
読者の皆様へ:このコラムは2026年に行ったセミナーを再編集したものです。日々のR&Dマネジメント・ガバナンスの視座となれば幸いです。
要約:ステージゲートの問題は、既存顧客向けの改良テーマや小粒なテーマほど通りやすくなること。研究段階では探索と学習を重視し、開発段階では事業化に向けた選択と集中を重視する必要。また、テーマ評価を「継続か中止か」の二択にせず、「棚入れ」「生まれ変わり」「継続」という複数の出口を設けることも重要である。さらに、既存事業テーマと新規事業テーマでは、評価基準だけでなく評価者そのものを分ける必要がある。
執筆:中村大介
株式会社如水代表。20年以上にわたりBtoB製造業のR&D・技術マーケティング・知財・新規事業支援に従事。R&Dテーマ創出、ステージゲート、R&Dガバナンスの研修・コンサルティングを行う。
次研究開発テーマを段階的に評価するステージゲートは、多くの企業で導入されている。しかし、制度を導入し、定期的にテーマを評価しているにもかかわらず、既存製品の改良や顧客要望対応ばかりが増え、中長期の成長を担うテーマが育たないという問題は珍しくない。
この問題を「研究者から良いアイデアが出てこないから」と考えるのは早計である。むしろ確認すべきなのは、テーマ評価制度そのものが、確実なテーマを残し、不確実ではあるが成長可能性のあるテーマを初期段階で落とす構造になっていないか、という点である。
本稿では、ステージゲートの基本から、研究段階と開発段階の評価の違い、ROIC経営との接続、テーマの「生まれ変わり」、既存事業と新規事業で評価者を分ける考え方までを整理する。R&Dマネージャーが、自社のテーマ評価制度や資源配分を見直す際の材料としてお役に立てば幸いである。
- ステージゲートを導入しても、成長テーマが育つとは限らない
- 「売れるか・できるか」という合理的な評価が、ゾンビテーマを生む
- 高い研究開発成功率は、必ずしも優れたR&Dを意味しない
- 競争優位性のある研究開発テーマとは何か
- ROIC経営をR&Dにどう適用すべきか
- なぜ研究段階と開発段階を同じ基準で評価してはいけないのか
- 良いテーマを求めるなら、まず「良いテーマが出る会社」に変える
- 「中止」だけではない。テーマを生まれ変わらせる3つの出口
- なぜ既存事業部への移管だけを出口にしてはいけないのか
- 新規事業テーマは、「リスクを潰す人」ではなく「リスクを取る責任者」が審査する
- 成長テーマを育てるステージゲートをどう設計するか
- R&Dマネージャーが確認したい7つのチェックポイント
- よくある質問
- R&Dの最終成果は「商品」ではなく、経営が選べる投資機会である
ステージゲートを導入しても、成長テーマが育つとは限らない
ステージゲートは本来、不確実な研究開発を段階的に育てる仕組みである
ステージゲートとは、研究開発や新商品開発のプロセスをいくつかの段階に分け、その間に「ゲート」と呼ばれる評価機会を設ける考え方である。各段階で一定の検証を行い、ゲートでは、それまでに得られた情報をもとに、次の段階へ投資を進めるか、追加検証を行うか、いったん止めるかを判断する。
研究開発は、開始時点ですべての情報を持つことができない。技術的に成立するか分からないこともあれば、どの用途に最も価値があるのか分からないこともある。顧客が本当にその問題に困っているのか、競合技術がどの程度存在するのか、どの価格なら採用されるのかなど、実際に調査・実験して初めて分かることが多い。
そこで、初期段階では小さな投資で仮説を検証し、情報が増えるにつれて投資額を大きくしていく。途中で想定と違うことが分かれば、テーマを修正したり、別の用途を探索したりする。このように考えれば、ステージゲートとは本来、「失敗しそうなテーマをできるだけ早く落とす仕組み」ではなく、「不確実なテーマに段階的に投資しながら、その不確実性を減らしていく仕組み」である。
制度を導入しただけでは、成長テーマが増えるわけではない
ステージゲートそのものは合理的な仕組みである。しかし、制度を導入すれば自動的に成長テーマが増えるわけではない。むしろ、どのような評価基準を設定し、誰が審査し、どの段階で何を要求するかによっては、将来性のあるテーマを初期段階で排除する仕組みにもなり得る。
たとえば、ある会社が研究初期のテーマについて、「顧客は決まっているか」「市場規模は十分大きいか」「売上計画は具体的か」「技術的な実現可能性は高いか」「既存事業部は受け取ってくれるか」と評価しているとする。いずれも、事業化を考えるうえでは必要な質問である。
しかし、研究初期では答えられないことが多い。新しい用途を探している段階であれば顧客が決まっていないのは当然であり、新しい市場であれば市場規模そのものが明確でない場合もある。技術的な実現可能性についても、実験をしていないからこそ研究テーマとして検証する必要がある。
ここで、研究段階のテーマに対して開発後期と同じ確実性を要求すると、確実性の高いテーマだけが残る。そして確実性の高いテーマとは、多くの場合、既存事業に近いテーマである。
最も審査を通りやすいのは、既存顧客と既存技術の組み合わせになりやすい
「本当に売れるか」と聞かれたとき、最も答えやすいのは、すでに顧客から要望を受けているテーマである。「この顧客が欲しいと言っています」と説明できれば、市場性について一定の根拠を示すことができる。
「本当にできるか」と聞かれたとき、最も答えやすいのは、自社がすでに保有している技術の延長線上にあるテーマである。過去の開発経験や設備、技術データがあるため、実現可能性を説明しやすい。
