BtoB技術者の技術マーケティングがざっと分かる解説

本記事は、株式会社如水によるBtoB技術者のための技術マーケティング解説記事です。

セミナーやコンサルティングを通して弊社が経験してきた具体的事例をまとめ、高収益事業を実現する方法について体系化致しました。潜在ニーズ(潜在課題)の先取りによる研究開発体制を構築し、自社を抜本的に改革したい、という方を対象として執筆しています。

「技術マーケティング」という言葉を知らない方向けの概説的記事ですので、さらに詳しく知りたい方は、本記事の最後に付記したリンクから他記事を参照して頂けると幸いです。

技術マーケティングとは

技術マーケティングとは、自社のコア技術を活かし、顧客潜在課題解決型の事業を創出するプロセスです。技術マーケティングで創出された事業は、独自性が高く、他社による模倣が難しいため、高収益な事業に繋がります。

まず、コア技術とは何か、潜在課題とは何か、技術マーケティングが高収益な事業に繋がるのはなぜか、について、より詳しく解説します。

技術マーケティングとコア技術との関係性とは?

ここでは、コア技術を「他社との差異化を作り出す技術」と定義します。一般的な定義とは異なるかもしれませんのでご注意ください。

自社の中核となる技術であったとしても、競合他社が全く同じ技術を保有しているならばコア技術とは言えません。また、他社にはない技術だとしても、「顧客視点で価値ある差異」を生み出せなければコア技術とはなり得ません。

コア技術を用いて製造された製品は他社の模倣が困難になります。

技術マーケティングで取り扱う潜在課題とは?

潜在課題とは「顕在化していない課題」です。「課題として認識される前の課題」と言い換えることもできるでしょう。抽象的で分かりにくいので、具体例を挙げます。

今回のコロナ禍を通じて国内でもテレワークが普及し、出社することが生産性を下げているという問題が顕在化しました。テレワークの方が、より生産性を高められることに多くの人が気付いたのです。

しかし、出社による生産性の低下はコロナ禍によって急に生まれたものではなく、以前からありました。「潜在的に存在していた課題」が顕在化したに過ぎません。この「コロナ禍以前にも存在していた生産性の問題」が潜在課題です。

製品やサービスに触れている人が潜在意識で「不便だな」と感じていても、言語化されることなく、当たり前に受け入れているもの。しかし、実際には不利益をもたらしている課題。世間に認知されていない課題。それが潜在課題です。

BtoBビジネスは顧客の課題を解決するものなので、「潜在課題」と呼びますが、BtoCビジネスでは「潜在ニーズ」という表現を使うことが多いようです。この2つは同じ意味と考えて頂いて問題ありません。

技術マーケティングをすれば高収益事業が生み出せるのか?

テレワークの問題を解決したコミュニケーションサービスは軒並み成長しました(ZOOM、Chatwork、Slackなど)。これは、新たな市場を開拓したためです。

同じように、潜在課題にソリューションを与える事業は、提供価格を高く設定することができます。これは市場に競合がほとんど存在しないためです。

新たな市場を開拓しただけでは他社が次々に参入し、すぐに利益率が低下してしまいます。しかし、ここにコア技術を用いると、他社の参入障壁を上げ、高い競争力を維持することができます。結果として、長期に渡って高収益を維持し続ける事業の創出が可能となります。以上が、技術マーケティングが高収益事業に繋がる理由です。

技術マーケティングについての補足として、技術マーケティングは研究所や一部の技術者のみがすべきことではなく、全ての技術者が行ってこそ意味があります。真に高収益な企業形態は、技術者一人一人が顧客目線で価値ある製品を志向してこそ実現するものだからです。

技術マーケティングの方法:潜在課題発掘

ここからは、技術マーケティングをどのように進めていくのか、について解説します。

技術マーケティングは、潜在課題を発掘し、自社のコア技術でそれを解決するという手順で進みます。もちろん、技術が先にあって、それを活かすために潜在課題を探す、というパターンも考えられます。どちらも必要ですが、ここでは簡単のため、潜在課題発掘 → コア技術による解決、という順番で説明します。

では本題ですが、潜在課題はどうすれば発掘できるでしょうか?

潜在課題の発掘は、主に2つの方法があります。1つは顧客を徹底的に調査し、顧客理解を深める方法。もう1つは、自社が提供できるソリューションをカタログとして提示し、顧客に自社を見つけてもらう方法です。

徹底的な顧客理解による技術マーケティング

潜在課題を発掘するためには、顧客視点に立って、顧客が数年後に直面するだろう課題を考えることが重要です。

当然ながら人間の創造力には限界がありますので、ただ考えるだけでは潜在課題は見えてきません。ここでは顧客目線に立って、顧客を理解するための代表的な2つの方法を提示します。

