IPランドスケープの解説記事

本記事は、株式会社如水(高収益技術・知財経営のコンサルティング会社)による、IPランドスケープという用語の解説記事です。

IPランドスケープに取り組みたいという方は、前半部をお読みください。
IPランドスケープという言葉については、下記記事の前半部をお読みください。

関連コラム

以下のコラムも参考になりますので、ご覧ください。

前半(企業の知財活動について)

以下では、特に知財部門が「IPランドスケープ」に取り組む際の注意事項をまとめています。IPランドスケープという用語の意味については、後半部をご覧ください。

IPランドスケープとパテントマップ、技術戦略

「IP」、「IP」というと、知財情報が先に立ってしまいがちですが、IPランドスケープという言葉を、企業経営者にしっくり来るように理解するため、企業経営の目的から振り返りましょう。

企業経営の目的は、顧客価値の創造です。顧客価値を創造した会社は、独自の商品やサービスを提供しているので儲かるようになります。難しく言うと、競争優位になります。

競争優位を維持する条件の一つに知財の取得があります。また、独自の顧客価値となるかどうかは、競合との差異化に成功するかにかかっており、これには知財情報の活用が必要です。

「IPランドスケープ」と書くと、「IP」が先にくるため、知財部門が前面に立ちそうですが、要するに経営者にとっては、これから投資しようとするテーマに競争優位性があるかの見通し(ランドスケープ)を持ちたいということです。

見通しには、知財情報は重要であることが多いですが、それが十分条件ではない場合もあるし、必要条件でもない場合もあります。ケースバイケースであることを、バズワードの「IPランドスケープ」で捉えると、理解が困難になります。

見通しをもつ手段として、高収益企業では技術戦略を立てます。技術戦略についてはこちらをご覧ください。

技術戦略は、10年、20年の中長期的な将来に渡って、技術による顧客価値と競争優位性を作ろうとする活動です(※「技術による」、と書くと技術的極限ばかりでトレンド無視という誤解を与えそうですが、そうではありません)。

技術戦略を立案する過程で、従来からパテントマップというものが使われていました。この記事はパテントマップの解説記事ではありません。用途ごとにいろいろなマップがありますが、ここでは詳細は説明しません。

まともな技術戦略(※)を作る場合には、知財情報は不可欠であることがほとんどです。技術戦略策定に役立つ資料をパテントマップ呼ばれていました。

※「まともな技術戦略」の対義語として、企業内には次のような言葉があります。
①「絵に描いた餅」・「夢ばかりで現実性がない絵」…社員の研修等で、将来のあるべき姿・夢を提案させてまとめた資料
②「上に説明するためにとりあえず今のテーマをまとめた資料」…代替わりした社長等の新任経営者に技術部門について説明するために、現在の研究開発テーマをとりあえずまとめて、市場データを寄せ集めた資料、根拠が薄弱で関係者に自信が持てない。

ここでIPランドスケープと、技術戦略、パテントマップということばをおさらいしておきましょう。

  • 「IPランドスケープ」とは、競争優位をつくるために知財情報を有効活用することです。企業内の活動という意味です。
  • 競争優位をつくるための方法として、「技術戦略」を立てることがあります。戦略は文書であることが多いです。
  • 技術戦略を立てるために知財情報をまとめたものが「パテントマップ」というわけです。

上記で、IPランドスケープは「競争優位を作るための知財情報有効活用」であることを明確にしました。次の項目では、IPランドスケープの目的をどのように設定するか、もう少し詳しく見ていきましょう。

IPランドスケープは誰の活動なのか?