したがって、「売れる確実性」と「技術的実現可能性」を強く求めると、既存顧客 × 既存技術 × 既存商品の改良という組み合わせが自然に有利になる。
一方で、まだ顧客が明確ではない新用途、これまでとは異なる顧客課題、新しい技術の組み合わせ、既存事業部が扱ったことのない市場などは、初期段階では確実性が低い。そのため、評価制度が合理的で厳密であるほど、これらのテーマが不利になる場合がある。
「売れるか・できるか」という評価によって、確実に実行でき、顧客要望にも対応できるテーマが残る一方、競争優位性や将来の成長につながるテーマが十分に残らなくなるという問題が起こり得る。
問題は顧客要望対応ではなく、R&D全体がそこへ偏ることである
ここで注意したいのは、既存顧客への対応や既存商品の改良そのものを否定しているわけではないことである。既存事業を維持し、顧客との関係を強化し、現在の売上を守るためには、顧客要望への対応は必要である。
問題は、それがR&D資源の大半を占めることである。研究者の人数にも時間にも限りがある。既存顧客から依頼された案件への対応が増えれば、その分だけ、新しい顧客課題を調査したり、技術の新用途を探索したり、競合とは異なる価値を考えたりする時間が減る。
すると、R&D部門は「将来の成長テーマを作る組織」よりも、「現在の事業を技術的に支援する開発組織」に近づいていく。両方とも必要である。しかし、両者を区別せず同じ評価制度、同じ資源配分で管理すると、短期的に成果が見えやすい既存事業テーマが優先されやすい。
本当に確認すべきなのは「どのテーマが制度上有利なのか」である
成長テーマが不足している企業では、「もっと良いアイデアを出してほしい」「研究者に事業意識を持ってほしい」「テーマ創出研修を行おう」と考えがちである。もちろん、こうした取り組みが有効な場合もある。
しかし、社員が新しいテーマを提案しても、現在の評価制度では通らないのであれば、テーマ創出だけを強化しても状況は変わりにくい。たとえば、研修では「新規用途を考えよう」と教えられているのに、審査会では「既存事業部が受け取るのか」と聞かれる。研修では「潜在ニーズを探そう」と言われる一方で、テーマ申請書には確定顧客名と5年間の売上計画を書く必要がある。このような制度であれば、社員は次第に研修ではなく評価制度に適応する。
したがって、ステージゲートを見直す第一歩は、「審査が厳しいか緩いか」を議論することではない。「現在の制度では、どのようなテーマが最も通過しやすくなっているか」を確認することである。
この問いを持つことで、成長テーマ不足を、個々の研究者の能力だけではなく、テーマ評価制度、資源配分、組織構造を含めたR&Dマネジメントの問題として捉えられるようになる。
ステージゲートの目的はテーマ数を減らすことではない
ステージゲートというと、ゲートを通過するたびにテーマ数が減っていく「漏斗」のようなイメージを持ちやすい。しかし、本来の目的はテーマ数を減らすことそのものではない。研究初期には、多くのことが分からない。そのため、小さなコストで多数の仮説を持ち、調査や実験を通じて学習することに意味がある。その中から、顧客価値や競争優位性の可能性が見えてきたテーマに対して、徐々に投資を増やしていく。
つまり、研究段階では選択肢を持つことに価値があり、開発段階では選択肢を絞ることに価値がある。
この二つを同じ評価思想で管理すると、「早く絞ること」が目的化しやすい。その結果、本来なら研究段階で残しておくべき不確実なテーマまで消してしまう。
ここから先の章では、まず「売れるか・できるか」という評価がどのようにテーマを小粒化させるのかをさらに詳しく検討する。そのうえで、高い成功率の意味、競争優位性の評価、ROIC経営との関係、研究と開発の評価の違いへと議論を進めていく。
「売れるか・できるか」という合理的な評価が、ゾンビテーマを生む
「売れるか」「できるか」は、どちらも必要な問いである
研究開発テーマを評価するとき、「本当に売れるのか」「技術的に実現できるのか」を確認することは当然である。事業化を目指す以上、市場性も技術的実現可能性も無視することはできない。
問題は、この二つをどの段階で、どの程度の確実性まで求めるかである。研究の初期段階では、顧客、用途、市場規模、技術方式のすべてが固まっているとは限らない。むしろ、それらがまだ分からないからこそ、研究テーマとして調査や実験を行う必要がある。
ところが、研究初期のテーマに対して「売れる根拠」と「できる根拠」を強く求めると、テーマの性質そのものが変わっていく。評価者は合理的に判断しているつもりでも、その合理性が、将来の成長テーマを不利にする可能性がある。
「売れる確実性」を求めると、既存顧客テーマが有利になる
「本当に売れるのか」という問いに最も答えやすいのは、すでに顧客から具体的な要望を受けているテーマである。
「A社からこの性能を改善してほしいと言われている」
「B社が、この仕様なら採用を検討すると言っている」
「既存顧客から毎年同じような要望が出ている」

このようなテーマであれば、提案者は顧客名を挙げることができ、ニーズの存在も説明しやすい。売上予測についても、現在の取引額や数量をもとに一定の数字を置くことができる。
一方、新しい用途を探索するテーマでは事情が異なる。顧客候補がまだ分かっていない場合もあれば、顧客自身が問題を明確に認識していない場合もある。潜在課題を対象にするのであれば、「顧客が欲しいと言っている」という証拠を初期段階で示せないことの方が自然である。
