
ROICは優れた指標だが、万能ではありません
ROICは、投下した資本に対してどれだけ効率よく利益を生み出しているかを示す指標であり、経営判断において極めて有用な尺度です。事業の継続や撤退、資源配分の見直しなど、経営レベルの意思決定では欠かせない指標だと言えるでしょう。しかし、このROICを研究開発部門の評価にそのまま適用しようとすると、思わぬ歪みが生じます。ROICは「結果」を測る指標であり、「プロセス」や「貢献の重なり」を評価することには本来向いていないからです。
研究開発の成果は、単独では完結しません
研究開発の成果は、単一のテーマや個人の努力だけで完結するものではありません。複数の技術が組み合わさり、設計、生産、品質保証、営業など、さまざまな部門の連携を経て、初めて事業価値として結実します。このような特性を持つ活動に対して、最終的な利益やROICを直接ひも付けて評価しようとすること自体に、構造的な無理があります。
自動車開発に見る、ROIC評価の限界

例えば自動車開発では、一台の車両に数多くの研究開発テーマが組み込まれています。燃費向上、安全性、快適性、デザイン、コスト低減など、どれもが商品価値に影響しますが、それぞれの技術が売上や利益にどれだけ寄与したかを切り分けることは困難です。仮に燃費技術が向上したとしても、それが販売価格や販売台数にどの程度影響したのかを定量的に示すことは、現実的ではありません。
化学品開発でも、同じ問題が起こります

化学品開発においても状況は同様です。研究開発の成果は、量産技術の確立や品質の安定化、顧客対応などを経て、時間をかけて収益に結びつきます。さらに、上市後に長期的に利益を生む製品であっても、開発当時の担当者はすでに異動や退職をしていることも多く、過去テーマのROICを個人評価に使っても、当事者の納得感を得ることは難しいでしょう。
個人評価への適用が、制度不信を生むリスク
ROICをテーマ評価や個人評価に無理に適用すると、「評価のための数字づくり」が目的化する危険があります。前提条件や仮定の置き方によって結果が大きく変わるため、評価は主観的になりがちです。その結果、評価制度そのものへの不信感が生まれ、研究開発のモチベーションを下げてしまうことにもなりかねません。ROICは厳密であるがゆえに、扱い方を誤ると現場との軋轢を生みやすい指標なのです。
ステージゲートが機能しなくなる理由

多くの企業では、研究開発の管理手法としてステージゲート制度が導入されています。本来、これはテーマの新陳代謝を促し、資源配分を最適化するための仕組みでした。しかし現実には、テーマを止められない制度になっているケースが少なくありません。技術者はテーマを継続するために自己弁護を行い、評価者はモチベーション低下を恐れて厳しい判断を避ける。その結果、ROIC向上に寄与しないテーマが温存されてしまいます。
ROICツリーをR&Dに当てはめる危うさ

一方で、ROIC経営が徹底された会社としてオムロン社の事例が知られています。オムロンはROIC経営によって業績を上げたとされる。一方で、2025年には赤字に陥ったと報道されるなど、ROIC経営によって短期的な成果を追い求めるようになり、中長期的なテーマの種まきができなくなったとされる報道などもあります。このように研究開発においてもROICを徹底するのは厳しい側面があるといえます。
しかし、厳しい事例があるからといって、ROIC経営を無視するわけにはいかないと言うのが、昨今のR&Dマネジメントの直面する環境でしょう。R&Dマネジメントにおいて、どのようにROIC経営を実務に落とし込めば良いのでしょうか?
問うべきは「数字」ではなく「競争優位性」です

ここまで見てきたように、ROICをR&D評価にそのまま使うことには多くの問題があります。だからといって、ROIC経営を無視すればよいわけではありません。重要なのは、ROICを直接の評価指標として使うのではなく、「そのテーマが競争優位を生み得るのか」「事業として成立する可能性があるのか」といった本質的な問いを投げかけることです。
R&D全体で説明責任を果たすという発想

ROICに対する説明責任を、個々の研究者やテーマに押し付ける必要はありません。むしろ、R&Dパイプライン全体として、どのように将来の価値創出を目指しているのかを示すことが重要です。どの領域に賭け、どの程度の確率で事業化を狙っているのか。その全体像を語ることが、CTOやR&Dマネージャーに求められる役割だと言えるでしょう。
そして、この説明責任を個々の研究者に過度に負わせるのではなく、R&Dパイプライン全体としてどのように価値創出を目指しているのかを示すことが、CTOやR&Dマネージャーの重要な役割になります。ROICを直接評価指標として使えないからこそ、R&D全体の構造と意図を言語化し、経営に説明する力が問われているのです。
ROIC経営をR&Dマネジメントに適用するための、研究開発ガイドライン「虎の巻」を差し上げます

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・技術の棚卸しとソリューション技術カタログとは?
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