実践的な技術戦略の立て方その51「高収益化テーマ、一つでいいと思っていないか?」

「過去に新しい取り組みをしてみたのだが、その件はうまくいかなかった。どうしたら良かったのか?」

A社でのセミナーをしていた所、A社長から上記のような質問がありました。なんのセミナーをしていたかと言えば、儲かるメーカー経営の話です。参加者はA社社員約200名。コンサルタントとして、様々な会社で仕事をしますが、最初はこのような社内セミナーになることが多いです。

私の話は1時間位でその後はQ&Aの時間でした。そこで私が受けた質問が上記でした。A社長の質問は非常に経験に沿ったものだと感じられました。私の話は「儲かるためにはチャレンジするテーマが必要だ」とする趣旨のものだったのですが、A社長はすでにそうしたテーマを研究開発した結果の経験談として質問したものだったからです。

A社長の言葉の背景を説明しましょう。A社は伝統ある機械系のメーカーです。単に伝統があるというだけではありません。技術者数が1000人を超える巨大な会社になっていました。

技術者数が1000人を超えれば、部署数も相当数あります。A社長は技術系部門のトップとして長いキャリアがありました。しかもA社は長年技術系出身者が社長になってきた技術中心の会社でした。そのような背景でのA社長の質問ですから、当然含蓄がありました。

ダイアグラム  自動的に生成された説明

ただ単にお試しで実施したテーマではない

A社長の質問に私が感じ取った意味合いを説明すると、A社長はただ単にお試しで従来にない新しい取り組みをしたのではありませんでした。A社長の話によれば、しっかりとニーズとシーズのマッチングを含めて検討してきたとのことです。

しかし合わなかったのは何故か?と言えば「市場ニーズより半歩早かった」とのことでした。「お蔵入りして、市場が立ち上がるまで待つのはどうでしたか?」と私が聞いた所、「確かにその通りなのだが、その時はそういう対応ができなかった」とのことでした。A社長の言葉にごまかすような感じを受けなかった私は、A社長はそのテーマしっかり検討をしていたことを受け取りました。

とはいえ、疑い深い私。そんなやり取りの中何を考えていたかと言えば、よくあるアリバイ作りをしていなかったか?という点です。脱線するようですが、今、日本の大企業ではコンサルタントが大活躍しています。特に新規事業開発関連のコンサルタントは、アリバイ作りのために使われていることが多いです。

どういうことかと言えば、投資家向けに何か新しいことをしていると説明しなければならない所、内実何もしていないのはマズいので、新規事業をコンサルタントに委託してやらせるという訳です。コンサルタントですから弁舌は立ちますし、腕前も一流だと期待して依頼できます。

とはいえ新規事業が外注で立ち上がるような甘いものなら誰も苦労はしない訳です(笑)。新規事業がうまく立ち上がらない、と苦労しているように見える会社の内実は意外と外注頼みの「やっているフリ」のケースも少なくないのです。

話をA社に戻すと、私は上記のような業界のことにも通じていたのである意味でA社長の言葉の裏を読み取ろうとしたのですが、A社長にはそうした後ろめたいことはなさそうだったのです。

A社長は本気だったのか

ここまでのやり取りでA社長には後ろめたいことなさそうに思いましたが、A社長(当時はR&D部門長)が本気でやろうとしていたものとは思っていませんでした。というのも、私への質問は「どうしたら良かったのか?」というもの。私はその質問にどこか他人事の感じを受けていました。

後になってもどうすればいいか分からないというのは、私には本気で考えた人の言葉のようには聞こえなかったのです。自分のことであれば「あの時、こうすればよかった」と明確に浮かぶほどイメージをするはずだと思うからです。

それで私にはピンときました。A社長は当時R&D部長でしたから、一存ではなんともできないことがあったのだろう、と。つまり、A社長は続けたかったのに、周辺環境でどうすることもできなかったのだろう、と。

私はこう質問しました。「それで、そのテーマ以外にはなにもしなかったのですか?」そうするとA社長は待っていたように「当時はそれ以外何もできなかった」とだけ言いました。それ以外、その理由についての説明はありませんでした。

Aは社長の回答はどこか歯切れの悪い回答でした。そこで私は「当時何が阻害要因となったのですか?」とツッコミの質問を入れようと思ったのですが、一瞬頭をよぎったのは、A社長は本来やりたいことがあったのに、A社長の当時の上司がA社長を止めて、できなかったというもの。恐らく人間関係の話になり、公の面前での話には相応しくない感じがしました。

つまり、「なぜできなかったのですか?」と私が問えば、当時のA社長の上司への個人攻撃になりかねないので質問はやめておいた訳です。そこで私は一般論で牽制しようと「一般論として、一の矢で成功するというのはレアケースなので、二の矢・三の矢を何度も試せるようなテーマを実行できる体制が必要ですね。御社でも同じような仕組みが必要だったのではないでしょうか?」と説明しました。

A社長の反応は

そうすると、A社長は満面の笑みで「そうですね。ありがとうございました」と言われたのです。恐らく、長年自分では言えなかったことを私が代弁することになったので溜飲が下がったのだろうと推測しました。

その後、いくらかの質問を経て社内セミナーは終わったわけですが、社内セミナーのしめくくりにA社長が挨拶に立ちました。その席でA社長は「自分はR&D部長の時、たくさんのテーマを仕込みたかったが当時はそれができなかった。今は社長になってそれができる。今後はチャレンジをもっとするぞ」という趣旨のことを言われたのです。A社長のにこやかな表情の中にも、過去の反省に基づく引き締まった発言にA社長の本気さを感じました。

こうしてA社での社内セミナーは終わったのですが、それからA社内での社内改革が行われました。具体的には、A社では、一時に一つのテーマに取り組んで失敗すると二の矢三の矢が打てなかったのですが、A社長肝いりの改革によって一の矢と同時に二の矢、三の矢が打てるようになりました。今後の成長が期待されます。

さて、皆さんの会社でも同じように過去の失敗にとらわれて新しい取り組みができないとか、二の矢、三の矢テーマを同時に放てない(複数テーマを同時に実行できない)ということがないでしょうか? 

新規テーマに失敗はつきものです。同時に複数テーマを実行するようなことは当たり前に必要なこと。A社長はご自身で権力を取って同時に実行できるようにしたのですが、読者の皆さんは会社をどのように変化させますか?

研究開発ガイドライン「虎の巻」を差し上げます

研究開発マネジメントの課題解決事例についてまとめた研究開発ガイドライン「虎の巻」を差し上げています。また、技術人材を開発するワークショップやコンサルティングの総合カタログをお送りしています。

部署内でご回覧いただくことが可能です。
しつこく電話をするなどの営業行為はしておりません。
ご安心ください。

研究開発ガイドライン「虎の巻」の主な内容

・潜在ニーズを先取りする技術マーケティングとは?
・技術の棚卸しとソリューション技術カタログとは?
・成長を保証する技術戦略の策定のやり方とは?
・技術者による研究開発テーマの創出をどう進めるのか?
・テーマ創出・推進を加速するIPランドスケープの進め方とは?
・新規事業化の体制構築を進めるには?
・最小で最大効果を得るための知財教育とは?