つまり、「顧客が欲しいと言っているか」という評価を強くすると、顕在ニーズ型のテーマが有利になり、潜在ニーズ型のテーマが不利になる。これは評価者の判断ミスではない。制度がそのようなテーマを選びやすい構造になっているということである。
「できる確実性」を求めると、既存技術の延長テーマが有利になる
技術的実現可能性についても同じことが起こる。「本当にできるのか」と聞かれたとき、最も説明しやすいのは、自社がすでに保有している技術の延長線上にあるテーマである。既存設備で試作でき、過去のデータがあり、担当技術者にも経験があるテーマであれば、技術リスクは低く見える。
一方、新しい技術方式、新しい材料、新しい組み合わせ、新しい生産方法などを使うテーマでは、当然ながら不確実性が高い。まだ試していないため、できるかどうかは分からない。
しかし、研究とは本来、その「分からない」を調べる活動でもある。にもかかわらず、研究を始める前から高い実現確率を求めると、「研究しなくてもある程度できることが分かっているテーマ」が選ばれやすくなる。その結果、技術的な探索幅が狭くなり、既存技術の延長線上のテーマが増えていく。
二つを組み合わせると「既存顧客×既存技術」が最適解になる
ここで「売れる確実性」と「できる確実性」を同時に考えると、評価制度がどのようなテーマを選びやすいかが見えてくる。売れる確率を高めるには、既存顧客の要望に近づけばよい。できる確率を高めるには、既存技術の延長線上に近づけばよい。
すると、最も安全なテーマは、既存顧客の要望を、既存技術で実現するテーマになる。

典型的には、既存商品の性能改善、顧客別仕様への対応、既存材料の改良、既存工程の最適化などである。これらは企業にとって必要な活動である。しかし、このタイプのテーマばかりが研究開発ポートフォリオを占めるようになると、数年後の成長を担う新しい価値軸、新用途、新市場の探索が不足する。
「売れるか・できるか」で高得点を取るテーマが、必ずしも最も成長性の高いテーマとは限らないのである。元資料でも、「売れるか」「できるか」という二軸でテーマを評価すると、確実性の高い顧客要望対応型テーマが残りやすく、低収益なテーマに偏る可能性があるという問題が中心的に扱われている。
「顧客の声を聞くこと」と「顧客要望対応に偏ること」は違う
ここで誤解してはいけないのは、顧客の声を聞くこと自体が問題なのではないことである。顧客課題を理解することは、研究開発テーマを考えるうえで極めて重要である。むしろ、顧客や市場から離れた研究だけを行えば、事業につながらない可能性が高くなる。
問題は、「顧客課題を理解すること」と「顧客から言われた仕様を実現すること」を同じものとして扱うことである。顧客から「もっと軽くしてほしい」「耐熱温度を上げてほしい」「価格を下げてほしい」と言われれば、その要望に応える開発は必要である。しかし、それは顧客が現在認識している解決策の延長である場合が多い。
一方、成長テーマを作るためには、
「なぜ顧客は軽くしたいのか」
「なぜ耐熱性が必要なのか」
「価格以外に困っていることはないのか」
「顧客は現在どのような作業や設備でその問題を回避しているのか」
まで掘り下げる必要がある。
顧客から提示された仕様を、そのまま研究開発テーマにするのか。それとも、その仕様の背景にある未解決課題まで掘り下げ、別の解決方法を探すのか。この違いが、改良テーマと成長テーマを分ける。
ゾンビテーマとは、失敗していないからこそ残り続けるテーマである
本レポートでは、一定の顧客需要があり、技術的にも実現しやすく、商品化もできる一方、競争優位性や大きな利益成長にはつながりにくいテーマを「ゾンビテーマ」と呼ぶ。このテーマが厄介なのは、明確に失敗していないことである。売上がゼロではない。顧客もいる。技術的にも成果が出ている。担当者も一生懸命取り組んでいる。そのため、「やめる理由」が見つかりにくい。
一方で、競合企業も同じような改善を続けているため、価格競争が激しくなり、利益率は上がらない。少し性能を改善しても差別化は長続きせず、次の改善要求が来る。その結果、テーマは終わらない。顧客対応が続き、追加改良が続き、技術者の時間が使われ続ける。テーマ自体は生きているが、企業の成長を大きく押し上げる可能性は低い。これが「ゾンビテーマ」という表現の意味である。
重要なのは、ゾンビテーマをすべて中止することではない。既存事業を支えるために必要なテーマも多い。問題は、それらを「成長投資テーマ」と同じように扱い、R&D資源の大半を配分してしまうことである。
ゾンビテーマが増えると、見かけ上はR&Dがうまくいっているように見える
ゾンビテーマが増える企業では、R&D部門の活動量そのものは多い場合がある。顧客案件は多く、試作件数も多い。テーマ数も多く、商品化も進む。研究者も忙しい。そのため、一見するとR&D活動は活発に見える。
しかし、経営側から見ると違う問題が生じる。数年後の成長を担う大型テーマがない。競争優位性のある新商品が少ない。既存商品の売上は維持できても、利益率が改善しない。投資余力ができても、大きく資金を投じる先がない。
つまり、R&D活動量は多いのに、成長投資先が少ないという状態になる。ここに、テーマ評価制度と経営の成長戦略のギャップがある。
「小粒テーマが多い」のではなく、「小粒テーマを選ぶ制度」になっていないか
成長テーマ不足を議論するとき、「最近の研究者は小粒なテーマしか出さない」という表現が使われることがある。しかし、この見方だけでは問題解決につながりにくい。なぜなら、社員は組織の評価制度に適応するからである。