1つ目は、顧客にヒアリングを行うことです。なんだ、そんなことか、と思われるかもしれません。しかし、単純ながら、有効な方法です。

重要なのは、ヒアリングの方法や内容です。ヒアリングを行う際、顧客にぶつける質問によって潜在課題が発掘できるかどうかは大きく変わります。「自社製品について、困っていることはありませんか?」と聞くだけでなく、「自社製品をどのように使っているか?」、「いつ使っているか?」と細かく掘り下げることで、潜在課題が見えてくる場合もあるでしょう。

潜在課題の発掘が上手い企業というものは存在します。そうした企業では、顧客にヒアリングを行う際、どのような質問をするかを事前に決め、ヒアリング方法のノウハウを社内で共有しています。ヒアリングに関するノウハウの積み重ねが高収益事業に繋がるのです。

2つ目は、顧客の特許調査、いわゆる IPランドスケープです。ただし、こちらは BtoB の技術マーケティングに限定されます。

特許調査というと難しいイメージを持つかもしれませんが、適切な研修を受ければ、誰でも実践できるものです。IPランドスケープは、顧客となり得る企業が出願している特許を下図のように適切な軸で分類します。

例えば、この図は顧客である自動車メーカーの加工技術に関する特許を分析した例ですが、「耐久性を高めるための成形条件の検討は随分行っている」、「生産性を高めるための材料の検討はあまりなされていない」といったことが分かります。予想が立てられれば、その予想を検証することができ、検証して確信が強まったならば、該当する企業に赴き、「このソリューションをお求めではありませんか?」と営業を掛けることができるでしょう。

技術カタログ

ここまでは、自分たちから顧客のところへ行って、潜在課題を見つける方法について説明しました。続いて、顧客の方から自社を見つけてもらえるような工夫と、そのために必要な「技術カタログ」というツールを紹介します。

欲しい製品があったとき、Amazonで検索すれば、様々な価格や機能の製品が一覧となって表示され、自分に合った製品を選ぶことができます。技術カタログは、Amazonの検索結果のような、技術を一覧化した表です。

顧客が技術カタログを見て、今抱えている課題の解決策を見つけられれば、その課題の相談のためにコンタクトを取ろうとするでしょう。そうすれば、顧客から頼られ、世間的にはまだまだ顕在化していない課題を直接聞き出すことができます。

技術カタログは、自社から営業に赴く際にも重宝します。顧客に「こんなことできませんか?」と聞かれたとき、すかさず技術カタログを開いてみせれば、貴重な商談をものにすることもできるでしょう。顧客に「こんなことできませんか?」と言われたときに「社内で検討します」と答えるようでは、商談の機会を失っていると言わざるを得ません。

技術マーケティングの方法:潜在課題解決

続いて、潜在課題をいかに解決するかについて説明しますが、具体的な説明は省略します。ここで最も伝えたいことは、コア技術で問題を解決するためには「予め技術群を用意しておくこと」が重要だということです。

潜在課題解決のために、一から技術開発を行っていては現代の競争スピードについていくことはできません。必要なのは、平時から、潜在課題解決のために技術を用意しておくことです。弊社では、この「潜在課題解決のために予め準備された技術群」を「技術プラットフォーム」と呼んでいます。技術プラットフォームがあるとないとでは、コア技術を活用した潜在課題解決のスピード、質ともに大きく変わってきます。技術マーケティングの回転率を上げていく重要な要素です。

技術プラットフォームは常にアップデートすることが求められます。技術を売りにしている企業は、顧客、競合、サプライヤーの動態を見つつ、自社の目指す方向へと技術を深化させていかねばなりません。新たな技術を開発したならば、それを技術プラットフォームに組み込み、自社にできることを常に明確にしましょう。

技術マーケティングの成功事例

ここまで抽象的で大雑把な話が続いたので、技術マーケティングの好例として、とある2社の取り組みを紹介していきます。

ソニー(徹底的顧客理解)

2020年CES(Consumer Electronics Show:全米民生技術協会が主催する電子機器の見本市)において、ソニーはコンセプトカーを展示しました(※1)。ソニーが自動車業界に参入を目指しているのか、と驚きの声が上がりましたが、恐らくそういうことではないでしょう。

ソニー社長の吉田憲一郎氏は、コンセプトカーを作った理由について、インタビューで次のように答えています。

「(主力の)半導体画像センサーの技術が安全性に貢献できるかを検証するためだ」

つまり、ソニーは顧客である自動車メーカーの潜在課題を徹底的に理解するために、こうした投資を行ったのです。実際に自社で自動車を作れば、センサーがどのように用いられ、どういった課題があるのか、浮かび上がらせることができます。

顧客徹底理解のためのアクションは一通りではありません。ソニーのような力ある企業ならば、顧客理解のために「顧客と同じものを作る」ことさえも選択肢としてあり得るのです。

※1:ソニー、自動運転車をCESで披露 20年度に公道実験 日本経済新聞 2020年1月7日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54100680X00C20A1MM0000/

3M(技術カタログ、技術プラットフォーム)

