技術の棚卸し

技術の棚卸し

ここでは、技術の棚卸しの意義や意味、やり方を議論します。

技術の棚卸しはトレンド分析と表裏一体

技術の棚卸しは将来の製品像を占うトレンド分析と表裏一体です。

トレンド分析は、人口推計等の統計データから将来の社会、くらしを予想し、そこから新しい製品・サービスイメージをつくるというものです。

一方の技術の棚卸しは、どのような技術を保有しているか足元を確認するものです。

両者を合わせて見ることで、将来的に不足しそうな資源は何かが予測でき、研究開発のリソース配分が考えられます。

技術の棚卸をして何ができるのか?

結論から言えば、技術の棚卸だけをしてもそれだけでは何の成果もありません。

また、一人の経営者が全体を見渡せるような中小企業の場合には、棚卸しをしても効果は少ないです。

一人で見渡せる範囲であれば、大体暗黙知のままで事足ります。

大がかりな技術の棚卸をして意味がある会社は、中堅~大企業です。

技術の棚卸をするのは、足もとの確認のためです。

すなわち、自分たちの会社がどのようになっていくか、ビジョンの策定が先です。

ビジョンの策定に関しては、マクロトレンドの分析が欠かせません。

マクロトレンド分析を行って、ビジョンを策定する。

それと並行して技術の棚卸を行って、ビジョンを達成するための自社の現状の技術を把握するのである。

現状とビジョンの際を分析し、差異を埋めるように研究開発の方向性を決定する。

なぜ技術の棚卸が必要か?

技術の棚卸は非常に面倒ではあるが、技術の棚卸を行うと多くのメリットがある。

どんな企業でも期末に必ず行う棚卸しは資産の棚卸だが、技術が会計的に計上されている訳ではないため、棚卸しは「わざわざ」実施しなければ行う事は出来ない。

そこで、技術の棚卸を行う大義名分が必要になるわけだが、技術の棚卸はいくつかの目的に沿って行う事が出来ると考えている。

この目的がそのまま技術の棚卸を行う理由となる。なお、以下に示した目的は、独立したものではなく、相互に関連させて行う事が効率的である。

・自社の技術資産について共通の認識を持つ目的

・足りない技術を明確にする目的

・事業の方向性を踏まえて研究開発の資源配分を検討する目的

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技術の棚卸結果をもとにテーマ探索が出来るか

技術の棚卸をベースとして、アプリケーションを探索する方法論がある。

技術の棚卸の結果、細分化された要素技術が出てくる。その要素技術が他に展開できないかと探索的に調査する方法である。

私は、この方法を否定するわけではないが、幾つかの意味で難しいのではないかと思う。

技術企画がテーマ探索をする場合

技術の棚卸結果を見ながら、そのアプリケーションを考えるのは、棚卸しや技術企画の担当者だろうか?