大きなテーマを提案しても、「顧客は決まっているのか」「市場規模は確実なのか」「この技術は本当にできるのか」「事業部は受け取るのか」と問われ続け、答えられなければ評価されないのであれば、次から社員は答えられるテーマを持ってくる。つまり、テーマが小粒化するのは、提案者の性格だけではなく、制度への合理的な適応でもある。ここを見落としてはいけない。
テーマ評価制度とは、テーマを評価するだけの仕組みではなく、「どのようなテーマを提案すれば評価されるか」を社員に教える仕組みでもある。この論点は後半で、人事評価、審査主体、資源配分との関係まで含めて詳しく検討する。
成長テーマを増やすには、確実性とは別の評価軸が必要になる
では、研究初期では何を評価すればよいのか。「売れるか」「できるか」を完全に無視するわけではない。ただし、それだけでは成長テーマを評価できない。
ここで必要になるのが、「そのテーマは競争優位性を作れる可能性があるか」という視点である。
既存顧客の要望に応えられるかではなく、顧客が競合ではなく自社を選ぶ理由を作れるか。
既存技術で確実にできるかではなく、不確実性を調べるために次の小さな検証を行う価値があるか。こうした問いへ評価軸を変えていく必要がある。
次章では、その前提として、「高い成功率は本当に良いR&Dなのか」を検討する。成功率を高めることと、成長テーマを育てることが必ずしも一致しない理由を整理する。
高い研究開発成功率は、必ずしも優れたR&Dを意味しない
成功率が高いことは、一見すると望ましい
研究開発部門の成果を評価するとき、テーマの成功率や商品化率は分かりやすい指標である。開始したテーマの多くが商品化され、途中で中止されるテーマが少なければ、「テーマ選定が上手い」「研究開発の生産性が高い」と評価したくなる。
もちろん、無計画にテーマを増やし、ほとんどが成果につながらない状態が望ましいわけではない。限られた研究開発資源を使う以上、明らかに可能性の低いテーマを漫然と継続することは避けるべきである。
しかし、研究開発では「成功率が高ければ高いほどよい」と単純には考えられない。特に、研究初期のテーマまでほとんど失敗しないのであれば、別の可能性を考える必要がある。
それは、「そもそも失敗する可能性のあるテーマを始めていない」という可能性である。
成功率を高めようとすると、テーマ選定は確実性に寄っていく
研究開発テーマの成功率を高める最も簡単な方法は、成功しそうなテーマだけを選ぶことである。
顧客がすでにいる。用途が決まっている。必要な技術も保有している。商品仕様もある程度分かっている。既存設備で製造できる。このようなテーマであれば、商品化できる確率は当然高くなる。
一方、新しい市場や用途を探索するテーマでは、開始時点で分からないことが多い。顧客課題の仮説が外れることもあれば、当初想定した用途では価値が出ないこともある。技術的には成立しても、別の用途の方が有望だと分かる場合もある。
このようなテーマを含めれば、テーマ成功率は下がる可能性がある。
したがって、研究開発部門に「テーマ成功率を上げろ」という目標を強く与えると、担当者や管理者は合理的に、失敗しにくいテーマを選ぶようになる。結果として、既存事業の延長線上にある開発案件が増え、不確実性を伴う研究案件が減っていく。
成功率という指標自体が悪いわけではない。問題は、研究と開発を区別せず、同じ成功率で評価することである。
競争優位性のある研究開発テーマとは何か
成長テーマを評価するには、「売れるか」「できるか」以外の物差しが必要になる。その中心に置きたいのが競争優位性である。
たとえば、自社と競合企業が「強度」「軽さ」「耐熱性」「寿命」「価格」という既存の性能軸で競争しているとする。自社がある性能を5%改善しても、競合が同じ方向で追随できるのであれば、長期的な競争優位性にはなりにくい。
F軸とは何か
本稿では、既存の競争軸A〜Eとは異なる、新しい顧客価値の軸を「F軸」と呼ぶ。F軸とは、単なる高性能化ではなく、「顧客が競合や代替手段ではなく自社を選ぶ理由」になる新しい価値軸である。
たとえば材料メーカーであれば、「熱伝導率をさらに高める」は既存性能軸上の競争である。一方、「顧客の評価工程を一つなくせる」「設備投資を不要にできる」「製造ラインの一工程を削減できる」といった価値は、新しい競争軸になり得る。
重要なのは、自社の技術スペックから出発しないことである。顧客が何に困っているのか、どのような作業をしているのか、どのような代替手段で問題を回避しているのかを調べ、その中から未解決課題を探す必要がある。

潜在ニーズは「顧客が言っていない要望」だけではない
潜在ニーズという言葉は曖昧に使われやすい。「顧客自身がまだ言語化していない要望」と説明されることも多いが、それだけでは具体的な探索行動につながりにくい。
そこで着目したいのが、「解決策が存在すると顧客が知らないために続けている行動」である。オンライン会議の仕組みがなければ人は会議のために移動し、配膳ロボットがなければ人が料理を運ぶ。半調理品がなければ、家庭や店舗で材料を切る作業が発生する。
このように、顧客の発言だけでなく、顧客の業務、研究、製造、評価、保守などの行動を観察すると、まだ十分に解決されていない課題を見つけやすくなる。F軸は、その潜在課題に対して、自社の技術資産を使って新しい解決方法をつくることで生まれる。
ROIC経営をR&Dにどう適用すべきか
資本コストを上回る収益を求める経営が一般化する中で、R&Dにも資本効率を求める動きは強まっている。研究開発も企業の資源を使う以上、その投資が将来どのような企業価値につながるかを考えることは必要である。
