独自性を重視する【技術企業の高収益化#108】

 前回は、英Rolls-Royce Motor Cars社の超高級車「ロールス・ロイス」を例に、差異化とは独自性の追求であることを説明しました。いやあ、同社(以下、ロールス・ロイス)最高経営責任者(CEO)のコメント、カッコイイですよね。「私たちの顧客にはたいてい運転手がいるから(自動運転は)必須ではない」というのですから。

自動運転という、自動車メーカーがこぞって開発しているものに対し、「必須じゃない」と言い切れる潔さは実にカッコイイと思います。「高級車メーカーだからこそ言えることだろう」という声も聞こえてきそうですが、私はそうではないと思います。

ロールス・ロイスの顧客にも、運転手を常時雇用できない人もいるでしょう。そうした顧客層に自動運転機能付きのクルマを売れば、市場は広がるはずです。また、ロールス・ロイスとは異なる高級車メーカーであり、「ジャーマン3」と呼ばれるドイツの3社であるDaimler社Mercedes-Benz部門とBMW社、Audi社は自動運転機能の研究開発に力を入れています。

つまり、ロールス・ロイスも自動運転を開発すれば、富裕層ではあるものの運転手を抱えられない層に対して高級車を販売することはできる。それでも自動運転にはあえて手を付けない。では、その理由は一体何でしょうか?

私の見解は、「自動運転というテーマに投資しても勝てそうにないから」というものです。競合他社がこぞって実施し、次々と技術が確立されて知財も取得されている。こうした状況では「勝てそうにない」と考えるのは当然だと思います。要するに、「高級車メーカーだからやらない」というよりも、「勝てないからやらない」と考える方が自然なのです。

ココなら勝てる領域をやる

でも、「勝てないからやらない」という判断だけでは企業は生き残れませんよね。その判断の裏には、「ココだったら勝てる」という判断があるはずです。 例えば、前回のコラムでは、ロールス・ロイスはガラス張りのダッシュボードを開発しているということを紹介しました。この「ガラス張りのダッシュボード」ですが、一体誰が欲しがるというのでしょう。私は、運転手付きのクルマを所有していない庶民ですが、全く欲しくありません(やせ我慢ではありません)。私は庶民なので、ロールス・ロイスのターゲットではないと思いますが、私自身は同社の提案する価値に全く共感できません。

しかし、同社は高級車ブランドとして君臨し続けており、さらに高級なクルマを開発しようとしています。その事実に触れると、やはりそこに価値を感じている顧客がいるという事実を認めざるを得ません。きっとこの価値は、「分かる人には分かる」のです。この「分かる人には分かる」ということを、このコラムでは「独自性」と言います。

ロールス・ロイスでは、ガラス張りのダッシュボードを含めて、独自性の高いテーマを追求しているはずです。自動運転のような、もはや誰もが手を付けているテーマは実施せず、独自性の高いテーマを実施しているのです。

トレンドを捨てて、我が道を行く──。簡単なようですが、なかなかできることではありませんよね。トレンドに乗っていたほうが圧倒的に心地よいからです。一方、独自性は茨(いばら)の道です。価値を分かってくれる人がどこにいるか分からないからです。では、企業はどうすれば独自性を追求できるのでしょうか。

独自性を生み出す3要素

私は、企業において独自性を生むには3つの要素が必要だと考えています。その3つとは以下の通りです。[1]プロセス
[2]評価
[3]組織文化

[1]のプロセスとは、テーマに独自性が備わるようなやり方のことです。ロールス・ロイスには「ガラス張りのダッシュボード」を提案した人がいたはずです。提案者は「ガラス張りのダッシュボードが良いな」と思って開発を提案したのでしょう。私には何が良いのかサッパリ分かりませんが、独自性の高いこのテーマを創出するにはそれ相応のやり方があったはずです。

[2]の評価とは、独自性の強いテーマを高く評価する仕組みのことです。一般に、会社では「儲(もう)かるのか?」という軸で評価します。独自性では評価しません。しかし、「儲かるのか?」という評価になれば、営業部門の発言力が強くなり、競合他社に追随するテーマを選んでしまいがちです。

[3]の組織文化とは、独自性のあるテーマはアイデアを尊重して発展させる雰囲気のことです。こうした組織文化は、信頼関係に基づく上司と部下との人間関係が基盤となります。一方、独自性のあるアイデアに否定的な上司の存在や官僚的な人事制度がそれを妨げる要因となります。

これらのうち、最も重要なものは[2]の評価です。評価の伴わないところにテーマの創造はありません。何をもって高く評価されるかが大切なのです。

独自性をどう評価するか

話に戻すと、ロールス・ロイスでは「ガラス張りのダッシュボード」が高く評価される理由です。でも、このテーマは独自性が高いものの、トレンドには沿っていません。独自性の高いテーマを「やる!」と決めるためには、何らかの評価が必要です。

その評価とは「儲かるのか?」です。「儲かる」のロジックは競争戦略論で明示されています。競争戦略論で明示された儲けのロジックは、差異化とコスト・リーダーシップの2つです。これを当てはめると、儲かるテーマは次のようになります。

① 独自の顧客価値を提供できるテーマである(⇒差異化になる)
② 同じものを安く作れる独自技術テーマである(⇒コスト・リーダーシップになる)

話がさらに上流に戻るようですが、どんなテーマも抽象化し、大別するとこの2つにしかなり得ません。重要なのは、どちらにも「独自」が掛かっているということ。トレンドに沿ったテーマではありません。そして、顧客価値やコストなど競争優位につながるかどうかというのもポイントです。

儲けの視点で言えば、この2つになるようにテーマを設定していけばよいのです。気になるのは、何を持って「独自」というかというポイント。この点を検証するのは知財情報が有用です。誰もやっていないことを、知財情報を使って証明するのです。

独自性評価のポイントは知財情報である──。

次回は、知財情報を使って独自性を評価する方法について、もう少し詳しく見ていこうと思います。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。