IPランドスケープは「競争優位を作るための知財情報有効活用」ですが、注意しなければならないのは、意思決定の主体が技術部門・技術者や経営者であることです。

知財情報が重要な役割を果たすのに、意思決定の主体は、殆どの場合、知財部ではないのです。ここがIPランドスケープを難しくする理由の一つです。

「IPランドスケープ」は知財部の活動でありながら、知財部が主体ではないという、一見難しそうな課題を生じます。

余談:起こりがちな課題

このパラグラフは、横道にそれた話題なので読み飛ばして結構です。

これは、企業における特許出願と同じです。一般的に、出願・維持・権利行使の主体は技術部門ですが、管理は知財部でやります。知財部で一元管理はするが、主体は他部門にあるのです。技術部門の知財意識を高めたり、出願を促進したりするために、知財部門では研修をしたり、リエゾン(知財担当者)が現場支援したりしています。

そうして起こりがちなのが、知財が受け身になってしまうという現象です。受け身になり、技術部門全体を見ないと時間を誤った仕事に投入してしまいます。例えば、重要性の低い案件に、1件の発明提案書の処理に時間を費やすことを「仕事」と捉えてしまうことになります。

端から見れば、技術者にやらせることが、技術者の教育のためにもなるし、知財がもっと付加価値の高い仕事に時間を費やせるのに、そういうことをしてしまうと、技術者も育たず、知財部も付加価値の高い仕事ができません。

断っておきますが、Aランク案件(重要度の高い案件)に知財部が時間を費やすのは大事です。上記の話は、Cランク案件(重要度の低い案件)に限った話です。

IPランドスケープの活動主体

考えてみますと、特許の出願も技術部門が主体で、知財部門は主体ではありません。IPランドスケープも同様です。

IPランドスケープの活動主体は、あくまでも技術部門です。知財部門はその支援ができる立場に過ぎないことを明記する必要があります。

ただし、支援者である知財部が黙っていればいいというわけではないことも、以下に記載してありますので、ご関心があればお読みください。

IPランドスケープに取り組む知財部の実施事項

知財部が主体ではない。技術部門が主体なのに、IPランドスケープを促進しなければならない知財部門が何をしなければならないかといえば、非常に簡単です。

最初は、需要の喚起(ニーズを起こすこと)です。

どういうことかといえば、経営者や技術部門が「どんなことができるか」を分かっていないのに、需要を喚起することはできないということです。

メニューのないレストランでは注文ができないのと同じです。もしあなたの会社でIPランドスケープができていないとすれば、あなたの会社の知財部には、出願・中間処理・年金管理などのメニューしか並んでおらず、技術部門や経営者は注文ができない状態であることを銘記しなければなりません。

例えると、技術部門からは、知財部はこういう風に見えるのです。
回らない・メニューのない寿司屋で、満席で大将が忙しそうにしている状態。あなたはカウンターに座った一人のお客様です。

食べたくても、頼みづらいでしょ。

「こんなことができますよ」という提案型の仕事のスタイルをイメージしなければなりません。意思決定のイメージを提示することで、技術者や経営者は要望を出せるようになってきます。

寿司屋でも「今日はいいヒラメが入ってるよ」と言われれば頼んでみようかな、と思いますよね。

一般的に、需要の喚起には、IPランドスケープのサービスメニュー化と説明会が必要です。

そして次のステップに進みます。

次は、特許情報等の分析の標準化・リエゾン育成です

パテントマップを作ることはソフトウェア等のツールで、一昔前ほど難しい技術ではありません。

しかし、作りなれないマップをオーダーメイドで作るのは容易ではありません。技術戦略を企業単位で作る場合、事業部ごとに作る場合、研究開発テーマごとに作る場合もあります。

どのようなマップを作れば、どのように意思決定に役立つのか、きちんとデザインをしなければなりませんし。そして、知財部のリエゾンがそれをできなければならないのです。当然、マップや作業の標準化やリエゾンの育成も必要になります。

このことを、またお寿司屋さんに例えると、大将が板場に立てる板前さんを育てることに例えられます。

標準化の項目としては以下のものがあります。

  • ブランクスライドの考え方と意思決定標準
  • 特許のデータベースの作り方(検索式、母集団)
  • マップの作り方(ニーズマップ、潜在課題マップ、用途マップ)
  • 知財以外の情報ソースと提示方法
  • 知財部のリードの仕方