しかし、ROICという財務指標を研究初期のテーマ評価にそのまま持ち込むと問題が起こりやすい。研究初期では、用途、顧客、市場規模、販売価格、売上、利益などが十分に確定していないからである。
その段階で「何年後に売上はいくらになるのか」「ROICはいくらになるのか」を強く求めると、数字を書きやすいテーマほど有利になる。結果として、既存市場、既存顧客、既存技術に近いテーマが優遇されやすい。
ROICを「競争優位性」に翻訳する
R&DにおいてROIC経営を行う際には、「短期的にROICが高く見えるテーマを選ぶ」と考えるのではなく、次の二つに翻訳すると理解しやすい。
- 既存事業の競争優位性を高めること
- 将来、競争優位性を持つ新しい事業をつくること
この翻訳を行えば、研究開発の初期段階で無理に精密な財務数値を要求する必要はなくなる。代わりに、「このテーマが顧客に選ばれる理由をつくれるか」「競合が簡単に追随できない価値をつくれるか」を段階的に確認していけばよい。

R&Dパイプラインとして管理する
ROIC経営とR&Dを接続するには、一件一件のテーマだけを見るのではなく、R&D全体をパイプラインとして捉える必要がある。
将来必要になる利益から逆算し、どの程度の新商品・新事業が必要になるかを考える。さらに、商品化率、テーマ化率、テーマ候補化率などを考慮し、そのために何件程度のテーマ候補が必要なのかを推計する。

潜在課題の探索からテーマ候補、研究テーマ、開発テーマ、商品・事業へと進む流れを一つのパイプラインとして管理することで、「現在の商品化件数」だけでなく、「将来の成長候補を十分に持っているか」を見ることができる。
なぜ研究段階と開発段階を同じ基準で評価してはいけないのか
ステージゲート再設計の中心になるのが、RとDを分けて考えることである。どちらもR&Dに含まれるが、研究段階と開発段階では仕事の目的が異なる。
研究段階では、何が正解なのかがまだ分からない。顧客課題の仮説を立て、用途を探索し、競合を調べ、技術的な可能性を試す。その結果、最初の仮説が間違っていたことが分かる場合もある。
一方、開発段階では、ある程度用途や顧客価値が見えている。品質、コスト、量産性、納期、販売方法、投資回収などを具体化し、事業化の確率を高めていく必要がある。
研究ステージではそもそも技術は何になるかが不明確、それがステージゲートに反映されているか?
研究段階の目的は「探索と学習」であり、開発段階の目的は「事業化確率を高めること」である。目的が異なる以上、同じ評価基準を使うべきではない。

初期研究テーマに「顧客は決まっているか」「市場規模はいくらか」「収益計画はあるか」と問えば、用途未確定のテーマほど不利になる。一方で、既存顧客向け改良テーマは回答しやすいため、評価を通過しやすくなる。
Rでは探索の幅を確保し、Dでは選択と集中を行う。この二つを両立させることが、成長を目指すステージゲート設計の基本である。
Gate 1で問われるべきこととは?
研究初期のGate 1で問うべきなのは、「このテーマは事業になるか」ではない。「次の小さな検証に投資する価値があるか」である。
たとえば、顧客課題の仮説に一定の根拠があるか、既存の解決手段に不満や限界がありそうか、自社の技術資産を使えば新しい解決方法をつくれる可能性があるか、といった点を確認する。
この段階では、完成した事業計画書を要求する必要はない。必要なのは、次の学習に進むだけの仮説があるかどうかである。
良いテーマを求めるなら、まず「良いテーマが出る会社」に変える
前章まで、研究段階と開発段階では評価目的を分けるべきであること、またステージゲートを「テーマを落とす仕組み」ではなく「不確実性を減らしながら育てる仕組み」として再設計する必要があることを述べてきた。
不確実な研究テーマをどう評価すればよいか
不確実な研究テーマを評価する際には、「計画通り進んだか」だけを見るべきではない。研究では、仮説が変わること自体が重要な学習だからである。
たとえば、想定していた顧客課題が実際には重要ではなかったことが分かった場合、それは単純な失敗ではない。別の課題や用途に方向転換するための重要な情報が得られたと考えることができる。
したがって、研究段階では「何が分かったか」「何が否定されたか」「次に何を変えるか」を評価する必要がある。研究の進捗とは、当初計画への忠実さではなく、不確実性がどれだけ減ったかで考える方がよい。
計画変更を失敗扱いすると何が起こるか
研究開発では、仮説検証によって計画が変わることは自然である。しかし、計画通りに進むこと自体を高く評価すると、提案者は計画変更を避けるようになる。

さらに悪い場合には、否定的な検証結果を積極的に共有しなくなる可能性もある。本来は価値のある学習であるにもかかわらず、計画未達として評価されるからである。
そのため、研究段階では「計画を守ったか」よりも、「学習によってテーマの確度をどれだけ上げたか」を見る必要がある。
しかし、評価基準を変えるだけでは、成長テーマが自然に増えるわけではない。なぜなら、社員がどのようなテーマを提案するかは、日々どのような仕事を与えられ、何を評価され、誰からどのような質問を受けるかによって大きく変わるからである。
ステージゲートは単なる審査制度ではない。社員に対して、「この会社では、どのようなテーマが歓迎されるのか」を伝えるメッセージでもある。たとえば、研究初期の評価会議で、「顧客は決まっているか」「市場規模はいくらか」「何年後に黒字になるのか」「どの事業部が受け取るのか」と毎回聞かれるとする。評価者から見れば、いずれも合理的な質問である。しかし、提案者側から見れば別の意味を持つ。何度か審査を経験すれば、社員は学習する。
