IPランドスケープによる技術・知財戦略の策定をどのように進めるか?

この記事の概要
企業で実施する知財戦略について、研究開発部門との関連性に触れながら、どのような知財サービスを実施していくべきかを解説しています。

知財戦略とは?

当社は、知財戦略とは、研究開発テーマ創出や技術戦略の立案を知財面から支援する活動だと定義しております。

この定義は非常に重要だと思っています。というのも、戦略というのは、文書だというイメージがあるかもしれませんが、実態は「活動」だからです。

知財戦略においては、技術、経営、知財の「三位一体」の協力関係が大切と言われるように、技術部門と知財部門の共同活動を通じて共創されます。

技術戦略というのも「活動」ですが、技術部門と知財部門の共同活動成果の知財面が知財戦略、技術面が技術戦略というのが良いと思います。

技術戦略についてはこちらをご覧ください。

知財戦略で参考になるコラム

知財が大切というのはウソである
知財力の本質とはどのようなものか
自分が分かる知財戦略こそ重要だ

弱みを克服し、強みを守る知財戦略を実現する

最初に既存事業の知財戦略について説明します。

競合がいるとすると、競合の保有する特許によって実施できない機能がある場合もあります。そうした場合、その事業は弱みをもっています。

逆に、自社の特許によって競合が実施できない機能があるとすると、その事業は強みを持っています。

自社知財の強みと弱みを把握するには?

自社の強みと弱みを克服するには、以下の図のように技術(商品の特徴)ごとに特許の質・量を評価し内容を確認することが必要です。

抵触回避によって実施できない機能が事業の弱みとなり、そのまま放置されることがあると、性能に大きな差が出てきます。

自動車などの複雑な商品になればなるほど、こうした強みや弱みが複数の場所に存在し、市場に出る商品の売れ行きに影響が出てきます。

弱みを克服し、強みを守る知財戦略とは?

そこで必要になるのが強みを伸ばし、弱みを克服する知財戦略です。つまり、自社の特徴の商品を模倣させずに、他社品の特徴を取り込むことができるように研究開発を進めるということです。

こうした手法は、知財部のリードによって行うことが必要です。このような手法を特許ポートフォリオ分析と言います。知財情報と市場情報を組み合わせて現在の事業のパワーアップを図る方法です。

新規事業を立案する知財の力で助けるには?

次に、新規事業について説明します。

研究開発部門で新規事業を立案することもありますが、知財はどのようにそのプロセスを活性化することができるのでしょうか?

前提として、そもそも、上記に記載のような攻めと守りの知財の形成をリードする活動ができていなくてはいけません。というのは、新規事業の立案は難易度が相対的に高いからです。

攻めと守りの知財の形成がリードできていないのに、新規事業の立案はできません。

コア技術の抽出

知財情報によって、技術戦略策定の際に行う自社コア技術の抽出を支援することができます。

技術の棚卸しには3通りの方法がありますが、技術ごとに競争優位性を評価する必要があります。強い技術の用途を調査することにより新規事業を創出するためです。

棚卸しの方法には、後工程を見据えて実施する必要があり、コツがあります。知財的な面で検討した結果でも、コア技術がないケースにどのように対処するかも含めて検討しなければなりません。

用途の調査

自社のコア技術を抽出できたら、次は用途の調査です。用途の調査は知財情報が最も得意とするところです。

自社のコア技術をベースとして、どのような用途や市場があるかを探索します。探索する上ではコツがありますが、かなりの確率で未知のものが出てきます。

サプライチェーンや工程の調査

BtoB事業の場合、お客様が自社商品をどのように使っているのかを把握する必要があります。

サプライチェーンの調査においては知財情報は使わないことがほとんどです。どのような工程やサプライチェーンの中でお客様が自社商品を生産しているのかを綿密に把握しておく必要があります。

そして、そのサプライチェーンや工程がどのように変化していくのかを予想しておくことが重要です。なぜなら、その工程やサプライチェーンの要望が、将来のニーズだからです。