その次は、高度な意思決定の支援です

IPランドスケープは、最初は、個別の研究開発テーマの支援からスタートします。個別支援ならば、気の利いた知財リエゾンは自分の付加価値として実施している場合があります。

話が事業レベルになってくるとレベルが上がります。当然国内だけではなく海外も対象になってきます。事業レベルの技術戦略を支援できるようにレベルアップが必要です。

最終的には、事業レベルから企業レベルの技術戦略の支援にレベルアップをする必要があります。

技術戦略全体をリードできるように、知財面から支援するというスタイルが求められます。こうなると、知財部の視点は劇的に変わります。

経営者と同じ視点に立って、情報を編集する専門家という視点です。競争優位を作るという目的に対して必要な情報は、ケースバイケースで判断ができるようになるし、そういう情報を入手する方法についても、経験で分かるようになってくるということです。

後半(IPランドスケープという用語について)

「IPランドスケープ」という用語の語源

IPランドスケープの語源はほとんど知られていませんが、造語であると思われます。当社では以下のように定義しています。

IPランドスケープとは、競争優位をつくるために知財情報を有効活用することです。

当社定義

2019年現在では、IPランドスケープは、知財部が主導またはサポートする、研究開発部門の技術戦略策定のための意思決定支援活動を指す言葉として理解されています。

IPランドスケープの類義語として、以下のようなものがあります。

知財戦略
知財戦略とは、知財企画を実践することを含めた知財に関する企業戦略です。解説記事はこちらをご覧ください。

パテントマップ
パテントマップは、知財企画を実施するために使用するための特許情報の可視化ツールです。

日本での「IPランドスケープ」

知財スキルスタンダートでのIPランドスケープ

2017年、特許庁の公表した知財スキルスタンダードで「IPランドスケープ」が登場します。「IPランドスケープ」という用語は、特許庁が最初に発表したのかどうかは分かりませんが、企業経営者にとってはどうでも良いことです。

特許庁による知財スキルスタンダードの説明

知財人材スキル標準(以下、「知財スキル標準」)は、企業における知的財産の創造・保護・活用に関する諸機能の発揮に必要とされる個人の知的財産に関する実務能力を明確化・体系化した指標であり、知財人材育成に有用な「ものさし」を提供しようとするものです。


知財スキルスタンダードでは、IPランドスケープのスキルは以下のように定義されています。

以下について、事業部門/知的財産部門/研究開発部門と連携し、業務を行うことができる。
①ミッションおよび貢献すべき課題
・事業への貢献を行うため、以下の全社的課題について貢献した。
・新規事業の創出
・既存事業の維持/成長
・既存事業の縮小/撤退
②業務内容
以下の業務を複数回成功裡に行った。
・知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析
・企業、技術ごとの知財マップ及び市場ポジションの把握
・個別技術・特許の動向把握(例:業界に大きく影響を与えうる先端的な技術の動向把握と動向に基づいた自社の研究開発戦略に対する提言等)
・自社及び競合の状況、技術・知財のライフサイクルを勘案した特許、意匠、商標、ノウハウ管理を含めた特許戦略だけに留まらない知財ミックスパッケージの提案(例:ある
製品に対する市場でのポジションの提示、及びポジションを踏まえた出願およびライセンス戦略の提示等)
・知財デューデリジェンス
・潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的な市場ポジションを提示する。
③知識
②業務内容を実行するため、以下の知識を有している。
・ビジネス(経営学の基礎理論等を含む)とそのトレンドに関する知識
・オープン&クローズ戦略
・市場の視点からみた技術のトレンドに関する知識(IoT,AI,革新的製造技術・手法等)
④能力
②業務内容を実行するため、以下の能力を有している。
・自社の業界および関連する様々な業界の企業動向、技術動向を把握する能力
・競合等の特許出願動向や、特定技術からビジネス上のインパクトを把握する能力
・複数の技術・アイデアをパッケージ化して自社の将来戦略と整合させた上で提案する能力
・業務に有用な情報システムを適切に選択し活用することができる能力
⑤経験
・新規事業を担当した経験
・M&Aに携わった経験
・経営戦略部門での経験