既存顧客がいる方が通りやすい。既存事業部が受け取ってくれる方が通りやすい。売上予測を書きやすい方が通りやすい。現在の技術の延長線上にある方が説明しやすい。その結果、制度上は誰も「小さなテーマを出せ」と言っていないにもかかわらず、社員は小さく確実なテーマを出すようになる。
ここに重要な逆説がある。
成長テーマが出ない企業では、「社員が保守的なのではないか」と考える前に、保守的なテーマを出すことが合理的な制度になっていないかを確認する必要がある。テーマ提案は、個人の発想力だけで決まるものではない。評価制度、上司の反応、予算制度、人事評価、異動の自由度など、組織から送られるシグナルによって大きく左右される。
テーマ評価制度を形式的に導入すると、社員が「経営者や審査者が見たいもの」を予測し、それに合わせた提案を作る仕組みになり得ることも指摘されている。したがって、R&Dマネジメントを見直す際の問いは、「なぜ良いテーマが出ないのか」だけでは不十分である。
「現在の制度は、どのようなテーマを出すことを社員に学習させているのか」まで踏み込む必要がある。この視点に立つと、ステージゲート改革は申請書や審査項目の変更では終わらない。社員の行動をどの方向へ誘導するのかという、組織設計の問題になる。
「中止」だけではない。テーマを生まれ変わらせる3つの出口
一般的なステージゲートでは、判断を「GOかSTOPか」の二択で考えがちである。しかし、研究開発ではこの二択だけでは不十分である。
検証した結果、最初に考えていた用途には向かないが、別の用途なら大きな価値があることが分かる場合がある。技術そのものは有望だが、市場環境がまだ整っていない場合もある。
そこで、テーマ評価の出口として次の三つを用意する。

棚入れとは、今すぐ投資を続ける必要はないが、テーマを完全には捨てず、将来の選択肢として保有することである。市場環境や周辺技術が変われば、再び価値が生まれる可能性がある。
生まれ変わりとは、用途、顧客、課題、技術構成などを変え、テーマそのものを再構成することである。研究によって得られた学習を使って、新しいテーマに変換する。
継続とは、仮説検証が進み、次の投資を行う価値があると判断して次のゲートへ進むことである。
重要なのは、この三つを「成功か失敗か」という評価にしないことである。良いステージゲートとは、テーマを殺す仕組みだけではなく、テーマを生まれ変わらせる仕組みでもある。
なぜ既存事業部への移管だけを出口にしてはいけないのか
研究開発テーマの出口を「既存事業部が受け取ること」だけにすると、将来性のあるテーマが途中で行き場を失う可能性がある。
既存事業部は、既存顧客、既存販売網、既存設備、現在の収益責任の中で事業を運営している。そのため、現在の事業とのシナジーが薄いテーマを受け取りにくいのは当然である。
しかし、既存事業部が受け取らないことと、その技術に事業価値がないことは同じではない。技術の用途は発明時点ですべて予測できるとは限らず、市場環境や周辺技術の変化によって、当初想定していなかった用途が成長することもある。
R&Dには複数のEXITが必要である
既存事業部への移管以外にも、新規事業部門での継続、子会社化、JV、カーブアウト、スピンアウト、MBO、事業売却、ライセンスなど、複数の出口を持つことができる。
重要なのは、「自社の既存事業に合うか」だけで価値を判断しないことである。自社よりも適切な事業主体が存在するのであれば、外部化することも企業価値を高める選択肢になり得る。
このように考えると、R&Dの役割は単に新商品をつくることではなく、将来の経営に対して「投資とEXITの選択肢」を増やすことだと捉えられる。

EXITは「失敗処理」ではなく、野心的なテーマを出させるための制度である
研究開発テーマの出口を考える際、多くの企業では「事業部へ移管すること」が暗黙のゴールになっている。既存事業部が受け取れば成功、受け取らなければ中止という構造である。
しかし、この仕組みには大きな問題がある。社員は、テーマ提案の段階から出口を予測するからである。「最終的に既存事業部が受け取らなければテーマは死ぬ」と分かっていれば、社員は最初から既存事業部が受け取りそうなテーマを出す。
つまり、出口の設計はテーマの最後だけではなく、テーマの入口にも影響する。この視点は非常に重要である。既存事業に近いテーマだけが欲しいのであれば、出口を事業部移管だけにしてもよい。
しかし、既存事業の枠を超えた成長テーマが欲しいのであれば、新規事業部門、子会社、JV、カーブアウト、スピンアウト、MBO、事業売却、ライセンス、など、複数の出口を用意する必要がある。
既存事業部では受け取りにくいテーマでも、会社として保有すべきテーマであれば、新規事業部門や別組織で育てることができる。外部資本を入れたり、より適した企業へ売却したりすることも、失敗処理ではなくポートフォリオ戦略として考えることができる。
ここで重要なのは、EXITを「最後に考える処理方法」と捉えないことである。EXITの選択肢があること自体が、「既存事業に合わないテーマでも出してよい」というメッセージになる。
逆に、既存事業部移管しか出口がなければ、「既存事業部が受け取れないテーマは最初から出すな」というメッセージになる。したがって、EXIT戦略はテーマ創出制度でもある。野心的なテーマを求めるのであれば、野心的なテーマが生き残れる出口を用意しなければならない。
上場企業として、社外へのEXITを前提としても良いのか?
