技術トレンドと経営トップの戦略その⑰「なぜあなたは評価されないのか?」


先月のコラムではCTO目線の人事評価について書いたが、今月は目線を変えて社員目線のことを書きたい。

「前任者から引き継いだテリトリーだったんですけど、前任者がまったく種まきをしていない人で、僕が引き継いでからは種まきばかりしています。それもあって今期は成果が出ていなくて、全然評価されないんですよね。」先日、とある営業マネージャーの方がこぼしていた。

また、ある技術者はこう言った。「チームでテーマの方向性を検討していて、チーム活動のために〇〇を実施したのですが、期末になって上司から『それはやらなくてもよかったんじゃないか?』と言われ、まったく評価されませんでした。やってられないですよ。」

「やるべきことをやったのに評価されない」という悩みは、多くの営業担当者や技術者に共通しているのではないだろうか。自分が評価されたいという気持ちは誰しも持っているが、実際に「自分は正当に評価されている」と実感している人は実は多くない。調査によれば、日本のビジネスパーソンの約7割が自身の評価に不満を抱いているというデータもある[1]

評価されにくい仕事とは?

「上司がわからず屋だ」「会社の評価制度が間違っている」と不満を抱く人も少なくない。それはあながち間違いではない。だが本質はもっと構造的なところにある。今日のコラムで明確にしたいのは、評価されないのには明確な理由がある、ということだ。

筆者は、評価されにくい仕事には典型的に二つの類型があると考えている。一つは「組織のための仕事」だ。開発でいえば、テーマの企画や方向性の検討そのものがチーム活動であり、営業でいえば将来の開発につながるリード情報を収集したり、自身の成功体験を他のメンバーと共有したりする活動がこれにあたる。これらは組織の生産性を高めるうえで不可欠であり、会社が本来奨励すべき行動である。しかし、上司に口頭で褒められることはあっても、人事評価の対象にはなりにくい。

もう一つは「中長期の仕事(来期以降の成果のための仕事)」である。考えてみてほしい。会社は今期の数字を達成するために動いている。中長期計画で3年先の目標が掲げられていることがほとんどなのは認める。しかし、3年先のための種まきが今期の評価になることはほとんどない。営業は今期のノルマを達成しなければならず、その受注活動を技術部門が支援するのが通例だ。そのような組織行動の中では、中長期のための仕事はどうしても後回しにされ、評価対象から外れやすい。

なぜ評価されないのか?

こうした評価されにくい仕事は立派な仕事である。中長期の仕事も組織のための仕事も「誰かがやらなければならない仕事」だという理由で実施している読者の人も多いと思う。逆に短期ばかりの成果を刈り取る人がいるのを横目にしても、中長期の仕事ができるのは立派だ。では、なぜ評価されないのか?

その理由を端的に言えば、「計測できないから」である。

計測できないものをイメージするために、逆に計測できるものを考えてみよう。計測できるものとは、①今期中に、②数字で数えられるもの、である。営業であれば売上、開発であれば期初に設定したテーマを完遂したかどうか、といった指標だ。

営業がどれだけ将来のために種まきをしても、今期に売上が上がらなければ成果とはみなされない。開発テーマが何らかの事情で延期されれば、それは技術者の成果とは扱われない。つまり、その期に「評価対象」として可視化できるものが存在しないのである。計測可能なものは、往々にして短期的なものに限られる。以下の図のような感じだ。

評価に納得できないのは当然

このような評価制度に納得できない人が多いのは、ある意味で当然だろう。会社には短期の仕事だけでなく、中長期の取り組みも確実に存在する。組織のための仕事や来期以降の種まきを評価しないのであれば、合理的に考えて、そのような行動を取る人はいなくなるはずである。今は従業員の献身的努力で支えられたとしても、なくなれば困るのは会社だ。