お客様の課題の調査

次はお客様課題の調査です。ここでは知財情報が活躍します。

お客様課題とは、お客様が研究開発した結果を把握するものです。研究開発した結果は知財情報となっていますので、知財情報を紐解くことでお客様の課題が把握できます。

上の図のように、自社商品をベースとして検索式を策定し、潜在課題のデータベースを策定します。

特許データベースの中を分類していく作業をして、以下のような図を作ることでお客様の課題や解決策が把握できます。

上記のようにすると、お客様課題を解決する別の方法が見つかり、お客様のニーズを先取りする商品を企画できると言うわけです。

データベースからの分類作業はの付加は高いものの、技術者が分担して行うことでお客様のニーズに鋭敏になるなど別の効果も得られます。

作業を技術者は嫌がるケースもありますが、新規事業テーマを立案する見通しと共に作業を依頼することで、プロジェクトを一緒に回すことができます。

競合の分析

知財部はこのようなリードをすることで感謝されることになります。

知財戦略を実現するサービスとは?

知財サービスは、攻めと守りの2種類あります。それぞれ、分けて書くとこんな感じになります。わざわざ「サービス」とは呼ばないにせよ、コーポレートの業務はサービスですから、サービスを提供する意識で実施したいものです。

攻めの知財サービス

1.技術動向調査サービス
2.顧客課題探索サービス
3.⽤途探索サービス
4.競合調査サービス
5.新規・技術調査サービス
6.知財DDサービス(デューデリジェンス)

守りの知財サービス

7.先⾏技術調査
8.審査請求前調査
9.抵触防⽌調査
10.無効資料調査

知財戦略で参考になるコラム

以下のコラムも参考になりますので、時間があればご覧ください。
本当の知財経営を実現するための方法
高収益にするための【特許請求の範囲】作成の留意点
高収益企業の技術者が特許出願をする時の留意点
高収益企業の弁理士との付き合い方
最小の努力で最大の知財を得るための秘訣

知財部が「知財が弱い」と言われる理由とは?

技術者が「当社は知財が弱い」と言うことがありますが、いかに強力な弁理士や知財担当者を配置しようと、生まれる発明が良くなければ良い権利を取れるはずはありません。

競馬の世界では、馬の力が8と言われます。騎手の力は2しかなく、馬の力を引き出すものでしかありません。

技術部門と知財部門の関係もこれと同じです。

知財力が弱いのではありません。
技術力が弱いのです。

知財戦略は、上述の通り技術戦略等を支援する活動ですから、その弱さとはすなわち、テーマ創出や技術戦略を立案しようとする力の低下そのものです。

例えば、競争優位性に関して、技術部門で行われている検討を見てみましょう。

競争優位性構築に関する課題

競争優位性とは、継続的に儲かる理由です。儲かるためには、競合とは顧客価値が違っていなければなりません。実現する戦略としてコストリーダーシップによるものと、差異化によるものがあります。

企業では主に差異化が検討されます。そのため、差異化に関して、企業でどのような検討がなされているかを見ていきましょう。

①差異化に関する共通理解がないケース
差異化に関して、技術部門で共通理解がないケースではどうなってしまうでしょうか?例えば、「競合と同じ性能軸10%性能向上」というテーマがあったとすると、それは差異化になるのでしょうか?
 → 仮にこれをOKとすると、既存テーマが通ってしまいます。
 →そのため、大した知財が取れません。
②差異化した性能軸の必要性を感じていないケース
別のケースとして、必要性を感じていない場合があります。
「⾃社に技術者がいないから差異化できないのは仕⽅ない」とするものです。
それを認めてしまっていいのでしょうか??
 → これをOKとすると、既存テーマ通ってしまいます。
 →そのため、大した知財が取れません。

このように、共通理解がなかったり、必要性を感じていなかったりで、結局の所差異化されないことが多くあります。

経営者が実現したいこととは、つまり 儲かることです。
知財の役割は、経営者の期待を実現することです。

①や②のケースでテーマを通してはダメなのです。なぜなら、大した知財が取れない、イコール儲からないからです。知財サービスを守りのみで「できたものの権利化」と捉えていれば、①や②のケースではテーマを検討するタイミングであまり良いことが言えないでしょう。

IPランドスケープの強化を図る必要性は?