結論:してもよい
この議論には違和感がある人も多いと思う。上場企業である以上、社内での事業化を目指して利益を拡大するべきだと言う立場だ。しかしながら上で述べた通り、事業部でのEXIT、新規事業部としての社内事業化を目指せば、かなり限定された範囲でのテーマ提案になっていく。社員は萎縮し、野心的創造的な研究開発テーマは生まれなくなるのが経験則だ。
それよりも、出口がどのようになるのかわからないままでも野心的なテーマを提案させ、ある程度進めたところでどのようにEXITするのかあるいはしないのかを考える事は社員の創造性を維持する上で必要不可欠なマネージメントだ。
社外にEXITをすることで研究資金を回収できれば投資家への責任は果たしたことになると考えた方が良い。そのことを前提に研究開発が活発・野心的に行われる方がリターンが大きいからだ。
新規事業テーマは、「リスクを潰す人」ではなく「リスクを取る責任者」が審査する
テーマ評価制度では、何を評価するかと同じくらい、「誰が評価するか」が重要である。既存事業と新規事業では、評価者に求められる役割が異なるからである。既存事業では、顧客、用途、製造方法、販売チャネルなどがある程度分かっている。
ここでは、品質問題はないか、量産できるか、原価は適切か、納期を守れるか、顧客要求を満たしているか、といったリスクを潰すことが重要になる。そのため、技術、生産、営業など、既存事業を熟知した人が審査することには合理性がある。
しかし、新規事業テーマに同じ審査を行うと問題が生じる。新規事業には、そもそも不確実性があるからだ。顧客がまだ決まっていないこともある。用途が変わる可能性もある。事業部が現在扱っていない市場を狙う場合もある。
そこで既存事業の経験者が、「今の顧客には売れない」「うちの営業では売れない」「うちの工場では作れない」と判断すると、新しいテーマほど落ちやすくなる。そこで、新規事業テーマについては、CEO、CTO、研究所長など、投資責任を負える少数者を評価主体とする考え方が重要になる。
新規事業の審査者に求められるのは、リスクをゼロにする能力ではない。「このリスクは、会社として取る価値があるか」を判断することである。

新規事業テーマについては、CEO、CTO、研究所長などの限られた人が支援し、投資責任を持つ人が評価するという考え方が示されている。理由は明快で、リスクを一つひとつ潰していけば、新規事業テーマはなくなってしまうからである。
また、既存事業と新規事業では審査主体を分けるべきであるという整理もなされている。これは「新規事業を甘く審査する」という意味ではない。リスクを見ることと、リスクを取ることを区別するという意味である。既存事業ではリスク低減が重要であり、新規事業ではリスクとリターンの両方を見て意思決定する必要がある。
この二つを同じ審査会議に載せれば、新規事業側が不利になる。したがって、新規事業を増やしたい企業では、テーマ評価基準だけでなく、評価会議そのものを分ける必要がある。
既存事業テーマの評価
既存事業では、品質リスク、顧客対応、生産性、コスト、既存商品との整合性などが重要になる。そのため、技術、生産、営業など、既存事業の関係者が評価することには合理性がある。
既存事業テーマでは、失敗リスクを減らし、計画通りに商品化することが重要になるため、経験者による厳しいリスクチェックも有効に働きやすい。
新規事業テーマの評価
一方、新規事業テーマでは不確実性が高い。既存市場や既存顧客の経験だけで評価すると、異分野や用途未確定テーマほど理解されにくくなる。
そのため、新規事業テーマでは、CEO、CTO、研究所長など、投資責任を持ち、リスクを取る必要がある人を評価主体とすることが望ましい。重要なのは「リスクをなくせる人」ではなく、「取る価値のあるリスクかどうかを判断できる人」が評価することである。

評価者の質問がテーマを小粒化させる
評価者が「誰が買うのか」「どの事業部が受け取るのか」「市場規模はいくらか」と初期段階から繰り返し問えば、提案者はその質問に答えやすいテーマを提案するようになる。
制度を導入すれば、人は制度に適応する。評価者が確実性を求めれば、提案者も確実性の高いテーマを出すようになる。

したがって、成長テーマが出ないときに、提案者だけを責めるべきではない。評価者がどのような質問をしているか、どのようなテーマを暗黙に歓迎しているかも、R&Dガバナンスの一部として確認する必要がある。
成長テーマを育てるステージゲートをどう設計するか
ここまでの考え方を統合すると、成長テーマを育てるステージゲートでは、ゲートを進むほど「仮説」が「証拠」に変わっていく構造をつくる必要がある。
最初から完成した事業計画を要求するのではない。初期段階では顧客課題や競争優位性の仮説を持ち、小さな検証を重ね、顧客現場に近づくにつれて確証を増やしていく。

Gate 1:顧客課題と差別化仮説をつくる
既存製品や既存サービスでは十分に解決されていない可能性のある顧客課題を、仮説として特定する。同時に、顧客が現在使っている代替手段、競合製品、内製対応、運用回避策などを調べる。
そのうえで、自社技術や自社資産を使えば「顧客が自社案を選ぶ理由」をつくれる可能性があるかを考える。この段階では粗い仮説でよい。
Gate 2:競合調査とF軸を具体化する
顧客課題、競合・代替技術、関連特許、製品仕様、価格帯などの調査を深める。F軸を文章として表現し、どのような試作品や実験で検証できるかに落とし込む。
重要なのは、技術性能だけを検証しないことである。顧客にとっての導入しやすさ、使いやすさ、既存手段との差なども含めて評価仮説をつくる。
Gate 3:顧客候補で仮説を検証する
顧客候補、または顧客に近い社内外の関係者に、ディスカッションペーパーや試作品案を提示する。課題の重要性、現在の対応方法、不満、評価条件などを確認する。
ここでは「自社案が良いと思いますか」と聞くだけでは不十分である。現在の代替手段や競合案と比較し、顧客が何を基準に選ぶのかを把握する必要がある。
Gate 4:実使用環境で価値を確認する
実際の顧客環境で試作品やサンプルを使ってもらい、課題が本当に存在するか、自社案がその課題解決に役立つかを確認する。