しかし、もしこの文章を人事部の方が読めば、次のような反論があるだろうと思う。「当社では業績評価だけでなく人物評価も行っているし、業績評価の項目は短期に限定していない。現場に応じて中長期の成果を設定することも可能だ。人物評価の比率を上げれば解決できる」と。ポイントは①業績評価の中に中長期の評価を行うことも可能、②人物評価も行っている、だ。少しだけ余談だが、このような人事部の主張には、「(中長期が評価できない)現場が悪く、悪いのは人事部ではない」という意味があるように思う。

しかし、多くの企業の評価制度見直しに関わってきた立場から言えば、営業や技術開発の現場で中長期の仕事のための評価制度が本当に機能している例は、残念ながらほとんどない。どの会社でも結局は短期テーマで評価され、中長期のテーマを創出するための行動や、組織のための行動は形式的にしか扱われていないことがほとんどである。

どうすれば評価に納得できるのか?

もちろん、視座の高い上司に恵まれれば、そのような行動が正当に評価され、出世ルートに乗ることもあるだろう。しかし、そのような上司に当たる確率は決して高くない。こうした構造の中で、多くの日本人が自身の評価に不満を抱いているのは、むしろ自然な帰結と言える。

どうすれば良いのだろうか?ここでは、筆者が評価制度の見直しにおいて実施することを紹介しよう。中長期的な仕事を行うための処方箋だ。それは中長期的な仕事を分解して評価対象として認識可能にすることである。

具体的に言うと、営業では、種まきの仕事が中長期の仕事となるが、種まきの仕事とは、「紹介可能な顧客の洗い出し→アポ取り→訪問して紹介→継続フォロー」となる。このように分解すれば種まきの仕事も認識可能になる。つまり、
・紹介可能な顧客を洗い出すプロセスを実施したかどうか?
・アポ取りを何件やったか?
・訪問して紹介を何件やったか?
と言う具合だ。ここに投入した時間や件数を評価すれば、中間成果物として評価が可能になる。

研究開発ではどうか?テーマ創出業務を例として考えると、テーマ創出業務とは「用途探索→顧客課題の調査→競合調査→競争優位性のある軸の考案(F軸)→投資対効果の計算」となる。これらについても一つ一つについて成果物が出たかどうか?を評価対象とすれば、中間成果物として評価が可能になるのだ。

なぜ中長期の仕事を評価をしないのか?

このように、中長期的な仕事は評価することは可能だ。なのにあなたの会社では中長期的な仕事の評価がされないのは何故だろうか?筆者は、これまでメンバーシップ雇用をしてきたからだと考えている。業務プロセスに分解した職務記述書(job description)を書かなくても今まで日本企業は優秀な従業員を雇用することができた。

職務記述書がないメンバーシップ雇用というのは、職務が非常に曖昧になる。とはいえ、職務が曖昧なまま仕事はできない。そこで評価の面談が非常に重要になるが、社員が上司と面談する時起こることはなんだろうか?面談では、上司はその上の上司に言われた仕事、つまり短期の仕事ばかりが割り当てられるのだ。

つまり、評価されないと感じるあなたが悪いのではなく、会社側が悪いのだ。多くの会社が、中長期の業績を上げると言っている割には上げられていない。その原因の一つが、この問題を放置し続けていることだ。さらに悪いことには、社員の不満を招いている。

職務が曖昧にしか定義されなくても人が雇用できるため、評価も曖昧なまま済ます。評価に満足できない日本の7割の労働者は、メンバーシップ雇用を進化させようとしない会社の被害者と言えなくない。

日本は人材不足の時代だ。雇用システムを変化させなければ取り残されるのは会社である。高い株主価値を出すためには、営業の種まきや、新規R&Dテーマの創出などの中長期の仕事は欠かせない。そのためには、会社は中長期の仕事をきちんと評価しなければならない。

あなたの会社は進化しているだろうか?


[1] 株式会社ワークポート調べ2024年10月24日 https://www.workport.co.jp/corporate/news/detail/905.html

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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