独自性評価のポイントは知財情報【技術企業の高収益化#109】

 前回は、「ガラス張りのダッシュボード」を作る英Rolls-Royce Motor Cars社の事例を基に、独自性のあるテーマについて解説しました。今回は、知財情報を使った独自性のあるテーマの評価について話しましょう。

いきなり横道に逸れるようですが、「評価」というと、自分ではない第三者が物差しを当てはめるような語感があるので、正直に言うと使いたくありません。なぜなら、物差しが「ない」から独自性が「ある」のであって、物差しがあるというだけで、独自性がなさそうな気がしませんか? でも、それ以外に適切な言葉がないので、使わざるを得ません。

さて、話を本題に戻します。今日は「評価」という言葉を使いますが、「テーマの創出者である技術者が自分のテーマの独自性をどのようにして上司に説明するか」という観点で説明しましょう。

繰り返しになりますが、テーマには独自性がなければダメです。独自性の反対は「同質化」です。単なる同質化は悪。低収益を招くからです。そして、独自性はどのように評価できるか。それはズバリ、特許が取れるかです。

独自性 ≒ 特許が取れるか

「=」ではなく「≒」にしたのには理由があります。特許を取るのはハードルが低いため、特許を取れたとしても独自性がないものがあるからです。とはいえ、独自性は特許が取れるかどうかで判断できます。そして、特許が取れるかどうかは先行技術調査によって決まります。

特許が取れるかどうかは先行技術調査によって決まる

大企業でもよくある話なのですが、テーマ企画時に先行技術調査を行わないことがあります。例えば、経営者からの「鶴の一声」で開発することが決まった場合などです。やるしかない。だから調査はしない。そんなときはやる暇がないでしょうね。皆さんの会社でもありませんか? 研究開発を進めると、当然、お金や人を使うことになります。先行技術調査をしないままで進めるとどうなるかと言うと、せっかくお金や人を使って技術や商品を開発したのに特許が取れなかった、ということになりかねません。分かりやすい言葉に変えると、「出たとこ勝負」になるわけです。

そして、経営者の「鶴の一声」とは、業界団体の会合や展示会で経営者がよその会社の商品を見聞きしたことからスタートしていたりします。これでは競合と同じ商品を開発することになるわけです。市場で正面から競合とぶつかってしまう。特許もなしに。こんな開発の進め方を行う会社もあることでしょう。しかし、私はしたくありません。

だって、そんな開発をしても儲からないでしょう? なぜって? 独自性がないからです。話が逸れたようなので本題に戻します。テーマの独自性を評価するために必要な視点は、知財が取れるかどうかです。その方法は、先行技術調査です。

特許が取れるかは先行技術調査で決まる

上記の例の通り、先行技術調査が時間的にできない場合もありますね。スキル的にできない場合もあるでしょう。先行技術調査と言えば、検索です。検索には多少知識やテクニックが必要だからです。

企画時に調査することが必要

前述の例の通り開発を先に行う場合、検索は比較的簡単です。なぜなら出来上がったものの検索だからです。一方で、私が提案するのは開発の前段階、つまり企画時の調査です。企画時の検索は少し特殊です。なぜなら、出来上がったものの検索ではなく、これから作ろうとするものの検索を行うからです。 小さな違いのようですが、やろうとすると大きな違いなのです。どのような違いかと言えば、企画時は出来上がったものがあるわけではありません。そのため、検索キーワードが分からない。もっと専門的に言えば、特許分類が分からないのです。

先端的な研究所では、企画時の調査は技術者が実施しています。大抵の場合、キーワードによる検索をしています。キーワードによる検索は漏れやノイズが多いため、専門家はあまり使いません。しかし、やらないよりははるかにマシです。

理想的なのは、この段階でプロのサーチャー(検索担当者)が関与することです。知財関係者にこのことを話すと、「とてもそんな手間はかけられない」という声が挙がります。知財の方は無駄な出願をしないように出願前に入念に先行技術調査を行うものです。しかし、出願と同様に、研究開発にもお金が掛かります。無駄なことをしないという趣旨は同じこと。ならば、ここでサーチャーが関与した方がよほど良いと私は思っています。

先行技術調査は企画時にサーチャーが行う

ただ、サーチャーに調査を依頼するときにネックになることがあります。それは発明が不明確だということです。開発した後であれば、商品や技術があるので先行技術調査は簡単です。しかし、そうではないのです。どうすればよいかと言うと、仮想クレームを作ることです。

仮想クレームとは?

仮想クレームとは、文字通り仮想のクレーム(特許請求の範囲)のことです。特許請求の範囲が分からない読者はインターネットで調べて頂きたいのですが、要するに検索可能にするための文章を仮想的に作ることです。 サーチャーに依頼するためにどのような情報が必要かと言えば、下記のようになります。全体をアルミニウム合金で構成することによりアイスクリームを溶かしやすく、食べやすいスプーンを開発しようとしているとして説明してみましょう。

[1]技術分野
技術分野とは、開発しようとする製品が属する技術分野のことです。どのような製品を作ろうとしているのかを表現できればOKです。
例:技術分野は「スプーン」となります。

[2]現状の課題
現状の課題とは、開発しようとする製品がどのような課題を解決する商品なのかというものです。これはなくても検索できます。
例:現在の課題は「溶けづらく、食べにくい」こととなります。

[3]仮想のクレーム
仮想のクレームとは、これから開発しようとするものを技術的に表現したものです。
例:「全体がアルミ合金であるスプーン」とします。

こうしたインプットがあれば、サーチャーは正しく特許分類を特定し、キーワードを特定して、もれなく引用文献を発見できます。

サーチャーには仮想クレームを提供する

サーチャーに仮想クレームを提供すれば、先行技術調査の結果が得られます。こうして得られた情報を基にして特許が取れるかどうかを判断します。先行技術がなければ言うまでもなく特許は取れます。先行技術があった場合には、その技術との相違を作っていくことになります。

こうして独自性を評価していくのです。独自性がなければ収益的にも知財的に見ても資源の無駄遣いです。それを防止する上でも重要な活動ですね。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。