「技術プラットフォーム」、儲かる会社が使いこなすもの

儲かる会社は技術プラットフォームを使いこなす

「うちは、技術プラットフォームの意識が希薄なんです。情けないですよ!」数年前のこと、こう話されたのは、とあるクライアント企業(A社)の技術担当役員(A部長)です。

というのも、A社では、次のような状態が続いていたのです。

A社はまがりなりにも面白い技術を多数保有していました。そのため、特徴のあるサンプルを展示会で発表するのです。A社内でサンプル展示は奨励されていました。そのため、こぞって多くの技術者が展示会に出そうとしていました。

その後、いわゆるサンプルワークをします。サンプルワークとは、試作品をお客様に提供するなどして、フィードバックを得ることを言います。展示会に出して反応を見ますが、大抵の場合、顧客からは「早くサンプルをくれ」と言われますので、苦労しながら試作品を仕上げて、なんとかサンプルを提供することになります。

とここまでは、活発で非常に良いですよね。

あまり良くないのはココからです。サンプル提供の後には、担当者達が訪問します。お客様が利用する用途や、スペックなどの情報を引き出したいからです。打ち合わせでは、顧客から用途を聞いたり、利用に当たっての具体的な話をしたりして、情報を引き出したいと思っています。打ち合わせがうまく行けば、顧客は「こんな事できないか?」と聞いてきます。

顧客にこんな打診をされた場合、嬉しくてこう答えます。「持ち帰って検討します。」

情報を引き出すことに成功して、意気揚々と会社に戻るというわけです。

そして、社内に持ち帰って技術者に「お客様からこんな相談があるんだけどできないか?」と相談します。

そうすると、技術者達がこう答えるのというのです。

「できると思うけど時間がかかる」

「今は忙しいから無理」

「できない」

そうこうしているうちに時は過ぎ、顧客からの引き合いは、雲散霧消してしまっていたそうです。

本当はどうあるべきだったのか

このような状態はA部長のイメージとは全く違っていました。A部長の頭の中では、次のようなことが起こっていなければなりませんでした。それは、サンプルワークで顧客が「こんなことできないか?」と言う時です。

営業担当者は「待ってました」とばかりに、自社の技術カタログを開かなければなりません。「この技術であれば、できそうですよ」と回答してスペックを聞き出し、持ち帰るためです。

そして、スペック情報を社内に持ち帰り、技術担当に打診します。そうすると、技術者は「待ってました」とばかりに、顧客のスペックを実現する技術を、まるで引き出しにすでにあったかのようにスッと出すのです。

技術はすでに開発済みで、言わば商品を棚に入れている状態です。レディメイドの状態のために、即座に対応出来るのです。そうやって技術でお客様に提案し、サッと案件をものにする事ができていなければならないのです。

スーツに例えると、お客様はセミオーダーのような感覚です。吊るしのスーツでは満足できないし、フルオーダーでは遅くて高い。しかし、セミオーダーなら必ずフィットしますし、コスパが高いと言う訳です。

なぜ、A部長のイメージとは違っていたかと言えば、A部長は技術プラットフォームという意識があり、技術プラットフォームを活用した新規事業戦略について運用していた経験があったからです。というのも、A部長は転職でA社に入社した経緯があります。社長に請われて、落下傘方式でA社に着任したからです。

ここで、技術プラットフォームとは、新事業・新商品開発のために予め準備しておく技術群のことです。スーツに例えれば、体型に合わせた様々な型紙と言えます。好みに合わせた色柄の生地に例えても理解できるでしょう。セミオーダーのお店は、流行や好みに合わせた色柄の生地を仕入れ、お客様の体型や好みに合わせた型紙を用意して待っていますよね。

一方、フルオーダーでは型紙から起こすため時間がかかるし、全ての工程を一職人が実施するために高くついてしまう。しかし、セミオーダーのテーラーさんでは、上記のように型紙や生地がレディメイドのためにそれを組み合わせていくことでスーツができます。

技術プラットフォームもそれと同じです。レディメイドの技術を予め準備しておくことで、様々なお客様ニーズが出たときに対応できるというものなのです。スーツと同じく即座に対応できます。

技術プラットフォームの展開は?

A社での話に戻りますと、A部長の着任当時、A社内では技術プラットフォームという言葉が通用しませんでした。社員の誰がそれを聞いても、意味がわからない状態でした。

危機感を抱いたA部長は「技術プラットフォームの意識形成が必要」と話され、私のセミナーに来られました。A社のように技術者の数が多いと、部長一人で一貫したマネジメントができる訳ではありません。A部長は、ある程度の人数のミドルがいなければならないことをよく知っていたのです。

このことを説明するために、またスーツ屋さんの例に戻ります。前述の通り、A社はサンプルワークをして顧客の反応を見ていたのですが、言わばフルオーダーのテイラーさんだったのです。

フルオーダーのテイラーさんは全てオーダーメイドなのです。悪く言えば、型紙は準備していない。生地も仕入れていない。カッコいいモデルを作って展示はしますが、いざオーダーが入っても対応する準備がないままに展示しますので、即時対応できない。

フルオーダーのテイラーさんの社員は皆フルオーダーには対応できる立派な職人さんばかりですが、予め型紙を準備するなどという発想はありません。そのため、型紙のために標準体型を調べることもしないし、流行の生地をサーチすることもしませんでした。

A社も全く同じでした。時間とお金さえあればフルオーダーは出来る。しかし、待ってくれるお客様は少ないのです。上記の通り顧客からの相談は時間とともに雲散霧消していたのです。

フルオーダーのテイラーさんをセミオーダーのスーツ屋さんに変革するのは、仕組みの変革や社員の意識変革が必要ということはご理解いただけると思います。そう、運用するのは社員ですから、社員の理解が必要なのです。

A社に話を戻しますと、A部長は上記のような状態に近づけるために私のセミナーに来られました。その後、A部長が取り組んだのは、技術戦略の策定を始めとした、一連の業務・意識改革です。ワークショップ(実践形式の研修・演習)や研修によって、社内の業務・意識改革を図ったのです。

一連の改革の成果により、A社には技術プラットフォームが形成され、社員にはその運用意識が備わるようになりました。かつては嘆いていたA部長も、今では次のステップを意識しています。「技術プラットフォームの次は技術マーケティング」と息巻いておられます。

A社をスーツで例えますと、A社はフルオーダーのテイラーさんだったのがセミオーダーも出来るようになったのです。圧倒的な短納期でかなりの需要を満たすことができますので、対応できる幅が広がったのは想像に難くないと思います。

さて、このコラムでは、技術プラットフォームという聞き慣れない概念をご提示しましたが、ご理解いただけたでしょうか。型紙や生地を事前に仕入れておくこと置き換えれば簡単だったのではないかと思います。

難しいのは、技術戦略のたて方にあります。スーツに例えれば、どんな生地が流行り、どんな型が売れるのかという推理に当たるもので、どんな技術を予め準備しておけば良いのかに関する推理です。今日のコラムではこの部分を扱いませんでしたが、いつか触れたいと思います。

さて、あなたの会社では、遅いために受注を逃してしまったことや、高いために失注したなどということがないでしょうか?予め準備された技術群がなければ失注するのは当然のことと言えましょう。

部下に「技術プラットフォームを活用した高効率の事業」という意識や対応する仕組みがなければ、遅い・高いが故の失注は必ず起こります。会社に技術プラットフォームを備え、社員にその意識を芽生えさせることにより、自社を高収益に導くA部長のような意識はあなたにはおありでしょうか?

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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