技術企画の担当者は大変な仕事ではある。

なぜなら、棚卸し結果からテーマを探すのは、担当の研究者の情報に及ばないからだ。

しかし、技術企画の場合、その技術をより広い分野で見渡すことができるし、競争戦略的な視点で技術を評価することができる。

また、競争戦略や業界動向を意識したテーマ出しが可能という点で、技術担当者よりも有利だ。

担当研究者がテーマ探索をする場合

技術の担当研究者がテーマ探索をするのであれば、テーマは比較的容易に見つかる可能性があります。

日頃から、論文に精通しているからです。

しかし、その場合、そもそも棚卸などしなくても思いついている可能性もあります。

テーマ枯渇に陥っている場合には、論文・ユーザー動向等の様々な情報に触れさせて、新しいテーマを発掘するのがベターです。

テーマ探索の留意点

技術の棚卸は、要素技術の強さ(競合優位性)を判断するには必須ではあると思います。

ただし、競合優位性があるからと言って、市場性があるものではありません。

また、技術の棚卸の結果、強いと判断されたものが今後のビジネストレンドに合致する訳でもありません。

その意味で、技術の棚卸結果をもとにテーマの探索は難しいのではないかと思うのだ。

むしろ、技術テーマのエンジニアが、「誰かの役に立ちたい」と考えて自らの技術を伸ばす機会を探るのがいいのではないかと思います。

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技術の棚卸しの方法論・進め方

技術の棚卸しの進め方は、一般的には以下のような進め方で行われます。

製品 − 要素技術への分解

技術の棚卸しを行う方法の一つは、製品から要素(製品を構成する部品など)に分解し、分解された要素に関連性のある技術を一つ一つ洗い出す方法です。

例えば、デジタルカメラで考えた場合、レンズ、CMOSセンサ、映像エンジン(MPU)、メモリ、インターフェース、筐体などの部品で構成されます。

レンズはガラス製の場合、プラスチック製の場合などありますが、プラスチック製の場合、レンズの設計技術、金型技術、成形技術、品質管理技術などに分解出来ます。

設計技術は、要求の仕様化、仕様に基づいた図面の作成、図面に基づいた性能評価等の詳細な設計のフローに分解されます。というようにそれぞれが更に分解されていきます。

たしかに、要素技術への分解は大切なのですが、要素技術への分解を「どこまで(細かく)やるか」が課題になります。

そこで、次の視点が重要になるのです。

周辺のハイテク分野の調査

技術周辺のハイテク分野の調査が必要になることが多い。

ハイテク分野は、未開発の技術があるということでもあるからだ。

周辺のハイテク分野の調査の例とは、例えば、こういうことを言う。

デジタルカメラのうち、レンズがコア技術だとして、レンズ周辺のハイテク分野を調査する。

レンズを使用する機器として、今後どんなものが増えそうか、ハイテクを想像する。

現在はハンディなデジタルカメラから、ウエアラブルに搭載のカメラがハイテク分野として浮かび上がる。

テーマとして、小型化が想定される。

または、メガネ型搭載のレンズを想定した場合、装着者の目が合わせているピントに合わせて、ピントを合わせる機構などもテーマとして浮かび上がる。

ハイテクは以下に述べる顧客価値に繋がりやすい。

顧客価値の特定(顧客の困り事の評価)

技術などいくらでも分解できてしまい、「どこまでやるか」という視点は非常に重要になります。

「程よくやる」というのが回答なのですが(笑)、論理的な回答を試みれば、顧客価値を発揮するレベルにまで分解すればいい、ということになります。

これでもまだ分かりにくいですね(笑)。

先ほどのレンズを例にしてみましょう。

レンズの性能は、明るさ(F値)、絞り、倍率等の指標で表現されます。

仮に、顧客を写真やレンズに詳しくない人と置いた場合、性能値は顧客価値ではありません。

暗い場所でもブレないとか、

ズームでもしても手ブレがない、

とか、そういう言葉が顧客価値になります。

では、「暗い場所でもブレない」という顧客価値を対象とした場合、どうなるでしょうか?

暗い場所でもブレないというのは、レンズの明るさによるものです。F値が高ければ、明るいレンズになります。

F値が高いレンズをプラスチックで成形するのは難しい技術です。なぜなら、プラスチックの収縮によって、型通りのレンズが出来ないからです。

技術の棚卸しをしたとして、それがいったい何になるのか?

どういう顧客価値を実現するのか?

を考えて文章化しておくことが重要です。

F2.0のレンズをプラスチックで整形できる」

という文章ですが、

「暗い場所でも手ブレしない」

という文章でレンズの顧客価値が表現出来ます。

顧客価値の文章化が終わったら競争力評価

アプリケーションの探索に入ります。

レンズであれば、「暗い場所でも手ブレしない」レンズをプラスチックで大量に生産できる技術力が背景にあるわけですが、この競争力を評価します。

つまり、他社が実施できるのか、できないのか、どの程度競争力があるのか、それはなぜなのか、特許があるからなのかを一覧表にしていく訳です。

そうすると、技術ごと、顧客価値ごとの競争力が明らかになります。

成長市場との照らし合わせ

これから成長するであろう市場、既存の市場で参入できそうな市場を見つけます。

そして、その市場に参入するための技術を定義して、自社の保有技術とのマッチングを図ります。

マッチングできそうな市場があれば、詳細に調査して、

・どの程度マッチするのか?

・足りない技術はなにか?

・競合は?

・顧客は?

など、様々な調査をしていくことになります。

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業界動向の予想をしたテーマ出し

業界動向、とくに顧客の業界がどういう業界なのかを予想、調査することが重要になる。

林原のトレハロース、三菱化学のAZO色素の事例は参考になるので、頭に入れておきたい。

林原のケース

林原はトレハロースの量産技術を開発した会社として有名だ。

ただ、トレハロースの量産技術だけではなく様々なアプリケーションの特許を取得した会社でもある。

トレハロースの活用技術については、林原以外の会社が特許を握っている状況のため、林原も安心してトレハを売れないし、ユーザーも安心して買えない状態だった。

そんな状況を解消するために、特許を集めてパテントプールを作ってユーザーが安心できる状況を作ったことはよく知られている。

それに加えて、林原の実施した開発はユニークで、徹底的にアプリケーション開発をしたことだ。

お菓子メーカーにレシピ提供するべく、小さな製菓業者と共同で研究するなどして、ビジネス化のためのテーマ出しを行ったことはよく知られている。

三菱化学のAZO色素のケース

三菱化学のAZO色素は、「秘伝のタレ」として紹介され、非常に有名な事例だ。

このケースでは、業界動向を「予想」するというよりも、シナリオを用意した。

自ら未来を作った。

AZO色素の特徴は、DVD記録メディアの品質を上げることだ。

記録メディアの品質を上げるというテーマを考案するためには、それが売れる戦略と表裏一体である必要がある。

品質が良いのは売れる要件ではない。

品質が良いのが標準として求められれば、売れる要件となりうる。

三菱化学はDVDの標準策定や生産技術の共同での開発活動が平行して行われた。

DVDを製造する会社における必須の技術を開発するとともに、標準を策定して品質を満たすためにはAZOを使用しなければならない状況をつくりだした。

業界動向をにらまなければ、生産技術の開発や標準化というテーマは出なかった。

ビジネスシナリオを想定したテーマだしの例だと言えるだろう。

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