技術トレンドと経営トップの戦略その⑮「フィジカルAIなどの成長分野、社内で評価されるテーマを創出するには?」


今日は社内で評価されるテーマをどのようにして作っていくのかを提案したい。

数年前にボストン・ダイナミクスが運動するロボットを発表したことを皮切りに、犬のような四足歩行のロボットなどを目にする機会が多くなったが、最近ではジャンプやダンスまた走ったりするロボットなどを見かけるようになった。この分野は「フィジカルAI」と呼ばれるようになった。

フィジカルAI・ロボットのイノベーションが著しい。私は学生の頃にロボットなどの制御していたことがあって、最近のロボットの進化には驚いている。SNSで回ってくるような動画は、生成AIで作られた可能性があるので信用できないものの、報道などの信用できる映像でも驚くようなものが見られるようになってきた。具体的には、強度に問題がありそうなほど細い腕や足でも軽々とジャンプをこなしたりするロボットだ。

ロボットを作るにはモーターや材料が必要

これには細くても破壊されないような材料が必要だ。アルミは軽いが柔らかくて十分な強度がないし、鉄では重すぎてジャンプができそうにない。軽くて丈夫というとCFRPなどの複合材が好ましいと思われるものの、自動車やドローンなどの適用例は聞くものの、ロボットでの適用事例を耳にすることは少なかった。

また、最近見るヒューマノイドはまるで人間のように小さくて細い。人間のようにか細いロボットの中では、動くモーターなどのアクチュエーターも同じように小さい。か細いモーターでは、少なくとも数十キロあると思われるロボットを俊敏に動かすというのが難しいように思われる。バッテリー駆動であればその質量から尚更難しいと思われる。

研究開発テーマを作るには?

何を言いたいのかと言うと、材料やモーターなどを始め、フィジカルAIには様々な新しいものが求められるということであり、ここに研究開発テーマの余地があるということだ。このような新しい分野で研究開発テーマを作るにはどのようにすれば良いだろうか?

研究開発テーマの創出には様々なことが必要と言われる。実際その通りだと思う。多くの要素がある中で、今日のコラムで読者に伝えたい事はたった1つである。それは「顧客の立場になって商品を作る」ということだ。なんだそれだけか?と思われるかも知れないが、これからやろうとするフィジカルAIや光電融合などの「これから」の新しいテーマでは実践できないケースがほとんどだと思う。

研究開発テーマを作るのが難しい理由

それは何故かといえば、従来の研究開発者の枠を超えるからだ。どの分野の技術者でも枠を超えたことはしづらい。以下では、フィジカルAIの一分野としてヒューマノイドにCFRPを適用するというビジネスについて考えてみよう。

最初に、CFRPの技術者はCFRPを作るのが仕事だから、上のような技術を持っておけば一通りの開発ができる。どんな営業活動をするかといえば、図の右に示す通り、「CFRPはいかがですか?」などというセールストークで材料としてのCFRPを販売することになる。いわゆる、「材料売り」、「部品売り」などと呼ばれる商売だ。

R&Dテーマに必要な顧客の実環境とは?

上記のような技術体系を持って販売を行うことはメーカー経営を成立させる上で必要不可欠なことだ。しかし、この方法はさらに大きく進化させる余地がある。それは、顧客の立場になって考える、言い換えれば、顧客の実環境を想定した評価をした上で顧客業務を肩代わりすることだ。

ユーザの実環境には様々な検討事項がある。フィジカルAI、例えばヒューマノイドはジャンプしたり、走ったり止まったりするわけだから、材料には大きな力がかかり、常に振動したり、また繰り返しにも耐えなければならない。そのような実環境において実際に使えるようなものでなければ、どんなに優れた材料でも採用されないのは言うまでもないだろう。

実環境を作ってみると、顧客の立場が分かる

問題はそれだけではない。もっと、ヒューマノイドの設計者の立場に立って考えてみよう。ジャンプしたりするということは、アクチュエータにCFRPなどの材料を接合しなければならないのだ。設計者は軽い材料を採用したいしとは言え、壊れてはいけないので、強い荷重に耐えたり、繰り返し試験に耐えたりできる材料であるとともに、接合部にも同様のものを求める。

顧客の立場になって考えるということは、単に「相手が欲しがる材料を想像する」ことではない。顧客が実際の開発現場でどのような工程・制約・判断をしているのかを理解し、その中でどこに負荷がかかっているのかを把握することを意味する。

ヒューマノイドを設計する技術者側から見ると、材料選定だけすればよい話ではない。それに加えて、異材との接合部の強度計算、耐久試験の条件設定、振動・衝撃が加わる実負荷のモデル化など、多くの技術検討を行わなければならない。これらは本来ユーザ企業が担うべき業務だが、逆に言えば、材料メーカーが事前に実験し、データを蓄積しておけば、顧客の検討負荷を大幅に軽減できる領域と理解できる。

つまり、顧客視点で課題を理解すると、「材料だけではなく、その材料を使える状態にして提供する」という新しいテーマが生まれるのである。ここに、研究開発テーマが発生する余地がある。

実環境を想定すると提案できることが分かる

そこで、そのような業務の代行余地が生まれるという訳だ。図にすると、以下のようになる。すなわちユーザが行いそうな接着剤の選定や接着剤の強度の評価や耐久性の評価などを事前にあらかじめ済ませておくことで、ユーザはそうしたデータを活用した設計業務に専念することができるようになる。そうするとユーザの業務は、大幅に減るということが想像できる。

そして、営業段階では右に書いたように高度な提案ができるようになる。「異種材との接合ができますよ」「接合部は◯Nの力にも耐えられます」「◯万回の耐久性の試験済みです」などとデータと共に表示できれば、魅力的な提案になるだろう。採用される可能性が高まるだけでなく、高い利益も期待できる。

大雑把にいうと、今日お伝えしたい研究開発テーマの作り方はこういう考え方だ。こうやって考え方を書いていくのは楽ではあるが、難しいと思われるのは材料メーカーであっても接着剤と言う異分野技術に手を出す必要があると言うことである。今までCFRPのみを開発してきた開発者が接着剤の選定や評価を行う必要があるために、技術的な検討の幅を広げる必要がある。

良いテーマはハードルを乗り越えてこそ

そうすると、従来の開発者の枠を超え、新たな技術を調達することになるし、場合によってはオープンイノベーションや他の会社との共同をする必要がある。こうした事は、従来の開発業務にないことが多いために困難を伴う。あなたの会社ではどうだろうか?

「そこまでできない」「従来、当社ではそんなことはしてこなかった」と思われるのではないだろうか?それは無理もないことだ。業務上の慣習とか人の習慣はそう簡単に変わるものではない。しかし、高い利益率を狙うのであれば、こうしたことをせざるを得ない、と筆者は思う。

もはや従来どおりの業務をこなして利益を上げられるほど甘い市場ではなくなった。外部環境の変化が、習慣や慣習の変化を迫っているのだ。その変化に俊敏に対応するかが問われている。変化に対応する提案がトップの耳に入れば社内で評価されるだろう。

この記事は日経テクノロジーで連載しているものです。

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