
株は最高値、でも儲からない
今月、日経平均は約63,000円の最高値をつけた。日本企業は儲かっているという。新聞には「最高益」「高収益企業」「AI関連銘柄」という言葉が並ぶ。しかし、研究開発や営業の現場にいる人は、少し違う実感を持っているのではないだろうか。
「世の中では企業が儲かっていると言われる。でも、うちの会社はそこまで儲かっていない」
「値上げはできた。でも、原価も上がっているので、利益が増えた実感はない」
このような感覚を持つ人は、少なくないはずだ。
たしかに、値上げに成功している会社は増えている。インフレが進み、顧客も以前より値上げを受け入れやすくなった。しかし、値上げに成功したからといって、会社の稼ぐ力が本当に高まったとは限らない。原材料費、人件費、物流費も上がっているからである。
値上げは、収益力の向上ではなく、コスト上昇の転嫁にすぎない場合がある。付加価値を高めないまま値上げをしても、利益幅は大きく変わらない。むしろ、顧客から見れば「高くなっただけ」の商品になりかねない。付加価値を高めなければ収益性を上げられない。
では、なぜ多くの会社では、利益につながりにくいテーマが残り続けるのだろうか。
私は以前から、利益につながらないまま残り続ける研究開発テーマを「ゾンビテーマ」と呼んできた。誰しもゾンビテーマはやめた方がよいと薄々わかっている。しかし、なぜかやめられない。大きく儲かる見込みはない。それでも、会議を通り、予算がつき、人が張りつき、翌年もまた続いていく。
現場は真面目、なのにゾンビテーマが残る理由
誰かが積極的に「儲からないテーマをやろう」と考えて生まれるわけではない。むしろ現場の人たちは、みな真面目である。営業は顧客の声を拾い、技術は依頼された改良に対応し、管理職は限られた人員でテーマを回そうとしている。
それでも、儲からないテーマは残る。その理由を象徴する、ある営業担当者とのやり取りがある。あるクライアント企業を訪問したとき、営業マネージャーのAさんと話をした。Aさんは40代半ばの中堅からシニアにあたる人材で、営業現場をよく知る管理職であった。
Aさんは、自分が担当している商品について、会社に改良要望や改善要望を出していた。私は、その要望をどのように考えて出しているのかを尋ねた。Aさんは、こう答えた。「顧客からそう言われたからです」
この時点では、よくある話である。顧客から要望が出る。営業がそれを社内に上げる。技術部門が改良テーマとして検討する。多くのBtoB企業で見られる、典型的な商品開発の流れである。会話は続いた。
営業担当者の本音
打ち合わせが進んでいき、少しカジュアルな雰囲気になったとき、私は「Aさんは自分が依頼している改良テーマが儲かると思っていますか?」と聞いた所、Bさんは「正直、これをやっても儲かるわけではないと思います」と返した。
私はこう聞いた。「なぜ儲からないテーマを続けようとしているのですか?」。Aさんは「僕が依頼しなければ、技術部門からは何も出てこないですからね。技術部門から新しいテーマが出てこない以上、儲からなくても続けざるを得ないでしょう。だから言っているんですよ」と答えた。
「やめようと言えないんですか?」と私が聞いた所、Aさんは「僕の一存ではやめられないですよ、開発も合意しているものですからね」と答えた。
この言葉を聞いて「やっぱりそうだよね」と私は思った。営業要望(顧客要望)というものは、もっと積極的なものだという思い込みが誰でもあるもの。営業が市場を見て、「これは売れる」「これは儲かる」「この顧客課題は大きい」と考え、技術部門にぶつけているのだと、技術部門は信じている。
技術者の本音
しかし、現実はそう理想的ではないのだ。Aさんのような優秀な営業担当者でも、「儲かるから出している」のではない。「技術部門から新しいテーマが出てこないから、仕方なく出している」のである。しかも、これはよくある話なのだ。
後日のこと、同じ会社の技術部門のBさんにも同じテーマについて話を聞いた。Bさんはこう言った。「営業要望のテーマは、なかなか止められません。顧客が要望しているものですからね」私は尋ねた。「Bさんは儲かると思っていますか?」
Bさんは「儲かるか?ですか?分かりません。でも、過去の延長線上にある商品なので利益率は知れていると思いますよ。儲からないんじゃないですか?」と答えた。
私が「儲からないものをやっている感じなんですかね、やめようとは思わないんですか?」と聞くとBさんは「僕の一存では止められません」と答えた。
ゾンビテーマが残る理由
ここに、ゾンビテーマが残り続ける構造がある。営業は、儲かると思っているわけではない。しかし、技術部門から新しいテーマが出てこないから、顧客要望を社内に上げる。技術部門も、儲かると思っているわけではない。しかし、営業要望だから止められない。

つまり、営業も開発も、本気で儲かるとは思っていない。それでもテーマは続くのである。一見すると、営業要望には正当性があるように見える。顧客に近い営業が言っているのだから、きっと市場性があるのだろう。開発部門はそう考える。
一方で営業は、技術部門から提案が出てこないから、目の前の顧客要望を出す。すると、開発部門はその要望を「顧客の声」として受け止め、既存商品の改良テーマにする。こうして、誰も強く望んでいる訳ではないテーマが、組織の中で正当化されていく。
これが、ゾンビテーマの正体である。問題は、営業が悪いことではない。開発が悪いことでもない。問題は、顧客から言われたことに対応する仕組みはあっても、顧客の将来を読み、自社から新しいテーマを構想する仕組みが弱いことにある。
高収益企業との違いは?
AさんBさんはそれぞれ優秀な人ではあるが、「このテーマは儲からない」が「自分の一存ではやめられない」と思っている。共に、組織構造により過剰な忖度・遠慮をさせられているように私には見えた。多くの会社でこのようにして儲からないテーマが残る会社では「顧客から言われたこと」がテーマになる。あなたの会社も同じようなことが起こっていないだろうか?
一方で、儲かるテーマを作れる会社ではどうか?こういう会社では、「顧客がこれから必要とすること」がテーマになる。この違いは大きい。研究開発テーマを作るうえで重要なのは、顧客要望に対応することではない。営業も技術も顧客の商品がこれからどう変わるのかを読み、その変化に必要となる部品、材料、技術、ソリューションを先に構想することである。
BtoB企業の商品は、多くの場合、顧客商品の部品であり、材料である。顧客の商品が進化すれば、求められる部品や材料も変わる。にもかかわらず、自社製品の小さな改良だけを続けていると、顧客商品の未来からは少しずつ遅れるだけでなく、競合と同質化し、儲からなくなっていく。 あなたの会社では、組織構造により「自分の一存では決められない」過剰な忖度・遠慮がテーマ選択を支配していませんか?
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