財とは自社事業を守るもの、参入障壁を作るものというイメージが強いかもしれません。しかし、特許法などの法律は特許の活用に特段の制限を設けておらず、実務では多様な活用がなされています。例えばライセンスなどがその一つです。

攻めの知財には意識が向きにくい

ところが技術者は、そのような多様な活用があることをよく知らないまま、日々の技術開発に邁進している場合が多いです。そのため一般的にイメージされる「守りの知財」には意識が向くものの、「攻めの知財」には意識が向きづらいことが多いのです。

しかし、攻めの知財に意識を向けると良いことがあります。それは「仕事ができる人」になれるということ。つまり、「攻めの知財」の意識を持つことで、事業で様々な用途に使われる知財を見出すことができるだけでなく、日々の研究開発において高度な問題意識に基づいて議論をリードすることも可能になります。

研究開発で常に問題となるのは「ネタ切れ(開発テーマをどのように進めてよいか分からず、営業や顧客の言いなりになること)」です。事業がどのように変化し、その変化した環境の中で知財がどう使われるのかをイメージしながら開発業務をリードできる人は、「仕事ができる人」として評価されます。ネタがなく、顧客の言いなりになっても儲かりませんから。

攻めの知財とはなにか?

では「攻めの知財」とは何か。一言で言うと「相手が嫌がる知財」です。以下の図に示す通り、自社が事業をするのであれば知財Bだけを持っていれば十分ですが、知財Aを取得することで競合の事業が思い通りにできなくなるという効果を得ることができます。

従来であれば、自社事業の範囲内にある知財Bを開発し権利化することしか視野に入りません。しかし知財Aも視野に入れることで、競合の事業を抑えることができ、競合が困ってライセンスを申し込んでくるなどの結果を導くことができます。

攻めの知財の具体例を見てみましょう。例えば化粧品・化学品の分野では、保有設備の相違が理由で自社と競合が使用する化合物や配合は異なることが多いです。そのため、競合が保有する設備で得られる化合物や配合を想定して特許を取ることが攻めの特許に該当します。電気・機械の業界では、競合が得意とする設計パターンや方式を先取りし、その方式について特許を取得しておくことがこれに当たります。

では、このような攻めの知財によって評価されるのはなぜでしょうか?

なぜ攻めの知財は評価されるのか?

ほとんどの場合、事業には競合企業があると思います。競合があればコンペになり、コンペになれば利益率が下がるのが当たり前です。そんな競合関係がある中でなんとか利益を得ようとするのが開発です。

知財の役割も同様で、なんとか利益を上げるように使う必要があります。そこで守りの知財の役割があります。守りの知財はライセンスなど絶対せずに、競合に模倣されないように事業を守ります。では、攻めの知財はどうか?

攻めの知財を理解するには、事業部長の立場になって考えるとわかりやすいです。そこで以下では、事業部長の立場になって、競合企業との関係を考えてみましょう。

攻めの知財、具体的に考えると

自社事業に競合がいる環境を想定しましょう。もし、競合が自社特許を回避する場合には、事業は模倣されてしまいます。模倣されてしまえば、コンペになるわけですから特許などあってもなくても役に立たないことになります。読者の中にも、守りの特許を回避されて競合状態にある、という会社は少なくないでしょう。

これを具体化すると、下図のように整理できます。自社技術は方式A、競合はAの特許を回避するために別の技術Bを用いるという訳です。そのまま放置すれば、競合企業はコア技術Bに基づいてB1〜B5などの周辺技術や用途まで押さえて、実質競合力を強化していくでしょう。

攻めの知財の役割は?

そこで攻めの知財の役割が出てきます。自社が技術方式AとA1〜A5などの知財を形成するだけでなく、B1〜B5の知財を取るのです。もちろん可能であればコア技術Bの知財も取るのです。そうするとどうなるでしょうか?

競合企業はコア技術Bの特許を持っていたとしても、B1〜B5の特許を押さえられては事業ができません。困った競合企業はどうするのか?競合会社はライセンス許諾を自社に申し込んでくる、という訳です。申し込まれたライセンス許諾に応じるのは事業部長ですが、主導権を持って判断することとなります。

競合企業の申し出に対して主導権を持てる

事業部長としては、優位に立っているわけですから、その申し出に対して否定的に対応することも可能でしょうし、お金を払ってもらうことでライセンスして上げることも可能でしょう。よくあるのは、競合他社が持っている価値の高い特許をライセンスしてもらい、クロスライセンスをすることです。

競合企業が事業を続けられるか、事業をどの範囲で続けるのか、また自社事業をどのように広げていくのかについて、自社で主体的に判断できることになります。事業部長の言葉に変換すると、競合を市場から追い出すも良し、クロスライセンスを受けて自社商品の機能改良に競合技術を活用するもよし、ライセンスをしてあげてお金をもらうも良し、ということです。

上記のような選択肢を得た事業部長が喜ばないはずは無いでしょう。そのため、「攻めの知財」を取得すれば評価されることは間違いがないと思います。あなたの会社では、攻めの知財を取得するようなことが奨励され行われているでしょうか?

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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