競合や代替手段と比較して、導入しやすさ、効果、手間、価格なども検証する。この段階まで進むと、F軸は「選ばれそうな理由」から「顧客が価値を感じることが確認された理由」に変わっていく。
Gate 5:事業として成立する条件を確認する
有償評価や販売を通じて、顧客が実際に予算を使う課題なのか、継続利用やリピートが起こるのかを確認する。また、競合に勝てる条件、負ける条件、価格や導入上の障壁を把握する。
既存事業で扱えるテーマであれば事業部へ移管する。既存事業で扱いにくければ、新規事業として継続するか、別のEXITを検討する。
つまり、ステージゲートを進むにつれて、
「選ばれる可能性がある」
↓
「選ばれる理由を仮説化できた」
↓
「顧客候補が価値を感じた」
↓
「顧客現場で価値が確認された」
↓
「実際に顧客がお金を払った」
という形で、競争優位性の仮説を証拠へ変えていくのである。
この考え方であれば、初期段階で未来を正確に予測する必要はない。必要なのは、各段階で何を学び、どの不確実性を減らすのかを明確にすることである。



R&Dマネージャーが確認したい7つのチェックポイント
自社のステージゲートを見直すとき、最初から制度全体を作り替える必要はない。まず、次の七つを確認すると、どこに問題があるのかを把握しやすい。
- 研究初期から顧客確定、市場規模、売上計画を求めていないか
- 研究段階と開発段階で同じ評価項目を使っていないか
- 「売れるか・できるか」だけでテーマを選んでいないか
- 既存性能軸上の改良を差別化と呼んでいないか
- テーマの出口が「継続か中止か」の二択になっていないか
- 既存事業部が受け取らないテーマを自動的に中止していないか
- 既存事業テーマと新規事業テーマを同じ人が同じ基準で評価していないか
複数に該当する場合、テーマ創出研修だけを実施しても、成長テーマは増えにくい可能性がある。テーマ創出、テーマ評価、人事評価、資源配分、審査主体を一体として見直す必要がある。
よくある質問
ステージゲートの代表的な問題点は何か
代表的な問題は、研究初期の不確実なテーマに、開発後期と同じ確実性を要求してしまうことである。その結果、既存顧客向けの改良や短期で商品化できるテーマが優先され、成長可能性のある不確実なテーマが入口で落ちやすくなる。
研究段階でも市場規模や売上計画を評価すべきか
まったく見なくてよいわけではないが、初期段階で精度の高い市場規模や売上計画を要求することには注意が必要である。研究初期では用途や顧客が変わる可能性が高いため、「事業計画の精度」より「次の検証に進む価値があるか」を重視する方がよい。
研究テーマを中止する判断はどうすればよいか
「継続か中止か」の二択にしないことが重要である。今は投資しない「棚入れ」、用途や顧客を変える「生まれ変わり」、次へ進む「継続」という複数の出口を設けると、研究で得た学習を失いにくくなる。
ROICをR&Dテーマ評価に使ってもよいか
ROICの考え方を使うこと自体に問題はないが、研究初期テーマに短期財務指標を直接当てはめると、確実な小粒テーマへ偏りやすい。R&Dでは、ROIC向上を「既存事業の競争優位性を高める」「競争優位な新事業をつくる」と翻訳して使う方が適している。
既存事業と新規事業で同じステージゲートを使えるか
制度の枠組みを共有することは可能だが、評価基準と評価主体は分けた方がよい。既存事業ではリスク低減や事業計画の確実性が重要である一方、新規事業では探索、学習、競争優位性仮説の検証が重要になる。
ステージゲートの審査者は誰が適切か
既存事業テーマでは技術、生産、営業など既存事業関係者が中心でよい。一方、新規事業テーマでは、CEO、CTO、研究所長など、投資責任を持ち、取る価値のあるリスクかどうかを判断できる人が中心になることが望ましい。
R&Dの最終成果は「商品」ではなく、経営が選べる投資機会である
ここまで議論してきた内容を経営の視点から捉え直すと、R&Dの役割そのものが変わって見える。R&Dの成果を「何件商品化したか」「いくら売上を作ったか」だけで評価すると、どうしても短期の商品化案件が有利になる。しかし、研究開発の役割はそれだけではない。
経営環境は常に変化する。数年後に会社が積極的な成長投資を行える状況にあるかもしれないし、財務環境が悪化し、投資を抑えなければならない可能性もある。R&D部門が、その将来を正確に予測することはできない。
だからこそ、R&Dに求められるのは、「今、どのテーマに必ず投資するかを決めること」ではなく、「将来、経営が投資したいと考えたときに選べるテーマを準備しておくこと」である。研究段階では低い投資額で幅広いテーマを探索し、顧客課題、用途、競争優位性、技術可能性を検証しながら選択肢を増やす。開発段階では、経営環境や事業戦略を踏まえ、有望テーマへ資源を集中する。
既存事業で扱えるテーマは既存事業へ移管し、既存事業では扱えないが価値のあるテーマは、新規事業や外部EXITへつなぐ。こう考えると、R&Dは単なる商品開発部門ではなく、「どこへ投資できるか」「どの市場へ進出できるか」「どの技術を外部化できるか」「どの事業を独立させられるか」という将来の選択肢を経営に提供する部門になる。
この考え方に立つと、ステージゲートの目的も変わる。テーマを減らすことが目的ではない。研究段階で十分な選択肢を作り、その選択肢について学習し、経営が投資判断できる状態まで育てることが目的である。
したがって、成長型のステージゲートは、「R段階では選択肢を増やす」「D段階では選択肢を絞り込む」「必要に応じて既存事業以外のEXITへつなぐ」という構造になる。これが、「研究では広く薄く、開発では選択と集中」という考え方の経営上の意味である。
R&Dテーマが不足している企業では、ゲートを厳しくする前に、「研究段階で経営の選択肢を十分に増やせているか」を確認する必要がある。そして、選択肢を増やすための探索時間があるか、探索活動が評価されているか、新規事業を適切な人が審査しているか、既存事業以外のEXITがあるかまで一体として見る必要がある。
ステージゲート改革とは、審査制度の改善ではない。R&Dを、将来の経営選択肢を継続的に生み出す仕組みへ変えることである。本稿が、自社のステージゲート、テーマ評価、人事評価、資源配分、R&Dガバナンスを見直す際の一つの材料となれば幸いである。