特許庁の公表する知財スキル標準についてはこちらをご覧ください。

日経新聞でのIPランドスケープ

日本経済新聞は2019年5月13日にIPランドスケープという用語の解説をしています。

IPランドスケープ 

IPはIntellectual Property(知的財産、知財)の略語で、広い意味では、知財を生かした経営を指す。具体的には企業の知財部門が主体となり、自社や他社の知財を中心とした情報を市場での位置づけ、競合関係を含めて統合的に分析し、グラフや模式図を使って経営陣や事業担当者に戦略の切り口を提供する活動をいう。欧米の知財先進企業に定着しており、17年ごろから日本企業にも広がり始めた。

出典:日経新聞

書籍でのIPランドスケープ

2019年3月にはIPランドスケープという概念が書籍にまとまりました。

IPランドスケープ経営戦略

日本経済新聞出版社

リンクはこちら

日本経済新聞出版社による書籍の説明

企業の競争力の源泉として知財が注目を集めるようになってから、20年近くが経とうとしている。しかし多くの日本企業では、知財部門と経営とが相変わらず分離してしまったままだ。
知財の重要性がますます高まっているにもかかわらず、グローバルな先進企業との差は縮まっているとは言いがたい状況だ。

そんな現状を覆すキーワードとして、最近注目されているのがIPランドスケープ(Intellectual Property Landscape:IPL)という手法だ。

最も広い意味では知財を中核に据えた経営そのものであり、最も狭い意味では経営に生かすための知財情報を中心とする分析手法を指す。

本書は、このIPランドスケープを軸に、日本企業の知財戦略のあり方について提言したものである。

著者:IPランドスケープ経営戦略研究会
杉光 一成氏 (すぎみつ・かずなり) 代表
KIT虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院)イノベーションマネジメント研究科 教授
川邊 光則氏 (かわべ・みつのり)
岩谷産業 中央研究所 部長(知的財産担当・東京)
小林 誠氏 (こばやし・まこと)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー シニアヴァイスプレジデント
佐藤 貢司氏 (さとう・こうじ)
三井化学 知的財産部 情報調査グループ チームリーダー
山内 明氏 (やまうち・あきら)
三井物産戦略研究所 技術・イノベーション情報部 知的財産室 室長
上記は、日本経済新聞出版社の記載によります。

IPランドスケープは登録商標

なお、「IPランドスケープ」は登録商標となっています。

登録6000370 (商願2017-059055)
商標権者 正林真之

まとめと余談

お読みいただきありがとうございました。

上記の通りIPランドスケープをまとめてきたのですが、前半部はほぼ完全に経営者目線で書いています。

というのは、これが最も自然な姿だと考えるからです。知財業界では、「知財戦略」とか「パテントマップ」などのバズワードが流行っては廃れていきましたが、IPランドスケープも同じでしょう。

IPランドスケープが知財部のための活動になってしまうと必ず廃れるでしょう。意味がありません。研究開発部の需要喚起が肝要なポイントであり、技術戦略そのものです。

目的のないままにマップを作っても経営者にとって意味がないからです。IPランドスケープに限らず、企業経営の目的は一つです。顧客価値の創造。もう一歩具体化すると、こうなります。

IPランドスケープの目的は競争優位の構築です。

この競争優位の構築という目的に沿えば、IPランドスケープだろうが、技術戦略だろうが、パテントマップだろうが呼び名はなんだっていいわけです。

要は、経営者が納得できるか。そして結果的に競争優位が作れるのか、これに尽きます。

活動を始める際には、バズワードに踊らされることなく、上記の目的をよく考えていただきたいと思います。

知財企画に関するコンサルティングカタログのご案内

当社は、上記の様な活動を、リエゾン(知財部員)の育成を中心に取り組んでいます。

研究開発ガイドラインにまとめていますので、ご利用ください。 ↓

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