株式会社による技術プラットフォームの解説ページです。
このページは、主に研究開発部門の研究企画に関わる人に向けて作られています。技術戦略と技術プラットフォーム(基盤技術)について解説を加えます。
技術戦略の策定についてはこちら、
研究開発テーマの創出についてはこちら、
潜在課題を発掘する技術マーケティングについてはこちら
をそれぞれご覧ください。
目次
技術プラットフォームのイメージはファミレス
ファミリーレストランで注文があった際には、即座に商品が出てきますよね。
それと同じで、顧客要望があった時に、スッと技術が取り出せる状態だったら良いですよね。
サンプルワークで顧客が「こんなことできないか?」と言う時です。
営業担当者は「待ってました」とばかりに、自社の技術カタログを開かなければなりません。「この技術であれば、できそうですよ」と回答してスペックを聞き出し、持ち帰るためです。
そして、スペック情報を社内に持ち帰り、技術担当に打診します。そうすると、技術者は「待ってました」とばかりに、顧客のスペックを実現する技術を、まるで引き出しにすでにあったかのようにスッと出すのです。
技術はすでに開発済みで、言わば商品を棚に入れている状態です。レディメイドの状態のために、即座に対応出来るのです。そうやって技術でお客様に提案し、サッと案件をものにする事ができていなければならないのです。
当社コラム「儲かる会社は技術プラットフォームを使いこなす」
技術プラットフォームは、上記のようなものでなければなりませんよね。
理想的には、次のようなイメージがしやすいと思います。
ここで、技術プラットフォームとは、スーツに例えれば、体型に合わせた様々な型紙と言えます。好みに合わせた色柄の生地に例えても理解できるでしょう。セミオーダーのお店は、流行や好みに合わせた色柄の生地を仕入れ、お客様の体型や好みに合わせた型紙を用意して待っていますよね。
一方、フルオーダーでは型紙から起こすため時間がかかるし、全ての工程を一職人が実施するために高くついてしまう。しかし、セミオーダーのテーラーさんでは、上記のように型紙や生地がレディメイドのためにそれを組み合わせていくことでスーツができます。
技術プラットフォームもそれと同じです。レディメイドの技術を予め準備しておくことで、様々なお客様ニーズが出たときに対応できるというものなのです。スーツと同じく即座に対応できます。
当社コラム「儲かる会社は技術プラットフォームを使いこなす」
技術プラットフォームに関するアカデミックな理論(経営学)
当社の基本的な戦略論、技術戦略論の考え方は、伊丹敬之先生(一橋大学名誉教授)の論文等に立脚しています。
伊丹先生によれば、戦略という言葉を「市場の中の組織としての活動の長期的な基本設計図」と位置づけています。
この活動というのが肝要なポイントで、技術戦略策定の考え方は技術者が個人・集団で行う活動にフォーカスを当てるべきです。
技術戦略の策定は「活動」である。
参考文献
経営戦略の論理(日本経済新聞社)
アカデミックな「技術戦略」の意味
当社では、技術戦略とは、「将来市場の中で競争力のある基盤技術を充実させる活動の基本設計図」と位置づけています。
技術戦略の策定方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
将来市場の中で競争力のある
企業として、将来の市場で高い収益を上げられるのは非常に強い要請です。当社は、「将来市場」という言葉で、既存事業が将来どのような環境に置かれるのか?将来どのような市場が出現するのか、に関して技術者が知見を得なければならないという意味づけしています。
技術プラットフォーム(基盤技術)を充実させる
当社は基盤技術によって製品が生み出されるという考え方をしています。当然、製品化する目的で技術開発をしますが、製品化に失敗しても技術は残り、技術によって異なる製品を生み出すことは可能だからです。技術を重視し、技術によって実現できるものづくりと市場創造をするべきです。
これを「基盤技術充実の原則」と言っています。技術プラットフォームを充実させる、と読み替えてもOKです。
企業では、この基盤技術充実の原則を徹底するために、将来市場で競争力のありそうな技術領域の特定をしなければなりません。
活動の基本設計図
将来市場で競争力のありそうな技術を特定し、基盤技術を充実させることは極めて重要であることは言うまでもありませんが、これが組織内の活動として定義されていることが重要です。
「活動」とは、研究企画部門などの一部組織の活動という訳ではありません。基盤技術をテーマにし、研究していくのは常に現場だからです。そのため、現場レベルで「将来市場で競争力のありそうな技術」を特定している必要があります。
技術戦略策定に関わる責任者は、どのような分析を行わせてどのような技術戦略を策定させるか、揺るぎない考え方とノウハウを持っている必要があります。
技術プラットフォーム(コア技術、基盤技術)
技術プラットフォームの定義
当社では、技術プラットフォームを「顧客課題の解決のために準備された技術群」と言っています。