世界有数の化学メーカーである3Mは、元素周期表のような技術プラットフォームを持つことで有名です。

3Mの技術プラットフォームは、見やすくまとめられている点も素晴らしいですが、何より注目すべきは「提供できる価値で整理されている」という点です。

例えば右上の方に記されている『Lm(ライトマネジメント)』はフィルムの製造、積層、加工技術を組み合わせた「光制御技術群」を指します。数百層からなる薄いフィルムや、高精細な表面加工が施され微細な表面構造を持ったフィルムで、様々な視覚的効果を生み出します。ディスプレイを見やすくして消費電力を抑える、セキュリティマーキングで普通の状態では見えない文字やしるしを書類から浮き上がらせる、といった応用が可能です。

3Mの技術プラットフォームでは、すべてのブロックについて「何に役立つのか」、「どんな課題を解決できるのか」が記されており、顧客の創造力を掻き立てます。「3Mに相談すれば、自社の抱える課題を解決できるかもしれない」、顧客にそう思わせることができれば、顧客から3Mに課題を提供してもらうこともできるでしょう。

3Mの技術プラットフォームは、上記のような「技術カタログ」的側面だけでなく、潜在課題を解決する段階においても有効に機能します。

化学メーカーでは顕著ですが、巨大な企業になるほど、自社内でも幅広く技術が分散しています。「材料」、「加工」、「エレクトロニクス」、「バイオ」などの技術を別々の部署が保有していますが、提示された課題の解決に対しては、これら別々の部署が協力して立ち向かわねばなりません。そうした局面で、どの部署と協調すればいいのか、技術プラットフォームを見ることで鮮明になります。

技術マーケティングを進めるときの課題

最後に、技術マーケティングを進めるときの課題や注意点を簡単に紹介します。

潜在課題発掘は全ての技術者ができなければならない

本記事では、顧客の潜在課題を見つけに行く方法として「ヒアリング」と「IPランドスケープ」を紹介しました。決して難しい方法ではないと思いますが、全くの素人ができることではありません。そして、こうした活動は一部の技術者が行うのではなく、「全ての技術者」が実行してこそ、高収益な事業の創出が可能になります。

つまり、「ヒアリング」や「IPランドスケープ」という基本的な潜在課題発掘業務を、全技術者ができるように教育することが必要です。

技術カタログ、技術プラットフォームの構築

技術カタログや技術プラットフォームを見やすく、活用しやすい形にまとめ、それを日々更新していく作業は重要ですが、難しい作業です。技術カタログが顧客から見て魅力的でない、つまらないものになってしまったり、使いづらい技術プラットフォームになってしまったりします。

技術をまとめるためには、一度、自社が保有する全ての技術を洗い出し、各技術を保有する部署や関連特許と絡め、技術の有効性についての評価を下していかなければなりません。弊社では、全ての技術を洗い出す作業を「技術の棚卸し」と呼んでいますが、これも難しい作業です。「技術の棚卸しをやってみたものの、何も起きなかった」というお問い合わせは頻繁に頂きます。技術の棚卸しはゴールとなる技術カタログや技術プラットフォームの形をしっかりとイメージし、それに合った棚卸し方法を選択する必要があります。

日常業務とのバランス、組織改革

技術マーケティングは全ての技術者が取り組んでこそ真価を発揮します。ここで問題となるのは、技術者が日常的に行っている業務と、潜在課題解決型テーマ創出業務とのバランスです。

一般に、従来型の企業において、技術者の上司である管理者層は日常業務についてのマネジメントを行います。そこに新たなテーマ創出業務を課されたとして、普通の技術者はそれらを両立することができません。結果として「テーマ創出は時間がなくてできませんでした」と言われてしまいます。

これは技術者側に問題があるのではなく、マネジメント側の問題であることは明らかでしょう。技術者にテーマ創出をさせるためには、適切な時間を用意し、テーマ創出についてもマネジメントをせねばなりません。つまり、技術マーケティングの推進を阻む時間や人材の問題は、マネジメント層や組織全体の認識の問題でもあります。

技術マーケティングの重要性を組織全体で共有し、合意形成を行っていかねばなりません。

技術マーケティングについてさらに詳しく

以上、技術マーケティングについて概略的に解説を行いました。本記事では書ききれなかった各概念の詳細や具体的な方法論は、以下のリンク先で詳しく解説を行っています。是非参考にして頂きたいと思います。

ご覧頂き、ありがとうございました。

◇技術マーケティングの詳細や事例

技術マーケティング

実践的な技術戦略の立て方その⑭ 提案のできない技術者を放置していないか?

しつこい営業では売れません、技術マーケティングのススメ

◇コア技術、差異化、顧客視点について

差異化の源泉は徹底的な顧客視点にある

◇技術マーケティングの仕組み構築について

あなたの会社の技術者が、潜在ニーズを先取りしてテーマ創出するようになる技術マーケティングの仕組み構築

◇技術カタログについて

実践的な技術戦略の立て方その⑧ 「フィルム技術って言うとなぜダメなのか、分かりますか?」~お肉屋さんに学ぶ技術マーケティングとは?~

◇社内セミナーのご案内

社内セミナーのご案内(オンライン可能)