知財戦略の類義語として、IPランドスケープがあります。知財部が情報を活用して技術部門の戦略立案を支援するというものです。

IPランドスケープに関する記事

IPランドスケープに関する解説記事

参考となるコラム

高収益企業での知財管理体制とは
知財戦略とは何か
「知財は大切」だというのは、ウソである
高収益企業の知財の全体像

効果的な知財戦略にするための研究開発テーマ創出とは?

テーマごとの知財戦略を立てようと思えば、テーマが必要です。それも、知財が取れそうなテーマ(=独自性のあるテーマ)が必要です。

「独自性がある(進歩性がある)」というのは幅が広いのですが、競合他社と差異化されていて、かつ差異化要素が顧客価値になるというポイント設定が必須です。

上図は横軸が技術軸で既存か新規か、縦軸が市場軸で既存か新規かで分かれています。

収益低下ゾーンでは知財戦略もできない

大した知財戦略ができないゾーンとして、Dゾーンがあります。上の図に示すように、既存顧客・既存技術の範囲内ではできる知財も大したことはありませんし、テーマの創出においてはDゾーンは収益低下ゾーンとしています。

読者の方の研究開発部門がDゾーンばかりにあり、知財もDゾーンに集中しているとすれば、知財的にも大きな問題がありますし、会社は長期的に収益低下すると考えていいでしょう。

良い知財戦略につながりそうなテーマの創出は?

D以外に、AやBを示していますが、このような新規技術軸や新市場軸が出てくると知財の質も高まりますし、新市場での知財形成の必要性が出てきます。その必要性に答えるのが知財戦略として必要となります。

そのようなテーマ創出の手法として、技術の棚卸しによるテーマの創出法があります。上にも書きましたが、これは、自社の技術をベースにしてその用途を探索しようとするものです。詳しくはこちらもご覧ください。

その他のお役立ち記事

実践的な技術戦略の立て方その② 顧客視点での技術の棚卸し
実践的な技術戦略の立て方その③ 用途の探索

儲かる知財戦略・技術戦略とは?

経営者にとって重要なのは、「儲かるのか?」です。誰がなんと言おうと、この儲かるのか?に答えられるかどうかは重要です。研究開発部門全体として、この「儲かるのか?」という問いに答えるのが技術戦略・知財戦略です。

現場でつくる知財戦略・技術戦略が大事な理由

技術戦略には、全社レベルのもの、事業レベルのもの、商品レベルのものがあります。全社レベルの技術戦略は事業レベルのものの集合体です。

一般的に、戦略は上位のもの(全社戦略)から下位のもの(商品戦略)になっていくと思われがちですが、実際は違います。

実際は、現場で商品戦略が活発に立案されており、それらの取捨選択をするのが全社戦略です。単純なトップダウンではなく、ボトムアップ&トップダウンです。

そのため、上記のテーマ創出や商品単位の知財戦略はきっちりと現場で回している必要があります。

「当社には戦略がない」「企画部門が戦略を作らないから悪い」という現場の嘆きは、要するに現場で大した新規テーマの創出をしていないということの裏返しです。

ということは、有用な全社技術戦略・知財戦略を立案するためには、事業部や商品開発の現場で効果的な活動ができるようになることが極めて大事です。現場力の強化こそ、知財戦略の鍵といえます。

事業部や商品開発の現場で効果的な活動ができるようにできるようになったら?

そのような現場でできるようになったら、次は全社技術戦略ができるようになります。現場で大したテーマがないのに仕分けをすることはできませんが、現場で有望なテーマが上がっているということであれば、そのテーマに集中的に資源を投下することができるようになるのです。

テーマの絞り込みに関して、詳しくは技術戦略のページもご覧ください。

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備考
「IPランドスケープ」は正林正之氏の登録商標です。