技術プラットフォーム、すなわち、基盤技術とは、事業を支えるために利用可能な技術群のことです。
技術プラットフォームの効果
ここで記載するまでもないと思いますが、3Mの技術プラットフォームは極めて有名です。以下の囲み記事で技術プラットフォームの効能を感じていただけると思います。
まずテクノロジープラットフォームを紹介しよう。3Mは現在、世界で5万5000種類以上の製品を販売している。こうした膨大な製品に使われているさまざまな技術を、「Ab(研磨材)」「Mo(成形加工)」などの46のテクノロジープラットフォームとして網羅的かつ系統的にまとめ、「材料」「プロセス」「機能」「アプリケーション」という4つの大項目に分類してある。これは3Mのイントラネット上で公開されており、技術者は自由にアクセスできる。
出典:「3Mで学んだイノベーションの設計図」 大久保孝俊
特徴的なのは、技術内容だけにとどまらず、その技術に詳しい社内の専門家の連絡先まで記載してあることだ。彼らに電子メールや直接の面談で相談できる。面識が全くない場合でもだ。助言を求められた専門家は、どんなに忙しくても100%対応する。これは3Mの企業文化であり、もっと言えば“掟”なのである。
出典:「3Mで学んだイノベーションの設計図」 大久保孝俊
これがどれほどありがたいことか…。約15年前のことだが、テクノロジープラットフォームの有効性を示す典型例があるので紹介したい。住友スリーエム(当時)の技術部長だった筆者の元に東京都から、広告を印刷したフィルムで都バスの車体をラッピングしたいという要請があった。
出典:「3Mで学んだイノベーションの設計図」 大久保孝俊
広告収入を増やすためには広告を短期間で差し替えて回転率を上げる必要があった。そのためには、バスが夜間に車庫に戻ってから翌朝出庫するまでの約5時間の間にフィルムを貼り換えなければならない。課題は大きく3つあった。具体的には、バスの車体に対して「強い接着力を持ちながら短時間ではがせる接着剤」「フィルムを高精度で位置決めする技術」「貼り付ける際に残る空気を確実に排出する技術」である。 筆者はすぐにテクノロジープラットフォームで調べてみた。すると、後者の2つは社内で技術が確立されていることが分かった。そのため、開発メンバーは「強い接着力を持ちながら短時間ではがせる接着剤」の研究に集中でき、短期間で製品化に成功できた。
出典:「3Mで学んだイノベーションの設計図」 大久保孝俊
技術マーケティングとの関係性
技術プラットフォームは技術マーケティングへと発展します。
技術マーケティングについて、詳しくはこちらをご覧ください。
技術プラットフォームの要件
技術プラットフォームの要件には次の3つがあります。
- 事業のニーズを反映していること
- 即座に利用可能なこと
- 関係者に容易に連絡できること
技術プラットフォームと技術戦略の関係性
技術戦略は技術プラットフォームを作るための活動です。
技術戦略は「次世代事業のための筋のいい技術プラットフォーム構築の方向性」を示すものである必要があります。
「次世代事業のための」
次世代事業のための活動ですので、トレンド情報を反映した活動である必要があります。
しかし、トレンドに沿ったテーマを創出することが良いことだと思われる方がいらっしゃいますが、必ずしもそうではありません。
なぜなら、必要なのは競争優位性だからです。
トレンドに沿ったテーマで勝てるのならば、みんな勝てます。
次世代市場で勝てる戦略づくりをしなければならないことは言うまでもなく、トレンドに沿って技術プラットフォームを定義しようというのは、要件を欠いたおかしなことです。
「筋のいい」
伊丹先生によると、「筋のいい技術」とは3つの要件を満たす技術のことです。
- ①科学の原理に照らして原理的深さを持つ(理論的な性能が高い)
- ②本質的ニーズに迫っている(軽くて丈夫なのは人間の根源的ニーズ)
- ③自分たちの得意技に対してつかず離れずの距離にある(やれそう)
おもに③の要件を満たすために、技術の棚卸しを平行して行うことが重要です。
「技術プラットフォーム構築の方向性」
伊丹先生による「学習活動の活性化基盤」という概念は、以下のようなもので、当社のコンサルティングの裏付けとなっています。
①「筋のいい」方向性で作られたコア・基盤技術は、試作品・商品が作られ顧客からの反応が得られやすい(伊丹論文では「顧客からの学習が働く」と表現する)。
②「筋のいい」方向性は、真理・原理追究の余地がある(伊丹論文では、「自然からの学習活動」と表現する)。
※伊丹は、「筋のいい」方向性は、上記2つの「学習活動の活性化基盤として機能する」と表現している。
コンサルティングでは、手順に沿って技術プラットフォームが形成されるようにしなければなりません。
コンサルタントは揺るぎないノウハウを持ってリードしなければなりません。
出典 3M社資料に基づき当社作成
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